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未だに来日できないアン・シネ、今季1試合も出場できずに女子ゴルフツアー出場権を失うのか!?

金明昱スポーツライター
今年もアン・シネは来日できずに1試合も出場できないのだろうか(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

 新型コロナウイルスの感染拡大で、日本のプロスポーツ界で頭を悩ませていたのが、外国人選手の入国問題だ。

 特にプロ野球やJリーグでは、新戦力となる外国人選手がシーズン前の合宿から歩調を合わせられない状況が続くなかで、シーズンが開幕。

 そんな中、2度目の緊急事態宣言が3月21日に解除されると、プロ野球各球団やJリーグクラブではスポーツ庁への働きかけが実を結び、続々と外国人選手が入国し始めた。阪神タイガースの今季目玉選手であるメル・ロハス・ジュニア外野手とラウル・アルカンタラ投手も4月4日に入国している。

 では、日本のゴルフ界に目を向けるとどうか――。

 男女ともにプロゴルフツアーでは、多くの外国人選手がプレーしているため、コロナ禍で来日できない選手への配慮は必要となる。

 2021年の日本男子ツアーは東建コーポレーションカップ(4月15~18日、三重・東建多度CC)からスタートした。複数の外国人選手の名前は確認できたが、すべての選手がこの試合に間に合ったわけではない。

 ちなみに日本の男子ツアーは、65人のシード選手のうち、31人が外国人選手(47%)という割合。そうした背景もあり、日本ゴルフツアー機構(JGTO)では昨年からスポーツ庁へ働きかけていたが、これが功を奏した形だ。

「昨年からスポーツ庁に『何とか受け入れてもらいたいです』と働きかけをしてきた結果、プロゴルファーについては特別に認めていただきました」(JGTO広報)

 もちろん、14日間の隔離の管理や選手の身元保証もJGTOが行うことも確認したうえで、「段階的に外国人選手の入国が認められている」という。

 つまり、男子ツアーでプレーするすべての外国人選手が、入国できる状態にある。入国が遅れた選手への不利益については「特別保障制度を使う」(JGTO)という。

 いずれにしても、現在のコロナ禍で、外国人選手が日本でプレーできるカギとなるのが、各競技団体がスポーツ庁へ何らかのアクションを起こしているという点だ。

女子ゴルフQT1位の選手も入国できていない

 そうした意味では、日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)はかなり出遅れたと言わざるを得ない。

 今年は3月4日のダイキンオーキッドレディスからツアーが始まり、ペ・ソンウ、イ・ボミ、イ・ミニョン、ユン・チェヨンなどの韓国人選手が出場。ただ、すべての外国人選手が出場できていたわけではない。

 去年はコロナ禍での入国制限措置で、6月の開幕後はしばらく来日が遅れた外国人選手が多かった。それでも申ジエ、ペ・ソンウ、イ・ボミ、キム・ハヌル、イ・ミニョン、ユン・チェヨンなどの韓国選手は、入国制限解除のタイミングを見計らい、少ない試合数ながらも出場していた。来日後に在留資格(ビザ)を更新した選手に関しては、再入国には問題がないため、今年もプレーができている状態だ。

 ただ、去年は新型コロナの感染状況が日本で悪化していたことで、選手が不安にかられていたのも事実。それに、日韓両国で計4週間の隔離期間を考えると、残り2~3試合の出場のために来日するのか、コンディション調整を優先すべきかと、悩んだ選手もいた。

 それがアン・シネだった。彼女は2019年のプロテストに合格して日本ツアーの正会員となり、2019年のQT(予選会)も25位でレギュラーツアーへの出場権(第1回リランキング)を持っている。

 しかし、昨年はコロナ禍で来日を見送り、今年は日本ツアーで結果を残そうとオフにはアメリカで練習を続けていた。だが、ビザの期限が切れていることで、再入国がままならず、現在も韓国で過ごしているという。

 ほかにも2019年QT1位で通過したフェービー・ヤオ(台湾)も、アン・シネ同様の理由で昨年は入国を見送っていた。今はビザの期限が切れており、日本に入国できないままだ。

かつて“アン・シネ効果”で初日1万人超えも

 そこで動かなければならないのが、JLPGAなのだが、関係各省庁への働きかけについて「トーナメント事業部で検討している段階です」とのこと。これではあまりにも遅すぎるのではないだろうか。

 すでに今年は7試合が終了しており、賞金ランキングへの影響も大きい。しかも、選手の出場優先順位を入れ替える「第1回リランキング」が5月開催の「ワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップ(5月6~9日)」終了後に決まる。

 つまり、アン・シネとフェービー・ヤオは、今も来日できておらず、14日間の隔離期間も想定すると、1試合も出られないまま、ツアー出場権を失うことになりそうとのこと。

 JLPGAは2月26日に「新型コロナウイルス感染症に関する入国制限保証制度」を発表しているが、アン・シネとフェービー・ヤオの場合、リランキング以降の2試合が保証されるという。だが、そもそも入国できなければ“保証”の意味がない。

 一方で「昨年のうちに来日して、在留資格更新の手続きをしておくべき」といった声も聞こえてくる。しかし、コロナ禍における不測の事態では、ゴルファー個人の事情と判断を尊重すべきだろう。

 今年のJLPGAツアーは、若い選手たちの活躍で盛り上がりを見せるが、不公平感は今も払拭できていない。来日できない外国人選手の心情に配慮し、関係各省庁に早く働きかけるべきではなかっただろうか。

 奇しくも、5月のワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップは、“セクシークイーン”アン・シネが2017年に日本ツアーデビューした大会だ。

 しかも初日としてはツアー史上最多となる1万3097人を動員し、その要因は“アン・シネ効果”とも言われていた。

 ツアー人気牽引の恩恵を受けた事実があることを忘れてはいないだろう。JLPGAには今、その配慮と対応が求められていると思う。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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