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「イスラム国(IS)」の攻撃42%増 アサド支援のロシアは軍事ネットワークを拡大

木村正人在英国際ジャーナリスト
アサド政権支援のロシア シリア反体制派に空爆攻撃(写真:ロイター/アフロ)

7~9月のIS攻撃は1086件

国際軍事情報会社IHSジェーンのテロリズム&反乱センター(JTIC)によると、今年第3四半期(7~9月)に過激派組織「イスラム国(IS)」が世界で起こした攻撃回数は1086件に達した。1日平均の攻撃回数は第2四半期(4~6月)の8.3件から42%増の11.8件に急増した。

ISの攻撃マップ(IHSジェーン提供)
ISの攻撃マップ(IHSジェーン提供)

非戦闘員の死者は2978人で1日平均32.4人、前期比で65.3%も増えた。攻撃の83%(902件)はISが勢力を広げてきたイラクとシリアに集中しており、前期比で235件増。非戦闘員の死者は1780人(全体の60%)を数えた。

いずれも公式発表や報道などのオープンソースで確認された件数で、実数はもっと膨らむ。同センターのマシュー・ヘンマン所長は 「世界規模で見るとこの3カ月間、ISは支配地域をほとんど拡大していない。その代わり、すでに支配下に置いた地域を強固にする戦略を維持している」と分析する。

包囲網は強化されているものの、ISは広げた地歩を固める戦略に徹しており、弱体化していない。このためISは支配地域を拠点に攻撃を仕掛ける能力を保っており、住民の日常生活を危険と不安に陥れることができるという。空爆を繰り返す有志連合より、地を這うように戦闘を続けるISの方が戦況を正確に把握している。

ISはイラクやシリアに加えて、エジプト、リビア、イエメン、アフガニスタン、パキスタン、ナイジェリア、サウジアラビア、北コーカサス、アルジェリアでも領土を主張している。ナイジェリアでは、3月にISに忠誠を誓ったイスラム過激組織の「ボコ・ハラム」(現 Wilayat Gharb Afriqiyya)の攻撃でシリア以上の死者を出している。

「ナイジェリアや境界を接する国々で、IS系過激派組織は市民を狙った大量殺害作戦を展開している」とヘンマン所長はいう。

英米の主要メディアはIS最高指導者アブ・バクル・アル・バグダディ・アル・フッセイニ・アル・クレシ(以下バグダディ)が空爆で重傷を負ったか、死亡したと報道した。イラク空軍も10月に入って、バグダディが乗った車両部隊を空爆したと発表したが、情報の真偽は確認されていない。もし仮にバグダディが殺害されたとしても、世界各地で次々と新たな指導者が生まれているのが現状だ。

ISではなく反政府軍を集中爆撃するロシア

ロシアのプーチン大統領によるシリア空爆は9月30日から開始されており、今回の発表にその影響は含まれていない。米ワシントンにあるシンクタンク、戦争研究所(ISW)によると、ロシアがシリアのIS支配地域を空爆した回数は限られており、大半が反政府軍が支配するイドリブやホムス周辺に集中している。

今月20日、ロシア軍と米軍の攻撃機が空中で不意に出くわすのを避けるため、航空安全ガイドラインの覚書が米露間で交わされた。これはそれぞれの空域を定めたことになり、シリアのアサド政権の支配領域を確定させることにつながる。「アサド抜き」というシナリオは消えたことになる。

それどころかシリア軍事介入を機に、プーチン大統領は関係国との軍事ネットワークを一気に拡大しようとしている。

【キューバ】

ISWの報告書によると、14日に米政府高官が、キューバの準軍事組織や特殊部隊がシリア政府軍と一緒に戦うためにシリアに派遣されたと非公式に発言。ロシア国防省首脳が2国間の軍事協力を協議するため駐モスクワ・キューバ大使と面会。

【アフガニスタン】

15日にはアフガニスタンへのロシア大統領特使が「兵器(攻撃ヘリ、ミル24)を供与すれば、米部隊以上にアフガン政府を助けられるだろう」と発言。

【イスラエル】

同日、ロシア国防省がシリア領空でイスラエル空軍の攻撃機と衝突しないようにホットラインを設置したと発表。

【イラン】

16日には、10月末にイラン軍の上級将校が2国間の軍事協力を協議するためモスクワを訪れると発表。

【カザフスタン】

同日、プーチン大統領が旧ソ連諸国の指導者たちと合同の国境警備隊を創設することで合意。カザフスタンとアフガンの国境に合同警備隊を展開する可能性がある。

【エジプト】

19日、イワノフ大統領府長官がエジプトに対して計10億ドル相当のヘリとヘリ空母2隻を売却する考えを表明。

【ジョージア】

同日、ジョージア(旧グルジア)から事実上独立した南オセチア共和国のチビロフ大統領がプーチン大統領側近と会談中、ロシア編入を問う住民投票を実施する頃合いだと発言。

【イラク】

同日、駐バグダッド・モスクワ大使がイラクのアバディ首相と会談。情報機関の情報共有や武器取引を含めた2国間関係を呼びかける。

【ベラルーシ】

21日、北大西洋条約機構(NATO)の東欧諸国での活動に対応するため、ロシアとベラルーシは2016年に「合同軍事機関」を創設することを計画しているとショイグ・ロシア国防相が発表。

来年の米大統領選を控え、完全にレームダック(死に体)となったオバマ大統領を横目に、プーチン大統領はシリア軍事介入を機にロシア国外での影響力拡大を一気呵成に進めようとしている。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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