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「やっぱりゴルフしかない」元賞金女王・森田理香子“休養宣言”から5年目の告白

金明昱スポーツライター
接客の合間に森田理香子がインタビューに応じてくれた(写真・筆者撮影)

「ツアーに出てへんからもう私のことなんか放っておいてくれたらいいのになって思うんですけれどね(笑)」

 久しぶりに出会った森田理香子は、そんな冗談を言いながら笑っていた。

 4月末、自身がプロデュースするウェアブランド「yummy rose(ヤミーローズ)」の期間限定ショップを出すと耳にしたので、現場に駆け付けた。すると普通の店員のように接客している森田の姿があった。

 アスリートの中には第一線を退いたあと何をしているのかと、気になる人物がいるものだが、女子プロゴルファーの森田理香子はその1人。なのでこちらとしても常に気がかりで放っておけない。

「接客しているので、その間ならいつでもいいですよ」と返事をもらっていた。近況が聞けるというのなら、ありがたい話である。

「クラブを見たくないこともあった」

 今から10年前のことだ。2013年の国内女子プロゴルフツアーは、女子ゴルフ界の顔とも言える横峯さくらと森田理香子が賞金女王争いのデッドヒートを繰り広げていた。当時現場にいたから感じることもたくさんあったのだが、23歳の森田には勢いがあった。

 最終戦の「JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」を終えると、森田と横峯の年間獲得賞金額はたったの130万円差。森田が僅差で賞金女王のタイトルを手にした。「あの時は私もとがっていたなって思います(笑)。それももう10年前のことですし、めっちゃメディアが嫌いやったので、若かったなって思います」。

 注目選手であるがゆえに成績に関係なく、囲み取材に呼ばれていた森田。若さゆえのメディア嫌いはどの選手にもあるものだが、ゴルフ界の新たなスターはその対応にも苦心していたのを思い出す。

 そんな中でも翌14年には1勝。それから毎年コンスタントにシードを獲得するも勝利からは遠ざかった。襲ってきた不調の波には勝てず、18年シーズンを最後に第一線から退いた。森田は繰り返し、こう詰め寄ってきた。「私はまだ『引退』って言ってないですからね。『休みます』って言っただけなんですよ(笑)」。

 実際には休養を宣言したまでで、プロゴルファーとして試合に出る道を断ったわけではない。森田はそこを強調しつつ、苦笑いを浮かべながら休養期間の事をこう振り返る。

「2018年でお休みさせてもらったあと、2年くらいはあまりクラブも見たくないし、何もしたくない気持ちもあったんです。でも徐々に年を重ねるごとに、ツアーの解説もそうだし、仕事をもらってゴルフ場に行く機会だったり、そういうことを重ねながら、またゴルフっていいなって思い始めたんです」

 ツアーから離れて5年目にして、ようやく見えてきたものがあるようだった。それが何なのか気になった。

「5年経って色々とリセットされてきた」

 実際、彼女のインスタグラムには変化がみられる。昨年までは知人との食事や愛犬の写真が多いのだが、2023年に入ってからはゴルフ関連の写真が増えた。これも心境の変化の一つ。5年という歳月を森田はどのように捉えているのだろうか。

「5年も経つと、色々とリセットされてきた部分が出てきたんです」。少し考えたあと、次に出てきた言葉が意外だった。「なんやろ、やっぱりゴルフしかないんですよね。結局はゴルフしかしてこなかったから」。

 休養している間は、自分に何ができるのかをたくさん考えたが、ゴルフに携わっている自分の姿がくっきりと見え始めてきたのかもしれない。周囲もそんな姿を期待していることを肌で感じ取っている。

「プロアマ戦でお客さんと回ったときも、『もったいない』、『もっと試合でプレーしてほしい』ってめちゃくちゃ言われるんです。そんなに言うんやから、もうやってやろうかなって思って(笑)。だから、最近はめっちゃ練習を始めました」

 もちろん試合に出る予定などまったくないのだが、それでも来たるべき日に備えての準備であると期待してもいいのかもしれない。

「何もしなければ忘れ去られていく」

 個人的に面白いと思ったのは、あれだけメディア嫌いで、テレビ番組にもほぼ出演してこなかった森田が、今では自らレッスン動画を“発信しまくっている”ことだ。

「ヤミーローズ」の公式インスタグラムの「リール」の中にある動画は、ほぼ森田のレッスンで埋め尽くされている。中には約50万近く再生されている動画もあり、それだけのアマチュアゴルファーに需要があるということだろう。いっそのことユーチューバーとして、レッスン動画を配信すれば、それはそれで大きな反響もあるだろう。そんな活動一つをとっても、森田が本格的に“再始動”しはじめたわけだが、最後に森田はこう切り出した。

「2018年に自分が下した判断は間違っていないし、後悔もしていません。休んだ期間で色々と考えることもできたし、学ぶこともたくさんありました。だからすごくいい期間だったと思っています。何もしないと忘れ去られていくわけですから。少しずつ前に進んで、挑戦していきたい」

 少し含みを持たせる“挑戦”発言は気になるが、きっとゴルフファンへ朗報を届けてくれるに違いない。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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