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北朝鮮代表は本当に“ベールに包まれている”?日本と同組のサッカーW杯2次予選、かの国の実情は?

金明昱スポーツライター
2014年W杯アジア3次予選で対戦した日本と北朝鮮。競り合う鄭大世と長谷部誠(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 サッカー日本代表にとってはある意味、“死の組”なのか――。27日に行われた2026年北中米ワールドカップ(W杯)2次予選の組み合わせ抽選会で、日本はシリア、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)、ミャンマー対マカオの勝者と同組に決まった。

「政情不安定な国との戦い」と多くのメディアが報じているのも無理もない。シリアは内戦による入国制限があり、日本と国交のない北朝鮮に関しては、過去に首都・平壌での試合開催はあるものの、やはりアウェー戦には関しては難しい試合になると予想がつく。

 ただ、実力でいえば日本の2次予選突破は確実と見ていいだろうし、特にメディアのあおりに対してそこまで騒ぐ必要もないはずだ。それでも日本に挑む側の熱量は高く、特に北朝鮮に関してはある程度、警戒しておいたほうがいいのかもしれない。

9月杭州アジア大会の北朝鮮代表にも注目

 長らくサッカー北朝鮮代表を追ってきたが、コロナ禍の間は国際大会や親善試合もなく、代表チームの動向や情報はほとんど入ってこなかった。

 それでも国内リーグは通常通りに行われている情報は入ってきており、平壌国際サッカー学校(アカデミー)での選手育成はもちろんのこと、アジアサッカー連盟(AFC)が主催する講習会なども国内で行われるなど、いわゆるサッカーの活動が途切れたことはないようだった。

 コロナ禍が収束し始めた現在は、各種目で国際大会へのエントリーも加速しており、ようやく表舞台に姿を現すようになった。サッカー北朝鮮代表もW杯出場を狙うのは、ごく自然な流れだったと思う。

 北朝鮮代表は前回のカタールW杯アジア2次予選を途中で辞退した。韓国、トルクメニスタン、スリランカとの組で、最終予選進出の可能性を残しながらも、コロナ禍の影響を理由に表舞台から去った。

 当時、北朝鮮はホームでFWソン・フンミン(トッテナム)率いる韓国代表との対戦(2019年10月16日)は、0-0で引き分けている。この試合は無観客で生中継も行われないなか、国際サッカー連盟(FIFA)のジャンニ・インファンティーノ会長がこの歴史的一戦の観戦に訪れるなど、何かと話題になった。

 北朝鮮のメンバーには、在日コリアンのMF李栄直(いわてグルージャ盛岡)、韓国にはソン・フンミンのほか、DFキム・ミンジェ(バイエルン)、DFキム・ヨングォン(蔚山現代)など、日本にも馴染みのある選手が多かった。

 ただ、北朝鮮代表の現在のメンバーに関しての情報はほぼない。ある程度のメンバーを知る機会になりそうなのが、9月から中国・杭州で開催されるアジア大会だ。

 ここに約200人の北朝鮮選手団が参加すると報じられているが、サッカー北朝鮮代表も出場する。アジア大会のサッカーは23歳以下のメンバーに加えて、オーバーエイジ3名の年齢制限があるが、ここからW杯2次予選メンバーに入る選手がいてもおかしくはない。

在日Jリーガーの北朝鮮代表選出の可能性は?

 では、どんな選手がいるのか。ほとんど情報がない状態では、勝手な予想しかできないが、やはり名前を挙げるなら24歳のFWハン・グァンソンだろうか。

 世代別代表でも活躍し、2017年からはイタリア・セリエAのカリアリでプレー。北朝鮮出身のサッカー選手としては、セリエAで初めて得点した選手で、レンタルでペルージャやU-23ユヴェントスでもプレー。2020年からはカタールのアル・ドゥハイルでプレーしていたが、その後は対北朝鮮政策によって、海外クラブでプレーしていた選手が一斉に退団させられたという報道もあった。のちに、帰国して国内チームに復帰し結果を残しているのであれば、代表入りしてもおかしくはない。

 個人的に期待したいのが、いわてグルージャ盛岡でプレーする李栄直。32歳を迎え代表選手としてのピークは過ぎているかもしれないが、彼も北朝鮮代表では長らく主力のボランチとして起用され続けていた。2019年のカタールW杯アジア予選が代表として最後の活動場所になったが、日本サッカーを知る数少ない選手でもあるため、今回の日本と同組のアジア2次予選にはぜひともメンバー入りを期待したいところ。

 そしてもう1人、日本生まれの在日コリアンで北朝鮮代表入りの可能性を残しているのが、ガイナーレ鳥取の元U-23北朝鮮代表MF文仁柱(ムン・インジュ)。昨季はJ3開幕前からケガにも悩まされながらも15試合出場で1ゴール、今季も中盤の左サイドでコンスタントに試合に出続けており、パフォーマンス次第では声がかかるかもしれない。

 とはいえ、日本生まれの選手が北朝鮮代表入りすることで、チームに相乗効果が生まれるのは確かで、また特に日本戦ともなれば、在日選手が加われば日本メディアへの発信で“ベールに包まれた”イメージを少しずつ払拭することもできる。かつて鄭大世や安英学などの日本メディアへの出演がそうだったように、誰か1人でも在日選手が今回のW杯アジア予選で代表入りするならば、日本との間に入る“小さな外交官”的な役割も期待したいところだ。

北朝鮮は3度目のW杯出場を目指す

 北朝鮮は1966年イングランドW杯でアジア初のベスト8を成し遂げ、2010年南アフリカW杯では、元Jリーガーの鄭大世、安英学の在日コリアン選手がメンバー入りして、44年ぶり2度目の出場を果たしている。

 今回は3度目の出場を狙うわけだが、まずは2次予選を2位以内で通過して、最終予選に進まなければならない。北中米W杯では出場国が32から48に増え、アジア枠も4.5から8.5に増えたことからW杯出場の可能性も高まった。

 思い出すのは日本代表が平壌に乗り込んだ2011年11月15日のブラジルW杯アジア3次予選の北朝鮮戦。金日成競技場には5万人の観衆が集まり、日本人サポーターは150人だったというが完全アウェーのなか、結果は0-1で日本が敗れた。おそらく、また同じ光景が目の前に広がるはずだ。

 日本にとっては“格下”とはいえ、楽に戦えるはずのアジア予選が一気に高い緊張感に包まれ、一方の北朝鮮にとっては日本には負けられないと死に物狂いで来るだろう。ちなみに過去、日本は平壌での戦績は1敗2分でこれをどう見るか。独特なアウェーの難しさがあるのは見るより明らかだ。

 いずれにしても今からホーム&アウェーでの“日朝戦”がどのような試合になるのか、楽しみでならない。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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