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「結果ではない」プロ野球合同トライアウトの舞台裏。夢と現実を分ける境界線とは。

木村公一スポーツライター・作家
写真:岡沢克郎/アフロ

【評価はトライアウト前に済んでいる】

 打者では新庄剛志氏、投手では日本ハムを退団した宮台康平投手が印象に残った今年のプロ野球12球団合同トライアウト。さて彼ら含むどれだけの選手が、再びNPBのユニフォームを着られるか。ただ現実は厳しい。

 NPB各チームには、編成部という部門があり、チーム戦力の管理を行っています。その中にスカウト部門があり、アマの選手をチェックしていますが、他チームのプロ選手をチェックする「プロスカウト」という役職もあります。どのチームでも1名か2名程度ですが、このプロスカウトがシーズン中に他チームを視察してまわり、トレードやFA選手の情報を収集していきます。それは1軍のみならず2軍や最近は独立リーグもチェック対象となっています。 

 数年前にドラフト上位で入団したのに、なかなか伸びてこない。1軍で使われない。その理由はどこにあるのかといった技術面はもちろん、試合に出ていなければその理由も調査します。故障なのか、ときには首脳陣とトラブルがあって干されているといったケースもあります。3年から5年経った選手なら、環境を変えることで変わる伸びシロがあるかどうか。まれですが家庭環境など、突っ込んだところまで調べることもあります。そうした情報をもとにして、自軍の補強ポイントと重ね合わせていくわけです。つまりプロスカウトにとって他チームの選手の評価は、ほぼシーズン中に出ているのです。

 その上でのトライアウトですから、プロスカウトの担当者たちにしてみれば、正直言って最終確認にもなりません。すでに獲るか獲らないか、獲る対象は誰かなど、始まる前にほぼ絞っているわけです。

 それだけに査定はシビアです。

 スタンドで見ながら、打者なら、「ああ、足下に曲がり落ちる変化球。ボール球なのに平気で振ってる。相変わらず見えてないな」とか、投手なら「内角のコントロールが甘い。結局、今年はずっとこのパターンだったから1軍にあげて貰えなかったんだよな」などとぼやいていたりする。

 無論、選手の側からしてもそうしたことは承知のはずです。わずか数打席、数人相手のマウンドで再評価して貰えると思っている選手はいないと思います。だからでしょうか。最近は「入るためのトライアウト」のみならず「野球を辞めるための踏ん切りを付ける」ために受験するという選手も多くなったと言います。実際、この合同トライアウトに合格し、2軍はもとより1軍に定着し復活した選手が、果たしてどれだけいたか。

【スカウトが着目しているポイント】

 ただ、トライアウトに決して夢がないわけではありません。獲る選手かどうか、ある程度絞っていると記しましたが、それでもボーダーラインの選手はいる。その選手を改めて見ることもまた、トライアウトの大事な機会なのです。

 以前、ある球団のプロスカウトから、こうした話を聞いたことがあります。

「トライアウトは落とすテストではなく、拾う(ピックアップする)テストです。ならば“あ、コイツは取っておきたいな”“野球辞めさせるのは惜しいな”と思わせてくれるアピールをして欲しい」

 例えば打者なら、いかに快打を放ったとしても、相手投手は1軍のそれではなく、戦力外となった同じ受験生。合格するなら打って当たり前、最低条件です。投手もしかり。

「だから僕らが求めているものは結果ではないんです。勿論、凡打や四球は論外ですが内容というか、いうなれば姿勢であり準備ですね」

 合同トライアウトが開催されるのは、毎年、オフの寒くなったこの時期。戦力外となった選手たちからすれば、1、2ヶ月は実戦感覚から遠ざかっています。スイングの鋭さも、身体の動きも、ボールのキレも、シーズンのようにはいきません。ただそれもプロスカウトは織り込み済みです。

 だから結果より、内容。姿勢であり、準備なのだというのです。

「打者なら苦手なコースや球種に食らいつくようにスイングする姿は、こちらにアピールするものがあります。寒いから身体が十分に動かない。でも凡ゴロでも全力疾走すれば、プロに残りたいと思う気持ちは伝わってきます。投手なら、自分の最も得意な球種だけ、例えば全部ストレートで投げ切るとか。技術面はもう評価が出ている選手たちです。となれば最後は精神面しかないと思います」

 どれだけプロ野球の世界に残りたいともがくのか。その思い。

「ただ最近の若い選手は、案外、諦めが早い。テストなのに自分から“合格できっこないかな”と思わせるような雰囲気を醸し出していたりしますからね」

 プロ野球という夢の世界に生き残れるのか。それとも戦力外という現実を改めて突き付けられるのか。その分かれ目は、案外、些細な違いなのかも知れない。そしてそれは、彼らの世界に限ったことではない気がする。

スポーツライター・作家

獨協大学卒業後、フリーのスポーツライターに。以後、新聞、雑誌に野球企画を中心に寄稿する一方、漫画原作などもてがける。韓国、台湾などのプロ野球もフォローし、WBCなどの国際大会ではスポーツ専門チャンネルでコメンテイターも。でもここでは国内野球はもちろん、他ジャンルのスポーツも記していければと思っています。

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