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渋野日向子の国内2試合予選落ちも“器用さ”に光明あり?試行錯誤からの“新生・渋野”への期待値

金明昱スポーツライター
国内2戦を終えた渋野日向子は次戦メジャーの「全米女子プロゴル選手権」に出場する(写真:REX/アフロ)

 渋野日向子の悔しさにじむ表情、目には涙が浮かんでいるようにも見えた――。

 先週の国内女子ゴルフツアー「宮里藍サントリーレディス」で予選落ちし、「2日間で良かったところはなかった。でも振れるので、それだけ練習できるところもある。伸びしろと思ってやります」と振り返った。

 サントリー所属のホステスプロとして初日から気合い十分だったが、4日間のプレーは叶わず、決勝ラウンドの3日目には打席練習場に姿を見せ、青木翔コーチが見守る中で黙々とボールを打ち続けていた。その後ろには多くのギャラリーがその様子を眺めていたが、彼女を一目見ようと土日のチケットを購入したファンも多かったに違いなく、そのことを渋野にも自覚はあったはずで、彼女なりの配慮もあったと思う。

 それでも気になるところを確認、修正するために時間の許す限り、ショットの練習に取り組むのは、プロゴルファーとしては当然のことだろう。

 今大会前、痛めていた左手は“腱鞘炎”と言っていた。「改善しつつある。長い目で見て治療を続けている」と正直に話すも、これは裏を返せば、痛みと戦いながらツアーに出続けるという意思表示にも受け取れた。

 シーズン中に完全回復を目指しつつ、一方で痛みを軽減させるためのプレーや工夫もこらしていかないといけない。そこで今大会5日前から野球バットのように握る「テンフィンガーグリップ」に変えてプレーしていたことを明かした。

 その理由は明確だった。

「(左手)親指の痛みの軽減というか、これからのことを考えてのことです。ソフトボールのバットを握る感覚です」

 通常、グリップを変えてから5日目でいつものプレーができるのかといえば、そう簡単なことではない。ただ、ソフトボールの経験がある渋野には、“意外”にもはまった。

「握った感覚で振れるのかなと思ったけれど、意外といいなと。ドローが出るし、自分が打ちたいボールが打てて、しっかりと触れる。距離もドライバーは飛んでいる」

 淡々と話すが、かなり器用な選手でないとスコアは出ない。それに「理想とするスイングにも個人的には近道になっていると思います。ヒントにはなったと思う」というのだから、ポジティブな思考は、以前からずっと変わらないものだとも思った。

今はそっと見守る時期?

 ただ、今回は予選落ちというショックも大きかったはずで、試合後のコメントも言葉は少なめだった。練習を見にいったときも、合間に話を聞きたいとは思ったが、そのような状況ではないのは当然のこと。公式取材の場で、彼女の言葉と表情からこちらが感じ取るしかない。キャディやコーチ、マネージャーなど周辺関係者の声から、彼女の現在の状況を伝えることもできるが、渋野のその時々の言葉でなければ、本当のところは何を考えているかはよくわからないままだ。

 苦しい状況にもがき、長いトンネルを抜けるための様々な方法を模索する彼女の姿を見ながら、いまはそっと見守る時期なのかもしれないと思った。

 ただ毎試合、話題になる選手だからこそ、結果が出れば称賛され、予選落ちが続けば批判される。そんな経験を渋野はこれまでも繰り返してきているが、思い出すのは、3年前に応じてくれた単独インタビューでの言葉だった。

3年前「自分を信じでやるだけ」と渋野

 渋野日向子に単独インタビューする機会があったのは2020年の全英女子オープンを制覇してから1年後のこと。人気絶頂時にも関わらず、「15分だけなら」と単独で話が聞ける時間を作ってくれた。

 いや、15分のインタビューで一体何が聞けるのか――。こちらがそう思ったところで、忙しい彼女に時間が増えることはない。コロナ禍なので対面ではなかったが、リモートでの画面越しからでも渋野は明るく、本音で色々な質問に嫌な顔一つせず答えてくれていた。

 この時に印象的に残っている言葉がある。好意的なニュースが増えた一方で、予選落ちの途端に悲観的な記事も目立つようになったが、そこで思うことはあるかと聞いたときだ。

「いろんな意見があると思いますが、私の気持ちを分かってほしいとも思っていないので、自分を信じてやるだけですね。分かってくれている人に、自分が取り組んでいることや本当の気持ちを分かってもらいたいと思っています」

 “自分を信じてやるだけ”――今回、国内ツアー2戦を見ながら、そこはこれからもずっと変わらない部分だと感じた。周囲が何を言おうが、迷わず答えが見えるまでこれからも突き進んでいくと思う。

 人生にはいい時も悪い時もあるもので、ゴルフも同様。勝ち続けることが難しいスポーツで、毎回うまくいかないこそ、おもしろい。多くのゴルフファンはもしかしたら、スイングをいじるからおかしくなると「(以前と)変わらない渋野を求めようとしている」のかもしれない。

 ただ、そこについても今季米ツアー初戦の時にキッパリとこう言っていた。「2019年に戻すわけでなく、新しいものを作る。“新生・渋野”です」と。この言葉を信じて見守りたいと思う。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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