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日本に敗れた北朝鮮は“国際感覚”が欠如?…森保ジャパンとのW杯アジア2次予選はどうなる?

金明昱スポーツライター
試合後にスタンドに向かって拍手を送る北朝鮮選手たち(写真:アフロスポーツ)

「またやってしまったのか…」というのが率直な感想だ。

 中国で開催されているアジア競技大会のサッカー男子の準々決勝で、朝鮮民主主義人民共和国代表(以下、北朝鮮)は日本代表と対戦。1-2で敗れた北朝鮮はベスト8で大会を去った。

 試合は積極的なプレスを仕掛ける北朝鮮が日本のゴールに迫ったが、前半は0-0。後半6分に日本の先制点のあと、体力の消耗が激しい北朝鮮がペースを握られながらも同29分にオーバーエイジ枠のMFキム・ククボムが左足で強烈なミドルシュートを突き刺して同点。試合は当たりの激しい北朝鮮にイエローカード6枚が飛び出したが、それだけ負けられない気迫と激しい当たりからこの一戦にかける思いが感じられ、「これぞ国際試合」という内容だった。ここまでは良かった。

 問題は後半35分に決勝点となった日本のPKのシーン。審判の判定に北朝鮮選手は一時的に抗議したものの、覆ることはなくこれを決められて1-2で日本がリード。最後まで追いつくことなく試合が終了すると、北朝鮮選手たちが一斉に審判に詰め寄って猛抗議した。

 一度は受け入れたPKの判定に納得いかなかったのか、審判への詰め寄り方が尋常ではなく、ピッチ上での猛抗議の様子が日本のみならず、世界に発信されてしまった。救いだったのは監督やスタッフたちが必死の形相で止めに入っていたことだ。

北朝鮮代表の“潤滑油”は在日コリアン選手

 かつては在日コリアンで元Jリーガーの安英学が北朝鮮代表としてピッチに立っていた時、熱くなる選手をよくなだめているシーンを見たものだ。日本でプレーする在日の中心選手ともなれば、そうしたバランス感覚を持っているため、北朝鮮の本国選手と審判たちとの間に立ってチームの潤滑油になれる。

 Jリーグのいわてグルージャ盛岡でプレーする元北朝鮮代表の李栄直(2019年まで代表でプレー)は「チームは常に真っ向から勝負で、クリーンなプレーを心掛けていた」と語っていたことがある。

在日コリアンJリーガーで元北朝鮮代表の李栄直。写真は2017年のE-1選手権
在日コリアンJリーガーで元北朝鮮代表の李栄直。写真は2017年のE-1選手権写真:アフロスポーツ

 彼もまたチームのムードメーカーとして大事な役割を担っていた時期があったが、今回の試合を見てどう思っているのかは気になるところだ。ラフプレーが目立ったのは若い世代とは乖離があるのか、もしくは日本戦だけは特別な思いだったのだろうか。ただ、やはり国際大会の経験不足を感じさせてしまうのはとても残念だった。

 そもそもアジア大会にVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)判定がない。それがあれば北朝鮮選手たちも多少は納得していたのかどうかは分からないが、映像を見る限りではGKが倒したシーンには見えた。むしろ、前半に訪れていた数回のチャンスで1点を決めきれなかった北朝鮮がその後の試合の流れをつかめなかったのを反省すべきだろう。

 試合内容も「日本をここまで追い込んだ北朝鮮の実力」が評価されていたはずで、最後の行動ですべてを台無しにしてしまった。違う意味で話題になってしまったのが残念で仕方ない。

J1でも通用する北朝鮮選手もいる?

 プレーに関して褒めるべき点があるとするならば、11番のFWキム・グクチンの前線でのプレーは日本の脅威となっていた。特に日本のペナルティエリア内できっちりとボールをキープし同点ゴールをアシストした冷静なパスは評価されてもいいだろう。

 同点弾となった華麗なミドルシュートも“ゴラッソ”で、プレーで評価されるべき選手はたくさんいた。仮に彼らがJ1リーグでプレーできるのであれば、十分に通用する選手もいると感じたものだった。球際の強さやフィジカルも十分に通用するレベルにあった。あとはどれだけ経験を積むのかだろう。

 それにしてもコロナ禍の3年間で国際感覚は失われてしまったのだろうか――。彼らとて国内で欧州チャンピオンズリーグを見て育っているし、ワールドカップの試合もたくさん見ておりサッカーに関してはとても目が肥えている。今は国内リーグでプレーする選手がベースだが、かつては欧州でプレーする選手も多く輩出してきた。遠い過去の話だが1966年W杯ではベスト8になった国でもある。

 来年3月、森保ジャパンの日本と北朝鮮は2026年北中米W杯アジア2次予選でホームとアウェーで戦う。今回のアジア大会に出場した北朝鮮選手の中にはA代表に選ばれるプレーヤーもいるはずだ。

 個人的には“古豪復活”を期待しているが、まずは自分たちの足元から見つめ直し、日本戦では同じ轍を踏まないでほしいものだ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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