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なぜ韓国で香川真司のPAOK退団が大々的に報じられるのか 背景にマンUとパク・チソン?

金明昱スポーツライター
香川真司のギリシャ1部PAOK退団は韓国でも一斉に報じられていた(写真:アフロ)

 韓国のサッカーニュースで、元日本代表MF香川真司の名前を見るのは、珍しくなくなった。

 ギリシャ1部リーグPAOKが香川との契約を解除したニュースが韓国でも一斉に報じられていたが、その見出しにはかなり刺激的なものが多かった。

「欧州を求めていた香川、たったの1試合出場で新チームを模索」(SPOTVニュース)

「“歴史上、最悪の選手”酷評の中での放出、日本の香川“無限の墜落”」(スターニュース)

「日本の香川、ギリシャPAOKと決別、来年Jリーグに復帰?」(Best Eleven)

「“マンU出身”の香川、ギリシャPAOKから放出」(スポータルコリア)

 香川の今後の行き先には、古巣のJ1セレッソ大阪や米メジャーリーグサッカーなどが候補に挙がっているようだが、現時点で何も発表はされていない。

検索ワードに「香川 パク・チソン ソン・フンミン」

 しかしながら、お隣の国・韓国で今は日本代表でもない香川の動向にこれだけ関心を示すのも珍しい。

 グーグルの検索バーに「カガワシンジ」を韓国語で入力してみた。ヒットした記事数は約36万件と意外にも多い。それよりも面白いと思ったのは、他の関連ワードだった。

「香川真司 パク・チソン」、「香川真司 ソン・フンミン」が韓国語でよく検索されていた。

 韓国サッカーファンにとって香川は、韓国サッカー界の象徴とも言うべきパク・チソンとソン・フンミン(トッテナム)との比較対象であることが見えてくる。

 香川は韓国では名の知れたサッカー選手という証でもあるが、これにはちゃんとした理由がある。

 かつて全盛期のパク・チソンが主力としてプレーしていたマンチェスター・ユナイテッド(以下、マンU)に香川もいたからだ。

パク・チソンは香川のマンU加入で追い出された?

 香川は2012年にドルトムントからマンUに加入。ちょうどこの時、マンUにいた韓国代表MFパク・チソンが放出されクイーンズ・パーク・レンジャーズFC(以下、QPR)に移籍している。

 当時の韓国メディアやフットボールファンは、この一件について大騒ぎしていた。サッカー担当記者がこう言っていたのをよく記憶している。

「『アジア最高のプレーヤーの座を香川に奪われた』という悔しい気持ちの表れが国民にはありました。世界有数のビッグクラブでパク・チソンがプレーしていることは韓国人にとって誇りでしたが、その象徴を失ってしまった。まだプレーできるにもかかわらず、韓国内では『追い出された』と考えるサッカーファンが大半で、マンUに不満を抱いている人もいます」

 しかし、当時のマンUはアシュリー・ヤングやルイス・ナニ、アントニオ・バレンシアなど若手の台頭で、パク・チソンも出場機会が減っており、他の韓国スポーツ紙記者は「客観的な判断をするなら、香川の加入がパクの移籍のきかっけとは言い切れません。それよりもプレミアリーグで香川が成功できるのかどうかに注目しています」とも語っていた。

パク・チソンは韓国人の“プライドの一部分”

 パクはJリーグの京都サンガからプロとしてのキャリアをスタートさせ、2002年日韓W杯で韓国のベスト4に貢献。オランダのPSVアイントフォーフェンからマンUへ移籍した輝かしい成功は、韓国人の“プライドの一部分”と言っても過言ではない。

 当時は「マンUに香川が来たから、パク・チソンが放出された」と考える韓国人が多かったのは確かで、心中は穏やかではいられなかったのだろう。

 韓国で今も香川の動向が報じられるのはそうした背景があるから。逆に言えば、韓国で“香川は欧州で成功した日本人選手”という認識があるからこそ、今も話題になるのだ。

 いずれにしてもこの先、香川は必要としてくれるクラブで、再び名声を取り戻せるだろうか。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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