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今月だけで“3度の表彰” イ・ボミの日本での「功労」は一体何が評価されたのか?

金明昱スポーツライター
日本プロスポーツ大賞で功労者賞を受賞したイ・ボミと石川佳純

 岸田文雄首相とまさか言葉を交わすとはイ・ボミも思っていなかっただろう。今季限りで日本ツアーを引退した韓国女子プロゴルファーのイ・ボミが、12月だけで日本で3度も表彰された。

 21日に都内ホテルで行われた「第53回内閣総理大臣杯 日本プロスポーツ大賞」の授与式典には岸田首相、日本プロスポーツ協会・麻生太郎会長も出席する中、イ・ボミが「功労者賞」を受賞した。同式典で韓国人のプロスポーツ選手が受賞したのは、史上初とのことで、母国メディアも大きく報じていた。

 岸田首相からは「長い間、お疲れ様でした」とねぎらいの言葉をかけられたことを明かしていが、「まさか話す機会があるなんてビックリしました」と驚いていた。

 イ・ボミはこの前日20日にも女子ゴルフの年間表彰式「JLPGAアワード」でも特別功労賞を受賞。さらに13日に行われた日本ゴルフトーナメント振興協会(GTPA)表彰式で、特別賞を受賞していた。いずれも日本ゴルフ界への貢献度の高さとゴルフを通じて日韓両国をつなぐ役割が高く評価されてのことだ。

彼女の「功労」が、日本のゴルフファンのみならず、世間一般的にも認められたということだろう。

「韓国人選手」を感じさせない雰囲気

「功労者」として3度も表彰されたことをイ・ボミはどう思っているのかが、個人的に気になっていた。彼女が2011年に日本ツアーに来てから13年間、日本でプレーした。ツアー通算21勝、2015、16年には2年連続賞金女王となり、ゴルフ界の枠を飛び越えて、その名は広く知れ渡る存在となった。

 彼女の姿を見て何度も痛感させられるのは、日本では「韓国人選手」であることを一ミリも感じさせない部分ではないだろうか。日本と韓国はスポーツの世界においては、何かとライバル関係とされる。政治の世界においても、日韓関係はその時の政権によって、歩み寄ったり、離れたりを繰り返しているが、それはイ・ボミも意識せざるを得ない部分が少なからずあった。

そんな中、「韓国人選手」という色眼鏡での見られ方をゴルフの結果と実力、自然体のファンサービスで一つ一つ、とっぱらっていった。たどたどしい日本語が、年を重ねるごとに上達する姿もまた、日本人の心をつかんで離さない要素だったと思う。

 とにかく、ハートをつかむのが抜群にうまい。天性の人たらしだと改めて感じたのが、日本プロスポーツ大賞の式典後の囲み取材のシーンだった。

囲み取材の去り際に「難しい質問~!」で笑いに

 韓国人選手ながら日本での「功労賞」の受賞は、どのような部分が評価されたのかと思うかと尋ねた。するとこんな答えが返ってきた。

「日本に来て13年間、韓国の選手ですが、差別や偏見もなく温かい応援をいただいたことを本当に感謝しています。一生懸命練習して試合をしながら、たくさんのファンが応援してくれて力になりました。幸せな時間でした」

 自分は特別に何かやってわけではなく、ゴルフをがんばっていたら、支えてくれる人たちが増え、自分が韓国人だからという偏見も差別もなく自分のことを応援してくれたと感謝の気持ちを述べていた。多くの人に好かれたのは「両親から譲り受けた性格」と話していたことがあったが、周囲に気遣いができなければ、きっとこうはなっていないだろう。

 囲み取材が終わると、筆者の顔を見て指をさし「難しい質問~!」と茶目っ気たっぷりの笑顔で去っていった。その声がしっかりとテレビカメラにも収められ、張り詰めていた空気がはじけるように会場には笑いが起こった。

 イ・ボミが誰からも愛される理由をここでもまた再確認させられた。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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