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サウジの“オイルマネー”に日本女子ゴルファーは興味なし?韓国選手は10人も出場の“温度差”のワケ

金明昱スポーツライター
世界ランキング8位のチョン・インジ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 賞金総額500万ドル(約6億5000万円)で、優勝賞金は70万1385ドル(約9400万円)――。これは今月16~19日までサウジアラビアで開催された欧州女子ゴルフツアー「アラムコ・サウジ・レディース・インターナショナル」の賞金額である。

 これは通常の欧州女子ツアーの大会の10倍以上の額で、破格の大会となったわけだが、この高額な優勝賞金をかっさらったのが、現在世界ランキング1位のリディア・コ(ニュージーランド)だった。

 たった1回の大会優勝で9400万円も獲得したわけだ。これを日本女子ゴルフ(JLPGA)ツアーの昨年の賞金ランキングに当てはめると、メジャーなど2勝し同8位の川崎春花が稼いだ額(約9200万円)よりも多い。つまり日本ツアー1大会の優勝賞金と比べて3~8倍もある。

 もちろん、これはお隣の韓国女子ゴルフ(KLPGA)ツアーでも同様。少しでもお金を稼ぎたい選手にとっては、「試合に出られるなら出たい」と考えてもおかしくはない。

 ふたを開けてみると、驚いたのが韓国女子ツアーを主戦場にする選手たちが、同大会に10人も出場していたことだ。ほかにもチョン・インジやイ・ジョンウン6など韓国の米ツアー選手らは7人が出場。

 そもそも出場資格は世界ランキング300位までの50人のエントリーが可能ということもあって、韓国内でプレーする選手たちがこぞって出場を決めたというわけだ。ちなみにエントリー時点の韓国選手の世界ランキングで、もっとも低かったのは138位のファン・ジョンミだった。

 ということは、日本ツアーを主戦場にする選手も世界ランキング300位以内であればエントリーは可能だったということになるのだが、これが一人も出ていない。日本人で出ていたのは、畑岡奈紗と笹生優花の2人で米ツアーが主戦場の選手である。

 日本と韓国の女子ゴルフツアーは、近年若手が台頭し、盛り上がりを見せているが、試合数も賞金額も年々、増え続けている。状況的に似ている両国ツアー選手の間で、こうも海外に出て行くことに温度差はなぜ生まれるのだろうか。

アンテナの張り方に差がある?

 韓国メディア「イーデイリー」は「韓国ツアー所属の選手たち10人のほとんどが海外ツアーの経験は多くない。しかしKLPGAツアーで1回以上は優勝を経験した選手たちで、競争力は十分に備わっている。また、KLPGAツアーの選手にとっては4月のシーズン開幕前に調整がどれほどのものか、実力を試す場にもなっている」と伝えている。

 つまり、韓国ツアーの選手たちにとっては、合宿などの調整の合間に実戦ができ、かつ高い賞金を稼げるとあって、出ない手はないと判断したのだろう。4月の試合まで比較的余裕があることもエントリーしやすいと思うが、日本の女子選手も決して出られない日程ではなかったはずだ。

 もちろん日本の選手たちにとって大事なのは3月2日から開幕する「ダイキンオーキッドレディス」の初戦であり、すでに沖縄入りして調整している選手がほとんどだろう。

 その前にサウジアラビアにまで行って試合をするということは、そもそも時差もあって大事な初戦に支障をきたすというのが正しい考え方なのかもしれない。もしかするとそもそも、サウジアラビアで開催された欧州女子ツアーの出場資格が世界ランキング300位以内という情報すら入ってこなかった可能性もある。仮にそうだとするならば、日本と韓国の女子ゴルファーのこの“アンテナの張り方”の違いに大きな温度差を感じるところでもある。

日本女子ゴルフの環境が整いすぎている?

 これは極端な考え方なのかもしれないが、日本女子ツアーは試合数も賞金額も恵まれていることもあり、“国内だけで完結”できる環境がすでに整っている。「目の前のことに集中すればいい」というのが、プロとしては正しい考え方だと思う。

 ただ、お隣の国、韓国ツアーの選手が今回の欧州女子ツアーへ大挙、エントリーした現実を見た場合、どちらがより世界に目が向いているのかと感じざるを得ない。これはこれまで米女子ツアーを席巻してきた韓国勢の強さが背景にあると感じるところでもあるが、日本の若手もいよいよ米ツアー参戦の流れが出始めてきている。

 その流れをもっと加速させるためにも、今回の韓国選手の欧州ツアーへの出場状況を見て、何か感じることがあってもいいはず。来年も同大会が開催されるなら、貪欲に外に出て行く日本の女子選手が増えてほしいと思っている。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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