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“東海=ドンヘ”は日本のゴルフファンに理解が得られない?「新韓東海オープン」大会名が英字になったワケ

金明昱スポーツライター
3ツアー共催のShinhan Donghae Open(写真・公式サイトより)

 9月8日から4日間の日程で、奈良県のKOMAカントリークラブで開幕する男子ゴルフの「Shinhan Donghae Open(新韓東海オープン)」。

 韓国男子プロゴルフ(KPGA)ツアーとしては38回目となるが、2019年からは日本とアジアの3共催として開催されるようになった。しかし、3ツアーでの共催は19年の1回のみで、コロナ禍の20年と21年は韓国の単独開催になっていた。今年、ようやく共催大会として3年ぶりに復活し、初めて日本で開催されることになったが、それを喜んでいるのは、大会主催者にほかならない。

 それは同大会が、元々は日本と大きくかかわりのある大会だからだ。「KOMAカントリー倶楽部」は、在日韓国人1世の故・李熙健(イ・ヒゴン)新韓銀行名誉会長が、1980年に開設したコースで、自ら運営したゴルフ場でもある。

 また、今大会の第1回大会となる「東海(ドンヘ)オープン」が1981年に韓国の南ソウルGCで行われているが、開催に向けて尽力したのが日本の関西在住の在日韓国人のゴルフ愛好家たち。母国のゴルフ振興と選手の育成が目的だったという。

 ちなみに李熙健(イ・ヒゴン)名誉会長は、1982年には在日コリアンの100%出資で、韓国初の純民間銀行である新韓銀行を設立し会長となった人物。2003年には資産規模で韓国第2位の金融グループへと成長を遂げている。

 つまり、日本に住みながらも母国に思いを馳せ、祖国の発展に貢献しようとの思いが強い人物で、そんな思いが大会名の「東海(ドンヘ)」に表れていることは、勘のいい人ならわかるはずだ。

大会名には「祖国を思う気持ち」

「東海オープン」という大会名の由来について、韓国ツアー関係者が教えてくれた。

「在日韓国人のゴルフ同好会の方たちが、祖国を思う気持ちを込めて、『東海オープン』という大会名をつけました。新韓金融グループがタイトルスポンサーとなった1989年から現在の大会名になったのです」

 “日本海”の先にある朝鮮半島。そして韓国から見た海を“東海(ドンヘ)”と呼ぶことから、そう大会名をつけられたというのだ。その思いになんら政治的な意図は見えないが、日本から見れば“日本海”。日本と韓国におけるこうした“呼称問題”は、両国の関係をこじらせてきた話題でもある。

 だからこそ、大会を開催するにあたっては、日韓両国へ配慮が必要なのも理解できる。2019年の3ツアー共催の際に大会名をどうするのかは、何度も議論を重ねられてきたという。韓国ツアー関係者がこう語る。

「共催大会をスタートさせるときは、韓日関係が多少、険悪なムードだったと記憶しています。それはご存知の通り、“東海”と“日本海”の名称で両国間の溝を埋めるにはどうすればいいのか、一部の日本のゴルフファンからの指摘を避けるのは難しいという話もありました。そこで大会名は英字の『Shinhan Donghae Open』(もしくはカタカナ)をそのまま使うことで合意しました。それが最善の判断だという結論に至ったのです」

 こうして両国に配慮した形で、19年に共催大会がスタートしたわけだが、優勝者にはKLPGAツアーシード5年、日本ツアーとアジアンツアーのシード2年が与えられるのはかなりの魅力。

 大会名を巡る話題よりも、日本と韓国の選手がしのぎをけずる熱い戦いと話題が届くことを期待している。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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