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なぜ韓国は全米女子オープンゴルフ予選会の開催地から“10年目”にして外されたのか?

金明昱スポーツライター
1998年の全米女子オープンを初制覇したパク・セリ(写真:ロイター/アフロ)

 米女子ゴルフメジャー「全米女子オープン」(7月6~9日)の日本地区予選会が今日29日(千葉・房総CC房総ゴルフ場)に開催される。エントリーは132名と過去最多(5月4日時点)で、早朝から1日で36ホールを回るハードな予選会を突破した選手が本大会の出場権を得られる。

 今年の同予選会は全米23カ所を含む世界26カ所で開催されている。“世界”といっても、開催地は米国以外では日本、ベルギー、カナダの3カ国。驚いたのは、今年から韓国が開催地に含まれていないことだった。

 実は全米ゴルフ協会(USGA)は、今年から全米女子オープンの韓国地区予選会を除外した。韓国で同予選会が開催されたのは2014年からで、ちょうど10年目にして消滅したことになる。これは韓国女子ゴルフ界にとって、由々しき事態だ。

全米女子OP韓国予選にトッププロが参加しない?

 “除外”の理由についてUSGAは明らかにしていないが、大韓ゴルフ協会(KGA)は韓国メディアに「韓国の予選会にレベルの高い選手の参加が少なくなり、除外されたようだ」と話している。

 調べてみるとコロナ禍で中止となっていた2020年、21年の全米女子オープン・韓国地区予選が、昨年3年ぶりに開催されたのだが、エントリーしたのはプロが10人、アマチュアが61人の計71人。最も多かった時よりも、半数近く減った現状をUSGAは深刻に捉えていたと思う。

 というのも地区予選会を開催するすべての経費(ゴルフ場使用料など)はUSGAが負担しているため、本来の目的でもあった「アジアの優秀な選手を発掘する」ことへの意義が韓国では薄れてきたと見ていいだろう。

 実際、昨年の全米女子オープンに出場した韓国選手は22人で、そのほとんどが米ツアーを主戦場にしている選手たち。予選会を突破して本戦に出場した選手は、アマチュアの3人だけだった。それに加えて、韓国女子(KLPGA)ツアーからは9人が世界ランキング上位の資格で全米女子オープン出場が可能だったが、出たのはたったの2人だった。

 いま韓国女子ゴルフ界も名誉やハングリー精神といった気概よりも、年々賞金額や試合数が増える国内ツアーを優先する風潮が出来つつある。渡米することで、帰国後のコンディション不良、芝や環境の違いから、国内ツアーへの影響を恐れている部分もあるに違いない。

韓国選手は日米の予選に参加するしかない?

 ただ、10年以上前までは全米女子オープンで勝つことへの執念や憧れが韓国にはあった。1998年にパク・セリが全米女子オープンを制覇したあと、キム・ジュヨン(2005年)、パク・インビ(08、13年)、チ・ウンヒ(09年)、ユ・ソヨン(11年)、チェ・ナヨン(12年)、チョン・インジ(15年)、パク・ソンヒョン(17年)、イ・ジョンウン6(19年)、キム・アリム(20年)らが勝ち星をあげてきた。

 もちろん今も米ツアーを主戦場にするチェ・ヘジンやユ・ヘランなど韓国の若手にはメジャー制覇の可能性がある選手がいるが、韓国から海を渡る選手の数が激減しているという状況に変わりはなく、米国でプレーする大きなチャンスを失ったことになる。

 その結果、韓国で予選会が開催されないため、全米女子オープンに出場したければ、米国や日本の予選会にエントリーするしかなくなってしまった。飛行機代や宿泊費と経費をかけてまで予選会に挑戦する韓国の選手はどれほどいるのだろうか、と考えてしまう。ちなみに今回の日本地区予選には2名の韓国プロがエントリーしているだけだった。

日本ツアーのように海外試合の出場規定を見直すべき?

 ゴルフ専門サイト「JTBCゴルフ」は韓国の選手たちが積極的に全米女子オープン予選会に出場するための改善策として、こんな指摘をしている。

「KLPGAは海外の試合の出場規定が厳格だ。国内大会と被る海外の試合は3回まで許可されている。KLPGAツアーの試合が増えているにもかかわらず、ほとんどが重なる日程の海外ツアー出場を制限するのは、『海外に出るな』と言っているのと同じこと。日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)は、ツアー日程と重複する海外メジャー出場も制約なく2週連続での出場を許可している。海外メジャー大会のポイントも3日間競技の4倍と高いため、笹生優花や畑岡奈紗、古江彩佳など米ツアーで成績がいいのは、このような政策の変化も影響しているからだ」

 韓国ツアーの海外出場規定を日本のように変えるべきとの指摘だが、まずは全米女子オープンの韓国地区予選の復帰が望まれる。

 韓国にゴルフブームを起こしたゴルフ界のレジェンドでもあるパク・セリは、今回の韓国地区予選会の除外をどのように見ているのだろうか。女子ゴルフ界における日本と韓国の勢力図に、少しずつ変化が訪れる時期に差し掛かっているのかもしれない。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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