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中国の脅威に「防衛費GDPの1%」はいつまで通用するか

木村正人在英国際ジャーナリスト

東シナ海や南シナ海で圧力を強める中国に対し、安倍晋三首相は3年連続で防衛費を増やし、新年度予算で過去最高の4兆9801億円を確保した。

財務省、防衛省資料から筆者作成
財務省、防衛省資料から筆者作成

昨年夏の概算要求は5兆545億円だったが、「国内総生産(GDP)の1%」を意識して絞り込んだ形だ。海や空の守りを固める自衛隊の主な調達は次の通り。

(1) 周辺海空域の安全確保

財務省資料から
財務省資料から

固定翼哨戒機P1の取得20機、3504億円

新早期警戒機E2Dの取得1機、232億円 イージス艦の建造1隻と2隻分のシステム調達、1680億円

潜水艦の建造1隻、643億円

滞空型無人機(グローバルホーク)システムの一部取得、154億円

(2) 島嶼(とうしょ)部攻撃への対応

財務省資料から
財務省資料から

航空優勢の獲得のため戦闘機F35A取得6機、1032 億円

迅速な展開・対処能力向上のためティルト・ローター機V22取得5 機、516 億円

水陸両用車AAV7の取得30両、203 億円

中国に対する航空優勢の切り札とされるのがステルス戦闘機F35A。攻撃機、戦闘機、艦上機の役割を統合したため開発費が予定より増え、安倍首相の経済政策アベノミクスによる円安で調達費が膨れ上がる。

防衛省資料から筆者作成
防衛省資料から筆者作成

2012年度予算の概要

4機で395億円。1機当たり99億円弱

その他シミュレーターの取得経費として205億円を計上。

13年度予算の概要

2機で299億円。1機当たり150億円弱

国内企業参画に伴う初度費として別途830億円を計上。国内企業が製造に参画するとともにF35の国際的な後方支援システムに参加。その他関連経費(教育用器材等)として別途211億円を計上。F35Aの配備(三沢)に向けた教育訓練施設の整備のための調査工事。

14年度予算の概要

4機で638億円。1機当たり160億円弱

国内企業参画の範囲を拡大することに伴う初度費として別途425億円を計上。その他関連経費(教育用器材等)として別途383億円を計上。F35Aの配備(三沢)に向けた教育訓練施設等の整備27億円。

15年度予算の概要は――。

6機で1032億円。1機当たり172億円

国内企業参画の範囲を拡大することに伴う初度費として別途177億円を計上。その他関連経費(教育用器材等)として別途181億円を計上。

円安が進む中、やはり米国頼みの戦闘機は高くつく。

それでも実質1%減

しかし、国際調査会社IHSのCraig Caffrey上級アナリストは「日本の防衛予算はしかし、実質では1%のマイナス」と厳しい。

Caffrey上級アナリストによると、中期防衛力整備計画(2014年度~18年度)で防衛予算には総額23兆9700億円の枠が設けられている。14、15年度で計9兆8660億円使ったから、残り3年間の防衛予算は年平均で4兆7010億円になる見通しだ。

世界銀行の予測では7%の経済成長が16年まで続く中国の国防費はすごい勢いで膨張している。アジアでは断トツの状態だ。

アジア太平洋の国防支出の推移(SIPRIデータから筆者作成)
アジア太平洋の国防支出の推移(SIPRIデータから筆者作成)

東シナ海の尖閣問題を抱える日本にとっては世界最大の軍事大国・米国との連携強化は欠かせない。

日米中の国防支出の推移(同)
日米中の国防支出の推移(同)

英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)はちょうど1年前、2030年代の半ばには中国の国防費は米国に追いつくと分析。中国が実際に軍事力で米国と肩を並べるのは50年ごろと予測した。

米国防総省が昨年公表した中国の軍事力に関する年次報告書によると、中国人民解放軍は射程7400キロメートルの潜水艦発射弾道ミサイルを新型の晋級原子力潜水艦に配備。近海用の小型艦を急速に増やしている。

13年9月には東シナ海で初めて無人偵察機が運用された可能性があり、20年ごろまでには強襲揚陸艦を建設する見通しだ。中国人民解放軍は、東シナ海や南シナ海での「潜在的有事」に備え、軍事力と演習を強化しているという。

防衛費GDPの2%は現実的か

中国に対する日米同盟の軍事的な優勢をできるだけ長く持続するため、このところ日本の外務省・防衛省関係者から「日本の防衛費も北大西洋条約機構(NATO)並みにGDPの2%にする必要がある」という声が聞かれるようになった。

日本のGDPを500兆円とすると、防衛費がGDPの1%から2%に増えると5兆円の増額である。社会保障費が膨張する中、どこからそんなオカネが出てくるのかという問題が最初にあるが、日本の防衛はもっと深刻な問題を抱えている。

軍事情報誌IHSジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーのジェームズ・ハーディ・アジア太平洋担当エディターに電話取材した。

――日本の防衛費がGDPの2%に引き上げられる現実味はありますか

ハーディ氏「日米同盟のおかげで日本は攻撃的兵器や核兵器を米軍に依存できるため、数十億ドル、いや数兆ドルの費用を節約している。日本にはいろいろな政治的なハードルがあり、2%というのは極めて難しい数字だ」

――では1%を超えると思いますか

「防衛予算の専門家ではないのでわからないが、日本は周辺海空域の安全確保、島嶼防衛などすでに取り組んでいる能力を増強し続けるだろう」

「水陸両用の能力向上、米海兵隊とのダブル・デッキング(筆者注、海上自衛隊の護衛艦を海兵隊の艦上機のホスト役として運用すること)も考えられる。島嶼防衛にはF35Aより短距離離陸・垂直着陸型のF35Bの方が適している」

――F35Bはとても高い(上院歳出委員会の見積ではF35Aは1機当たり1億4800万ドル。F35Bは2億5100万ドル)ですね。日本の課題は他にありますか

「日本の海上自衛隊は英海軍の2倍の大きさですが、少子高齢化の影響で艦艇の乗組員を維持するのに苦労している。乗組員不足に対応するため、オートメーション化に取り組んでいる」

今後10年内に中国の空母は3隻に増える可能性がある。これに対して米国は11隻、このうち3隻が削減されるという最悪シナリオもささやかれている。

中国、韓国との関係改善が日本にとって最善の安全保障だ。

しかし、その前提として、集団的自衛権の限定的行使を容認し、運用面で日米同盟を強化してスキをつくらないことが日本が進む現実的な道であり、アジア太平洋の安定に寄与すると筆者は確信する。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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