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韓国女子ゴルフは本当に“危機”?元世界1位コ・ジンヨンの答えは…「日本やタイ選手の気持ちも熱い」

金明昱スポーツライター
韓国女子ゴルフ界の現状について語ったコ・ジンヨン(写真・KLPGA)

「韓国女子ゴルフの危機」――。こんな見出しがついた韓国メディアのゴルフニュースが目立ち始めている。

 というのも、世界ランキング上位を席巻していた韓国選手たちが、軒並み順位を落としているからだ。8月21日時点の世界ランキングトップ10には、4位のコ・ジンヨンと7位のキム・ヒョージュしかいない。しかも、今季開催された米女子ツアーの5大メジャー(シェブロン選手権、KPMG全米女子プロゴルフ選手権、全米女子オープン、アムンディ・エビアン選手権、AIG女子オープン)で、韓国人選手が優勝できなかったことも“大きな事件”として取り上げている。

 スポーツ紙「イルガン(日刊)スポーツ」は「最近の韓国女子ゴルフは危機だ。世界ランキングと米女子ツアーの成績を見ればそれが分かる。特に今季、韓国選手の米ツアーの優勝はコ・ジンヨンの2勝しかない。4年前の2019年に韓国人選手が米ツアーで15勝を手にしたことを考えれば、とても残念な記録だ」と伝えている。

 また、「今年は5大メジャーで韓国選手の優勝がなかった。メジャー大会が5つになった2013年以降、韓国選手の優勝者が出なかったのは初めてのことで、11年ぶりに“メジャー無冠”で終わった」とも報じている。

 だからといって、韓国選手の実力が衰えたと断言していいのだろうか。

 例えば今季のAIG(全英)女子オープンでは、申ジエが3位、キム・ヒョージュとエイミー・ヤンが4位タイ。申ジエに関しては、日本ツアー選手ながらも全米女子オープンで2位と大健闘し脚光を浴びたところだ。

 というのも、これまでの韓国女子選手たちの成績が「あまりによすぎた」わけで、少し結果が出なくなると、衰退と騒がれる韓国内の雰囲気には少し違和感を覚える。

「米国挑戦に必要性を感じない韓国選手も増えた」

 長らく世界1位に君臨していたコ・ジンヨンが最近、米ツアーでの韓国選手の状況について、韓国メディアの前ではっきりと答えるシーンがあった。韓国女子(KLPGA)ツアー「済州サムダスマスターズ」(8月)に主催者推薦で出場し、大会前の会見内容を各メディアが伝えている。

「今は若い韓国の選手たちも十分に奮闘しているし、いいプレーを見せてくれている。今は他のアジアの選手たちの技術が飛躍的に伸びている。それに韓国選手の熱心な両親にも負けないくらいに、支える選手の親の姿もたくさん見られるようになった。そうした環境が、おのずと選手の技術を伸ばす要因にもなっている」

 だからといって、韓国選手のレベルが低くなっているとは思っていない。

「数年前まで(成績やランキングの)上位に韓国選手が多かったのに、なぜ今はそうでないのかと聞かれることが多い。しかし、それは技術ではなく、思考の違いだと思う」と答えている。つまり、環境の変化による影響とコ・ジンヨンは主張していた。

「世代交代で考え方に違いが生まれた」

「他国は米ツアーを見て準備するが、今の韓国選手たちは必ずしもそうではない。韓国ツアーの運営がしっかりしているので、米国に挑戦する必要性を感じない選手も多い。世代が代わることで生まれる考え方の違いです」

 実際に韓国ツアーは試合数と賞金額が年々増えており、シード選手であれば十分に稼げるツアーへと成長を続けている。厳しい環境に身を置くよりも、慣れた場所で結果を残すことを優先する雰囲気が出来つつあるということだ。

 とはいえ、米ツアーを主戦場にするコ・ジンヨンからすれば寂しいもの。そして、後輩たちに問いかけるように最後にこう答えている。

「多くの若い選手たちが米ツアーのQスクール(予選会)に挑戦していて、米国や欧州はもちろん、日本、タイ、中国の選手も以前とは比べ物にならないほど、熱い気持ちを持っている選手が多い。もっと多くの韓国選手たちも世界の舞台に挑戦してほしい」

 もちろんコ・ジンヨン自身も「また世界1位に返り咲くために努力し続ける」と高みを目指すつもりだ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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