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イ・ボミか考える“メディアとの距離感”「山下美夢有選手はもっと取り上げられるべきプレーヤー」

金明昱スポーツライター
イ・ボミに現在の日本ツアーについて聞いてみた(写真・KLPGA)

 2015、16年の国内女子ゴルフツアー賞金女王のイ・ボミ。今季限りで日本ツアーを引退する彼女に今年4月、インタビューする機会をいただいた。日本でのツアー生活は2011年からなので、今年で13年目。様々な出来事や思い出について振り返ってもらったのだが、新たな一面が見られてとても新鮮だった。

 イ・ボミは強さに加えて、“スマイル・キャンディー”の愛称で愛嬌のある笑顔とファンサービスで日本女子ゴルフツアーの人気を牽引し、一時代を築いた選手だった。「日本で一番愛された韓国人」と言われてもいたが、特に難しいと思われるメディアとの関係性もうまく築いてきた選手だった。

 個人的に驚いたのは、今年3月の開幕戦で今季日本ツアーを引退すると発表したあとに、各社スポーツ紙のゴルフ担当記者が、イ・ボミへの愛情の溢れるコラムを執筆していたことだった。

 それだけ様々な分野で彼女のことを好意的に見る人が多いという証拠でもあるが、それくらいイ・ボミは多くの人との付き合いがうまかった。

 先日のインタビューでも「例えば、私のことを扱ってくれるメディアの方たちがいるからこそ、みなさんに知ってもらえます。よく報じてくれることで、私のイメージもよくなります。そうなると、私ももっと積極的に発言しようという気持ちになりますよね。それに仮に不愛想にメディア対応したら、それが記者の間で噂に立つことも想像できます」と語っていたが、こうしたことを考える選手はそう多くはないだろう。

「山下選手の堂々としたプレーは印象に残る」

 近年の女子ツアーをどう見ているのかについて、イ・ボミに聞いたことがあった。

 スポーツ界には“スター選手”がいないと世間的に盛り上がらなかったり、注目されにくいといった風潮が少なからずある。野球だとメジャーリーガーの大谷翔平(エンゼルス)の活躍が毎日ニュースになり、サッカーだと日本代表MF三笘薫(ブライトン)の活躍などもわかりやすい。

 スター選手はそう簡単に出てくるものでもないが、女子ゴルフでは現在、米女子ツアーを主戦場にする渋野日向子がいわば“スター選手”扱いとなるだろう。先日も国内ツアーで2戦を戦ったが、成績が悪くても必ず彼女の声がニュースになるのは、人気選手の宿命とも言える。

 ここでイ・ボミの話に戻るのだが、彼女もまた女子ゴルフ界に登場した“スター選手”として扱われた時代があった。そこで自分の立場や経験を踏まえたうえで、現在の国内女子ゴルフツアーに目を向けた場合、何か感じることがあるかとイ・ボミに感想を求めた。するとこんな私見を述べていた。

「山下美夢有選手(今季4勝、通算10勝)はプレースタイルはとてもカッコいいし、いつも堂々としていて印象に残ります。昨年も強かったですが、今年もたくさん勝っています。なので、彼女にもっとフォーカスが当たってもいいと感じています」

 昨年の年間女王の山下を評価していたが、今季すでに4勝してポイントランキングと賞金ランキングで1位。21歳320日での通算10勝も宮里藍に次いで史上2番目の年少記録というのだから、その勢いは当分、続きそうな雰囲気さえある。

 イ・ボミは経験上、メディアの扱いによって、選手の印象が大きく変わるのを知っているから、そう言ったのだろうか。実際、山下がこれからの女子ツアーを牽引する強さと実力は誰もが認めるところで、「これからスター選手となる資質もある」とイ・ボミも見ている。

「山下選手にはさらに勝ちたい気持ちはあるはずです。例えば大事な時間を割いて、インタビューや取材を個別に受けたりするのは簡単なことではありません。私もかつてはそんな経験がありますし、気持ち的にも余裕がなくなったりするものです」

「もっと選手の背中を押してほしい」

 少し考えて、こんな自論も述べていた。

「例えば、自分のことを気にかけてくれる記者さんがいたとします。練習が終わるまでずっと待ってくれていて、終わってから軽く会話をして帰ります。それは数年かけた関係性で、選手に余裕があれば、気遣いもできるのですが、まだツアーでプレーして数年の選手は試合にだけ集中しているので、そこまでの余裕は生まれないものです。ましてや試合の話が中心になるのは当然のことです」

 アスリートはもちろん競技のことを話すことも大事だが、一方で、試合会場を出たときの普段の素顔がどのようなものなのかは、一般人にはとても興味のわくところだろう。選手の趣味や好きな食べ物、最近はまっていることなど、競技以外の話をすることで、その選手の人柄が見え、ファンはもっと応援したくなるものよく分かる。

 ただ一方で、そうした選手とメディアの間のコミュニケーションは、選手自身の経験や性格にもよるところもあると思うのだが、くだらない話に終始してしまうと失礼にあたるし元も子もない。

 イ・ボミは最後に「(メディアは)もっとたくさんの選手の背中を押してほしい」と話していたが、内面を引き出す努力をしてほしいということだろう。もちろん筆者もメディア側の人間なので、イ・ボミからそうけしかけられたわけだ。

 もちろん山下はすでに優勝会見で、家族や父との絆など数々のエピソードを披露してくれているし、ゴルフに真面目でストイックな一面はプレーを見ての通り。昨年のシーズンオフに山下選手を単独インタビューする機会をいただいたが、大阪出身ならではの関西弁で、「母は陽気で家族のムードメーカー」と言っていたが、それと似た一面があるのがよくわかった。彼女の強さの原動力を探る取材は今後も続きそうだ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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