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北朝鮮に“ハリルジャパン”と戦った選手が!アジア大会で日本と4強かけて激突する北朝鮮はどんなチーム?

金明昱スポーツライター
17年EAFF E-1選手権で日本と対戦した北朝鮮。左がチャン・グクチョル(写真:アフロスポーツ)

 “予想外の快進撃”という表現が正しいだろうか――。中国・杭州で開催されているアジア競技大会サッカー男子の朝鮮民主主義人民共和国代表(以下、北朝鮮)のことだ。

 1日の今日(日本時間20時30分)、北朝鮮はベスト4進出をかけて準々決勝で日本代表と対戦する。北朝鮮にとっては優勝候補でもある日本との大一番。一方の日本にとっては、かなりやりにくい相手かもしれない。というのも北朝鮮代表は2019年のアジアカップや2020年のAFC U-23アジアカップに出場していたが、コロナ禍での入国制限や渡航制限で国際大会から遠ざかった。

 そのため、北朝鮮選手の特徴や戦術など表に出ている情報が少なく、どのような戦い方をしてくるのかが見えづらい。北朝鮮A代表のFIFAランキングは116位と日本からすれば格下だが、今の北朝鮮には当てはまらない。

 アジア大会で北朝鮮は、グループリーグでチャイニーズ・タイペイに2-0、キルギスに1-0、インドネシアに1-0で勝利し、1位で決勝トーナメントに進出。ラウンド16でも中東の強豪・バーレーンを2-0で下して8強に駒を進めている。

 爆発的な得点力こそないが、安定した守備に定評があり、試合の映像を見る限り90分を走り切るスタミナがあり、フィジカルも他国に見劣りすることもない。むしろチームとしての完成度の高さが際立っていた。

 個人的な感想だが、国際経験が少ない北朝鮮選手にありがちなのが、試合は時間が経つにつれて、組織力に乱れが生じたり、仮に先制されたりすると焦りから、ほころびが出てきたりもしたもの。だが今大会は“安心”して見られるというのが率直な感想だ。

北朝鮮メンバーには6年前に来日した選手も

 気になるのはそのメンバー構成。アジア大会のグループリーグから先発を一度も変えておらず、“不動”の11人が固定されたメンバーと言っても過言ではない。

 後半15分を過ぎたあたりから選手1~4人を入れ替えているが、先発メンバーに絶対的な信頼があると同時に、ほとんどの選手が90分を戦い抜くスタミナがある。フォーメーションは3-4-3。相手との戦い方によるところもあるが、3バックだけでなく全体的に選手の守備意識は高く、ここまで失点ゼロで抑えている北朝鮮の守りを日本がどう崩すかは、見どころに一つになるだろう。

 ちなみに先発した3人のDFはグループリーグ3試合とラウンド16の4試合のすべてでフル出場を果たしており、チームは絶対的な信頼を置いている。

 その要となるのがオーバーエイジ枠で出場している主将のDFチャン・グクチョル(29)だ。最終ラインを統率し、若き後輩たちへの的確な指示でチームのまとめ役となっている。A代表でも主力で、2019年アジアカップに出場。実は過去に来日しており、日本で開催された2017年「EAFF E-1選手権」でハリルジャパンとも試合をしている。

 北朝鮮は「E-1選手権」で日本に0-1で敗れているが、当時、在日コリアンJリーガーの李栄直(リ・ヨンジ、いわてグルージャ盛岡)も北朝鮮代表としてピッチに立っており、日本のサッカーファンの中にも、記憶に残っている人が少しはいるかもしれない。

 また、残りオーバーエイジ枠の2名はGKカン・ジュヒョク(26)とMFキム・グクボム(28)。GKカンは2020年U-23アジアカップに出場するなど、国際試合の経験がある。さらにMFキムも17年の「E-1選手権」でA代表メンバーとして来日しており、今大会はバーレーン戦でゴールを決めた。ベテランの力がアジア大会での躍進を支えている。

森保ジャパンにとっても貴重な一戦か

 攻撃陣にはフレッシュな選手が多く、今大会ここまで2ゴールのFWキム・ククチンは22歳で、1ゴールを決めているFWリ・ジョグクは21歳。また、1ゴールを決めている24歳のMFカン・グクチョルは17年「E-1選手権」で当時18歳ながらA代表メンバーとして来日しており、今では代表には欠かせない中盤の中心選手でもある。

 北朝鮮は今年8月にU-23アジアカップ予選は辞退すると通達。来年4月の本大会は来年開催のパリ五輪予選も兼ねているため、事実上、五輪出場を断念したが、2026年北中米ワールドカップ(W杯)のアジア予選にはエントリーした。2次予選では日本と同組となったが、来年3月のW杯アジア2次予選で北朝鮮と戦う“森保ジャパン”にとっては、チーム力の一端を知るうえで貴重な試合となる。

 1978年以来、2度目の優勝を狙う北朝鮮。負けられない日本戦はいつも以上の力を発揮してくることだろう。ここで勝利すれば、メダル獲得も見えてくる。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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