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ラグビーW杯へ期待値高い李承信は重圧を感じている?ゴール失敗が「緊張やプレッシャーではない」ワケ

金明昱スポーツライター
日本代表の10番として司令塔を担う李承信(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

「自分の役割でもあるキックのところ。チームを引っ張ってしまった思いが強いです。それでもチームがハードワークしてくれて、結果として勝てたので感謝の気持ちでいっぱいです」

 ラグビー日本代表の10番として司令塔を担うSO(スタンドオフ)李承信は、29日のトンガ戦後にそう反省した。試合には21-16で勝利したものの、ミックスゾーンでの記者との受け答え中の表情は、少し硬くも見えた。やはり自身としては納得いく内容ではなかったのだろう。

 李はトンガ戦で先発出場し、直近のテストマッチは3試合連続のスタメン入り。同じポジションのSO松田力也とのポジション争いに台頭し、ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)も「彼(李)のほうが先に進んでいる」と語るほどで、特別な期待感がうかがえる。

 彼の武器は精度の高いキックだが、22日のサモア戦、15日のオールブラックスXV戦とキック成功率100%。ただ、“薄氷の勝利”となったトンガ戦は、キックオフからミスして「あれ?」観客も「あれ?」と思った人も多いはずで、ゴールも3本中1本の成功にとどまった。

 もちろん連携やタックルに関しては光る部分もあったが、チームとしては課題が残るゲームと選手たちは振り返っていた。李も自分のパフォーマンスの出来の悪さを自覚していた。

「後半に松田(力也)さんとの入れ替わりはある程度、想定通り。自分のパフォーマンスはあまりよくなかったので変わったのはあると思います」

 キックの精度について問われると「前日からキックは仕上がっていなくて、それを試合までに修正できず、試合中も修正できずにいた」と振り返る。確かにその前兆はあった。

「軸足の近さや重心の運び方で変わる」

 試合開始前にピッチに姿を見せた選手たちは全体練習を開始していたが、李は当然、ゴールキックの練習に入った。その時、左斜めの位置から、本来なら軽く決められる場所なのだろうが、練習からキックが入らなかったシーンを記者席から目撃していた。「もしかして調子が悪いのかも?」という心配が、そのままトンガ戦で出てしまった感じがあった。

「自分でしっかり決めてスコアを重ねていたら、こんな苦しい展開にはならなかったので責任を感じています」

 やはりここでも反省の弁。若き司令塔として期待の高まりが重圧になっていた部分はあったのだろうか。彼が高校時代に通った母校・大阪朝鮮高級学校は東大阪市にあり、花園ラグビー場は目と鼻の先でいわばホームのような場所。だからこそ緊張やプレッシャーを感じていたのかとも思ってしまうが、李はきっぱりとこう言っていた。

「緊張やプレッシャーではなく、本当にちょっとしたことです。キックするときの軸足の近さであったり、重心の運び方で(精度が)変わってくると思うので、次までしっかり修正していきたい」

 とにかくワールドカップ本大会を前にしたテストマッチでの“初勝利”にはホッとしたところ。「これからチームの絆はもっと強く進んでいくと思います。W杯まで残り少ないですが、ジャパンラグビーを続けていきたいですし、チームを勝利に導ける10番になっていきたいです」。

 まずは勝利した手応えを噛みしめつつ、次戦8月5日のフィジー戦(秩父宮ラグビー場)に備える。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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