究極の産業革命「サーキュラー・エコノミー」は実現するのか?

映画 『Closing the Loop』特別上映会の模様(筆者撮影)

サーキュラー・エコノミー(circular economy 循環型経済)という言葉をご存じだろうか。

これまでの大量生産、大量消費を前提とした経済システムが「直線型」なのに対して、単なる3R(リユース、リデュース、リサイクル)を超えて、リペアもアップサイクルも含めた形で究極的な環境負荷ゼロの「循環型」を目指す経済システムのこと。気候変動や資源枯渇への懸念が深刻化する中、いよいよもってサーミュラー・エコノミー(以下CE)実現への機運が高まってきた。

強制でも義務でもない 成長の源泉としてのCE

3Rなどと聞くと、企業にとっては「またコストアップの要素か…」と嘆く向きがあるかもしれない。しかし、CEは企業の利益を食いつぶすコストなどでは決してなく、むしろ利益をもたらし、かつ地球環境を守ることを目指すものとして認識されつつあるのだ。

サーキュラー・エコノミーは、企業にとって強制でも義務でもなく、新たなイノベーションを生み出し、コストを削減し、社会からの信頼を得て成長できる源泉です。

2018年10月に横浜市で開かれた第2回世界循環経済フォーラム(WCEF2018)で、日用品大手のユニリーバ・ジャパン・ホールディングス代表取締役の北島敬之氏は、こうはっきりと語った。

同社は、2010年にいち早くサステナビリティを目指す経営計画「持続可能な生活計画」を策定。2015年にはすべてのオフィスと工場で使用する電力を100%再生可能エネルギー化するなど、同計画の8割を達成している。また、2025年までにすべてのプラスチック容器・包装を、リユース・リサイクルできる素材に変更できる見通しだという。

コカ・コーラも2030年までに包装の半分をリサイクル素材とするとともに、すべてのボトル・缶の回収・リサイクルを目指す取り組みを進めていることが報告された。グローバル企業を中心に、国際的なプラスチック使用規制に対応した動きが活発になっており、CEの機運向上を後押ししていると言えるだろう。

2018年10月に横浜市で開かれた第2回世界循環経済フォーラム。フィンランドのシンクタンクが主導して開催されたこのフォーラムには、日本の環境省も共催した(筆者撮影)
2018年10月に横浜市で開かれた第2回世界循環経済フォーラム。フィンランドのシンクタンクが主導して開催されたこのフォーラムには、日本の環境省も共催した(筆者撮影)
日用品大手の花王もブース参加。詰め替え容器を本容器に移し替えずにそのまま使えるシャンプーポンプなど、容器包装削減の取り組みを紹介していた(筆者撮影)
日用品大手の花王もブース参加。詰め替え容器を本容器に移し替えずにそのまま使えるシャンプーポンプなど、容器包装削減の取り組みを紹介していた(筆者撮影)

EUはCEを強力支援 ベンチャーの動きも続々

CEに取り組むのは、グローバル企業ばかりではない。フォーラムでは、EU(欧州連合)によるCE推進の政策パッケージを通じて、多種多様な業界でベンチャー企業がCEに取り組む事例も紹介された。例えば、

―リサイクル可能な建築廃材のデータバンク化

―自家用車だけでなく、公共交通も含めた自動配車システム

―容器や素材の製造情報(原材料や製造時CO2排出量など)を辿れる「見えないバーコード」の開発

など、フォーラムでは日欧から12の企業が自社のビジネスモデルを紹介。その後は各テーブルに分かれて、各社のビジネスモデルの改善余地などについて意見交換するワークショップも開かれた。

ワークショップの様子。容器や素材の製造情報を辿れる「見えないバーコード」を開発した企業の担当者に、参加者からは熱心な質問が飛び交っていた(筆者撮影)
ワークショップの様子。容器や素材の製造情報を辿れる「見えないバーコード」を開発した企業の担当者に、参加者からは熱心な質問が飛び交っていた(筆者撮影)

EUは、2018年から2020年までの2年間でCEにつながる研究プロジェクトに対して総額10億ユーロの資金協力を実施する予定。革新的なビジネスモデルの構築から市民への啓発まで、CEで世界的な主導権を得るべく大きく舵を切っている。

SDGs達成のカギはサーキュラー・エコノミーにあり

2019年に入ると、世界初のサーキュラー・エコノミーをテーマとした映画『Closing the Loop』が日本でも特別上映された。

上映会&トークセッションの様子(2019年3月東京都内、筆者撮影)
上映会&トークセッションの様子(2019年3月東京都内、筆者撮影)

映画上映と並行して、徳島県上勝町のサステナブルなまちづくりを先導するNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーの坂野晶理事長、環境印刷のパイオニア大川印刷の大川哲郎社長、先進的な消費財リサイクルシステムをグローバル展開するTerraCycleのエリック・カワバタさんという、サーキュラー・エコノミーをグローバルで、あるいはローカルで実践するパネラーの方々のディスカッションも行われた。

映画では、ベルギーの大学などで教鞭を取るサステナビリティの国際的な専門家であるWayne Visser教授が、サーキュラー・エコノミーの5つの戦略的要素であるreduce(削減する)、reuse(再利用)、recycle(リサイクル)、renew(刷新する)、reinvent(再構築する)

について、グローバルに事業として展開する代表的な企業の取り組みを紹介されている。

画像

2020年までに廃棄物ゼロを掲げるカーペット会社の米インターフェイス社、機械製品の修理・再生を手掛ける南アの複合企業バルロワールド社、リサイクル繊維のパイオニアである蘭ダッチアウェアネス社――。いずれも、環境に負荷を与える現在の経済システムのループを「閉じて」、サーキュラー・エコノミーの実現に向けて先頭に立つ企業だ。

映画の中で、ある経営者がサーキュラー・エコノミーについてこう表現していた。

「最高の教育的価値があり、人々の健康にもつながる。すべての人にとって良いもの」

これはまさに、SDGs(持続可能な開発目標)につながるものだろう。SDGsの達成には、サーキュラー・エコノミーの実現が不可欠だということが実感できる作品である。

映画「Closing the Loop」予告映像

ただし、CEの実現に向けた現実は複雑だ。これ以上の地球温暖化の進展を抑えるには、2050年に向けて世界のCO2排出量を半減させなければならないとされている。一方で、世界の人口の30%が基本的なニーズを満たしておらず、30%増えると予想される中産階級の生活ニーズを賄う必要がある。どうすれば貧困層の生活ニーズを賄いながら、環境へのインパクトを最小限に抑える経済システムを構築できるのかーー。昨年行われたWCEF2018でも、この壮大な命題を前に「われわれは課題を過小評価していないか」という厳しい意見が聞かれた。

究極の産業革命とも言えるCE。すべての経済活動がCEに適ったものになっているか。この地球に住むビジネスパーソンとして、一人の消費者として、問い続けなければならない大きなテーマであると言えるだろう。