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なぜ今?北朝鮮の国際舞台復帰への動きが加速…“お家芸”の重量挙げや女子サッカーにエントリーするワケ

金明昱スポーツライター
北朝鮮の得意種目でもあるウエイトリフティング(写真:ロイター/アフロ)

 世界保健機関(WHO)が5月、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて出していた緊急事態宣言の終了を発表し、各国の人の往来が活発化するなか、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)が国際大会にエントリーしている動きが加速している。

 すでに日本で報道されているものとしては、9~10月に中国で開催される「杭州アジア大会」に選手やコーチら約200人の参加登録を申請したというもの。友好国である中国は距離的にも近く、行き来しやすいという利点もあり、選手団の参加を後押ししたものと見られるが、その先に控えている2024年パリ五輪出場への足掛かりとしたい思いも透けて見える。

 とはいえ、北朝鮮国内でのコロナ禍が落ち着いたという証拠と捉えていいだろう。さらには、国際オリンピック委員会(IOC)から科された資格停止処分(東京五輪への不参加による処分)が昨年末で自動的に終了したことで、スポーツ界への復帰に本腰を入れることができたのだと思われる。

北朝鮮女子サッカー“ランク外”も日韓のライバルに

 コロナ禍前は北朝鮮スポーツ事情を追いかけていたものだが、取材の過程で一つ確信を持って言えるのが、このような動きになったときは必ず「確実に結果が残せる分野」にこぞって出場することだ。“お家芸”の種目へのエントリーである。

 最近、日本でも小さく報道されていたが、“ひっそり”とエントリーしていたのが女子サッカーだ。パリ五輪出場をかけた女子サッカーアジア2次予選(10月23日~11月1日)の組み合わせが今月18日に発表されたのだが、北朝鮮はグループB(他は中国、韓国、タイ)に入った。いわば、パリ五輪出場の意思表示でもあるが、これまで国際舞台から姿を消していたこともあり、FIFAランキング(今年3月24日の最新)からは“除外”されていることから、抽選会で北朝鮮は“第4ポット”に入った。

 ちなみに、第1ポットは日本(FIFAランキング11位)、オーストラリア(同10位)、中国(同13位)で、韓国(同17位)は第2ポット。いわば北朝鮮は“弱いチーム”という設定で抽選会が行われたため、日本とも同組の可能性もあったわけだ。

2017年のE-1選手権で対戦した日本と北朝鮮
2017年のE-1選手権で対戦した日本と北朝鮮写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 頭が痛いのが韓国。神経戦になりそうな“南北対決”が待っているだけでなく、そもそも前回(2022年12月)集計されたFIFAランキングでは、国際舞台に出ていない北朝鮮がアジアでもっとも高い「10位」で、日本や韓国よりも上だったという事実がある。

 つまり、女子サッカーにおけるアジアの勢力図では、今も北朝鮮がトップレベルにあると言っていいだろう。パリ五輪出場への可能性もかなり高く、だからこそ、迷わずエントリーしたというのもうなずける。パリ五輪の切符はアジアに2枠しかないが、仮に出場権を勝ち取れば、メダルも狙える種目の一つでもある。

ウエイトリフティングは北朝鮮の得意種目

 さらに6月8~18日までキューバで開催されるウエイトリフティングの国際大会「IWF(国際ウエイトリフティング連盟)グランプリ」に北朝鮮選手がエントリーしていることも分かった。IWFのサイトを見ると同大会に北朝鮮の男子7人、女子7人の選手の名前が確認できた。開催地が同じ社会主義国であるキューバというのも、参加しやすさに少し関係しているかもしれないが、いずれにしても日本では一切報じられていない。

 ちなみに同大会には日本人選手も参加しており、パリ五輪出場に必要なポイントを稼ぐ、重要な大会と位置付けられている。

 実は北朝鮮がこれまでの五輪でもっともメダルを獲得しているのがウエイトリフティングで、これまで金5、銀8、銅5の計18個を獲得してきた。過去には2012年ロンドン五輪で56キロ級金メダリストのオム・ユンチョル、同じくロンドン五輪で62キロ級金メダリストのキム・ウングク(共に世界記録保持者)などを輩出している。

 もっとも自信のある競技で結果を残し、9月のアジア大会、さらには来年開催のパリ五輪出場へ弾みをつけ、国際大会復帰をアピールできるのかに注目したい。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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