ソロス氏「アベノミクス、消費税増税が試練」「ユーロ問題はドイツが離脱すれば解決」
試練の消費税増税
1月のダボス会議で安倍晋三首相に会ったあと、日本株売りを仕掛けているというウワサが世界を駆け巡った著名投資家、ジョージ・ソロス氏が12日、ロンドン市内で記者会見した。
安倍首相の経済政策アベノミクスというより、日銀の黒田東彦総裁の異次元緩和について、ソロス氏は「これまでのところ非常に良くやっている。短期金利も長期金利(0.62%)もゼロに近い」と評価した。
異次元緩和の危険性について、(1)長期金利が上昇(2)緩和策が失敗に終わり、デフレが継続――することを挙げ、この2つの間の狭い道を進むリスクを伴う金融政策だと指摘した。
「リスクはまだ存在するが、日銀と政府が近い関係を保ち、これまでのところうまく管理できている。しかし、4月の消費税増税分を賃金上昇でカバーできるかどうか大きな試練を迎える」
1月の国際収支速報によると、財貨・サービスの輸出入差額を総合的に示す経常収支は1兆5890億円の赤字。1985年以降、1カ月間の赤字幅は過去最大となった。経常赤字が4カ月続くのも初めてのことだ。
円安が進行しても輸出量が増えず、逆にエネルギーの輸入コストがかさむ。財政赤字と経常赤字の「双子の赤字」を懸念する声が強まる中、4月の消費税増税でアベノミクスは正念場を迎えそうだ。
この日の記者会見は、ソロス氏の新著『欧州連合(EU)の悲劇 崩壊か復活か?』の出版に合わせて、シンクタンク「欧州外交評議会(ECFR)」で行われた。
ウクライナにマーシャル・プランを
ロシアのプーチン大統領がクリミアに介入したウクライナ問題について、ソロス氏は「必要なのはロシアに対する制裁ではなく、ウクライナに対するマーシャル・プランだ」と強調した。
マーシャル・プランとは第二次大戦後、米国の援助によって行われた欧州復興計画。ソロス氏はEUの対応について、「今回の危機に十分準備ができていなかった。ドイツのリーダーシップの下、EUはウクライナに多くを要求する代わりに、ほんの少ししか提案しなかった」と非難した。
「プーチン大統領はEUより条件の良い提案がやりやすかった。しかし、プーチン大統領の計算違いは法の支配、人権を求めたウクライナ国民の反応だった。ウクライナは欧州に属するというアイデンティティーを明確に示した。決定的な瞬間だった」
「ウクライナはEUに対する目を覚ませ!という警鐘だ。ウクライナ国民は自ら進んで尊い命を犠牲にした。EUは問題を直視すべきだ。了見の狭い国益に固執するのか、欧州の結束を重視するのか。EUは原点に立ち戻って自らの使命を再考すべきだ」
ハンガリー出身のソロス氏は私財を投げ打ってオープンソサエティ財団を創設、旧共産圏の民主化に取り組んでいるだけに、緊縮財政にこだわり、欧州の危機をどんどん広げているメルケル独首相の対応が歯がゆくて仕方がないようだ。
ドイツこそユーロを離脱せよ
欧州単一通貨ユーロについて、ソロス氏は「ドイツは最小限のことしかしていない。ユーロは脆弱な同盟だ。債権国と債務国に二分している。イタリアのような債務国がユーロから離脱すればデフォルト(債務不履行)に陥り、債務が一気に膨張、債務国にもユーロにもさらに深刻な問題をもたらす」と指摘する。
「逆にドイツがユーロ圏から離脱すれば、強い通貨マルクを再び手にできる。残ったユーロ圏は通貨が切り下げられ、競争力を取り戻せる。調整が早く終わる。他の債権国が離脱しても同じ効果がもたらされる。債権国と債務国がそれぞれ北部ユーロと南部ユーロを結成するのが解決策の一つだ」
「ドイツが権力を握り、力の不均衡がもたらされている。ドイツ議会がスペインに従えと言ったところで、スペイン議会は従うのはドイツの方だと言い返すだけだ。ドイツがユーロ圏の政府債務の共有化に応じられないのなら、ユーロを2つに分けるしかない」
ソロス氏は「英国がEUを離脱したら、仕事がなくなるだけだ」と突き放した。
「ユーロ危機は無知がもたらした危機だった。当局も市場も複雑な問題を理解していなかった」と振り返り、「EUが今すぐに崩壊する可能性はない。しかし、適切な手を打たないと、崩壊のプロセスは10年、20年かけて進んでいくだろう」と警鐘を鳴らした。
(おわり)