昨年末から本格的に始まった地方創生。その取り組みの背景になったとも言える『地方消滅』(中公新書)の編著者で、元岩手県知事の増田寛也氏(日本創生会議座長)のお話を聞く機会があった。

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私は実は、地方創生の実現には少々懐疑的だ。増田氏のお話を聞いた後の今もそれは変わらないが、何をすれば地方創生が成功するかがはっきりと分かった。

女性たちが喜んで地方に行く・戻る流れをつくること

だ。それはなぜか?

『地方消滅』は、2010年から40年の30年間で20‐39歳の女性人口が5割以下に減少する自治体を「消滅可能性都市」とした上で、急激な人口減少によって2040年に日本の約半数の自治体が消滅する可能性があると指摘している。出産可能な若年女性の動向にフォーカスして地方の衰退をリアルに予測したため、全国の「地方」と言われる自治体に危機感を抱かせるに十分なインパクトがあったと思われる。

要するに、若年女性が都会から地方に行く、あるいは一度都会に出ても再び戻って来るようにしなければ、地方消滅は避けられないわけだ。では、どうすればいいか。増田氏は「農林漁業で必要とされているさまざまな競争力向上の施策を取ること。でも、それだけでは不十分で、プラスしてこれらの産業で若い女性がいきいきと活躍できるようにしなければならない」と話していた。

しかし、その際の最大の壁になりそうなのが、日本社会に、とりわけ地方にはまだまだ根強いと思われる「女性は子どもを産み、出産したら家庭に入るべき」あるいは「女性は男性より前に出るべきではない」とする意識ではないだろうか。意欲と能力にあふれているのに、そのような意識を嫌って仕事を求めて都会に出ていった、身に覚えのある女性たちは決して少なくないだろう。多様な考え方やライフスタイルの選択肢を封じ込められてしまいそうな雰囲気を前に、都市部で育った女性たちが地方での生活を躊躇してしまうとすれば、その気持ちも大いに理解できる。

女性のライフキャリアをめぐる選択の自由、さらには女性の自己決定権や不妊の増加などの背景を持った出産というセンシティブなテーマに正面から向き合わなければ、地方創生の成功はおぼつかないはずなのだ。しかし、ここまでの地方創生をめぐる議論の中では、多様な背景を持った女性たちが真に活躍できる社会の土壌づくりが欠かせないという視点がきちんと提起されているとは言い難い。増田氏も「(女性をめぐる社会の意識改革なくして地方創生はうまくいかない、と)薄々気づいている人たちはいるものの、きちんと議論できていない状態だ」と認めていた。

政府は地方創生の長期ビジョンの中で「2060年に1億人程度の人口を維持する」との目標を掲げているが、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来人口推計」の予測では*約8700万人にとどまる。ある程度の減少は避けられないものの、急激な変化によるひずみをできるだけ小さくするためにも、女性たちが喜んで地方で活躍し、その延長線上に出産・育児を両立できるような環境づくりに今すぐにでも着手しなければならないはずだ。

*出生、死亡いずれも中位推計の場合

幸い「山ガール」(登山を楽しむ女性たち)や「林業女子」(林業に積極的に関わる女性たち)など、若い女性たちが中山間地域に出向くきっかけとなる動きが生まれている。子育てや介護と仕事との両立を可能にする長時間労働是正に向けたワークスタイル改革の議論も、広がりこそすれ、衰えることはもはやないだろうという段階に来ているように見受けられる。

これから地方では、一次産業振興にしても、企業誘致にしても、それぞれの成功に向けた手順を踏むだけでなく、「どうすれば、そこで女性たちが喜んで活躍できるか」を合わせて考えて実行することが欠かせない。そうすることはすべて、男性が今よりも選択肢の多いライフスタイルを手にして、男女がともに協力しながら人口減少時代を豊かに生きていけることにもつながるはず。そんな視座をまずは社会全体で共有することが、地方創生の成功への第一歩ではないだろうか。