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小林節先生、それでも安全保障関連法案は「合憲」です

木村正人在英国際ジャーナリスト

反対63%、賛成35%

合憲か違憲かで紛糾している安全保障関連法案について、筆者が6月15~21日にかけグーグルフォームを使って簡易アンケート(回答数550件)を実施したところ、反対63%、賛成35%と反対派が圧倒的多数を占めた。

筆者作成
筆者作成

安倍政権を支持するは36%で、支持しないが64%。安全保障関連法案の審議をめぐり安倍政権への不信感が高まっていることをうかがわせた。

同

安倍政権を支持しないという回答の96.8%(338件)が安全保障関連法案に反対。逆に安倍政権を支持する人の95.8%(181件)が安全保障関連法案に賛成していた。

同

「違憲だから反対」

性別では女性の93.2%(193件)が安全保障関連法案に反対。男性は賛成53.8%(178件)、反対46.2%(153件)だった。

同

年齢別では下のグラフのような感じになる。

同

安全保障関連法案に反対する理由は、憲法違反だから172件(46%)、安倍政権だから129件(35%)が圧倒的に多かった。

同

衆院憲法審査会で憲法学者3人が安全保障関連法案について「違憲」と指摘、東京新聞の取材に歴代内閣法制局長官4人が「違憲」と述べたことで反対論がさらに強くなった。

もともと集団的自衛権の議論は複雑だ。今回の安全保障関連法案は11法案もあり、すべてをうまく説明するのは難しい。そんな状況で専門の憲法学者や歴代内閣法制局長官が「違憲」と断言すれば、世論は「違憲」に一気に傾く。

小林先生は護憲的改憲派

筆者は、安全保障関連法案は「違憲」と明確に言い切った小林節・慶応大学名誉教授のゼミに非常勤講師として参加していたことがある。小林先生はもともと護憲的改憲派。産経新聞も一昔前までは、小林先生と主張を一にしていたと言うより、産経新聞の改憲論は小林節先生の護憲的改憲論からスタートした。

民主党の岡田克也代表と党首討論する安倍首相(左、首相官邸HPより)
民主党の岡田克也代表と党首討論する安倍首相(左、首相官邸HPより)

そもそも問題は、安倍晋三首相が集団的自衛権の行使を容認するため憲法解釈を変更すると宣言したことから始まった。

今では憲法改正を政治目標に掲げる安倍首相だが、元駐タイ大使で外交評論家の故・岡崎久彦氏に近い解釈改憲(憲法改正の手続きを経ずに、解釈変更で憲法の内容を変えること)派である。

国家安全保障会議(NSC)の谷内正太郎国家安全保障局長は岡崎氏とともに、安倍首相のお気に入り、保守派の稲田朋美・自民党政調会長が主宰する「伝統と創造の会」で勉強会を開いていた師弟の間柄。

首相が宣言しさえすれば集団的自衛権の解釈は一夜にして変更できるというのが岡崎氏の持論だ。今回、憲法解釈がどう変わったのか、筆者なりに説明を試みたい。

集団的自衛権「違憲」の背景

集団的自衛権の問題は最初、在日駐留米軍が攻撃を受けたとき、日本は自衛権の発動として武力を行使できるかという形で議論された。日本国内だから、個別的自衛権に当たるという解釈になった。

1950年代、60年代には地理的な距離が大きな意味を持った。自衛隊が海外に展開する能力も余裕もなかった。集団的自衛権が「違憲」で、個別的自衛権は「合憲」と仕分けする際、日本領土内なのか、それ以外なのかが大きな境目になった。

55年体制の万年野党・社会党を納得させるための方便である。それがソ連崩壊とともに、さまざまな形で対米協力が求められるようになった。自衛隊の活動が他国領土や公海で可能なのか否かが争点になってきた。

内閣法制局は時の政権の要請に応じて「武力行使と一体化しない後方支援」や「非戦闘地域」であれば他国領土でも自衛隊は活動できるという理屈をひねり出した。

武力の行使の地理的範囲は「必ずしもわが国の領域に限定されず、公海およびその上空にも及び得る」というのが政府見解だ(下のテーブルのピンク色部分)。しかし、公海やその上空で、いったい何ができて何ができないのか明らかにするのは難しい。

筆者作成
筆者作成

完全に違憲なのは、武力行使の目的をもって自衛隊を他国の領域に派兵することだ(赤色の部分)。テーブルの白い部分は自衛隊の武力行使や活動が認められている。

大量破壊兵器やサイバー空間の発達

しかし、大量破壊兵器やサイバー空間の急速な発達で、わが国と密接な関係にある他国への武力攻撃によって、わが国の存立が脅かされ、国民の生命・自由・幸福の権利が根底から覆されるケースが想定されるようになってきた。

同

日本国憲法は自国防衛の権利を否定していない。そこで、今回の解釈変更では地理的範囲でなく、「他国防衛」と「自国防衛」に整理し直し、「他国防衛」のための武力行使はしない(赤色の部分)という形にした。

ホルムズ海峡の機雷掃海

しかし、安倍首相が集団的自衛権行使の事例として「ホルムズ海峡の機雷掃海」を挙げたことから話が混乱してしまった。

交戦中か、停戦後か、イラン領海なのか、オマーン領海なのかで話は随分変わってくる。交戦中にイラン領海で機雷を掃海すれば明らかな戦争行為である。オマーン領海であってもイランとの戦争に巻き込まれる恐れが出てくる。

「石油不足」が存立危機事態になるか否かも大きな論争を呼んだ。安倍首相とNSCの谷内局長、兼原信克・国家安全保障局次長の突出が事態を混乱させてしまった。「地球規模の日米一体化」が100%自国防衛の範囲内に留まると説明するのはたやすいことではない。

また、イランの核開発やシリア問題、過激派組織「イスラム国」対策で同国が米国との対話路線に舵を切っている時、日本がイランを念頭にわざわざ「ホルムズ海峡の機雷掃海」を例に挙げ、集団的自衛権を議論する外交的センスも政治的センスも筆者はまったく理解できない。

イランはもともと親日的な産油国である。「ホルムズ海峡の機雷掃海」という想定を議論する暇があるなら、日本はイランとの対話にもっと積極的に関わった方が賢明だ。

基準の明確化を

自国防衛のためなら必要最小限の集団的自衛権行使は厳格な条件のもと認められるという考え方は基本的に「合憲」である。

これまでの安保法制は基準が明確化されていたのに対し、今回の安全保障関連法案では地理的制約が取り除かれ、何が「自国防衛」に当たるのかはっきりしない問題が残っている。

にもかかわらず、「早く質問しろよ」と野党議員にヤジを飛ばすなど、安倍首相の乱暴な答弁が混乱に拍車をかけてしまった。与党から野党に政権が交代した際、破棄されてしまうような安全保障関連法案では将来に大きな禍根を残す。

憲法がフルサイズの集団的自衛権行使を認めていないのは明らかだ。安倍政権は国会審議を通じて、安全保障関連法案の基準の明確化に努め、できるだけ多くの国民の理解を得る努力を怠ってはならない。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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