Yahoo!ニュース

平昌五輪から3年、韓国カーリング女子“メガネ先輩”の今。世界選手権中止で日韓戦は見られず(訂正あり)

金明昱スポーツライター
3月の世界選手権に出場する予定だった“メガネ先輩”キム・ウンジョン(写真:ロイター/アフロ)

「メガネ先輩」と聞いて、その顔を思い出す人もきっといるだろう。

 今からちょうど3年前に開幕した2018年平昌冬季五輪。カーリング女子韓国代表で主将を務め、銀メダルを獲得したキム・ウンジョンのことだ。

 トレードマークのメガネの下からのぞく鋭い目つき。表情ひとつ変えずにプレーし、仁王立ちする姿からは闘争心があふれていた。

 そんな見た目のインパクトに加え、“もぐもぐタイム”で有名になった平昌五輪銅メダルの日本(LS北見=現在はロコ・ソラーレ)と2度も対戦したことで、連日メディアを賑わせていた。

 特に日本の藤澤五月とは“美女スキップ対決”と比較され、日韓対決が両国民を盛り上げたのは記憶に新しい。

 あれから3年――。1年後の2022年は北京冬季五輪が控えているが、コロナ禍で開催がどうなるのかは未知数の状況だ。

 それにしても、今「メガネ先輩」ことキム・ウンジョンはどうしているのだろうか。

昨年に続く世界選手権中止

 実はキム・ウンジョン率いる“チームキム”と日本の“ロコ・ソラーレ”が、「世界女子カーリング選手権大会2021」(3月20~28日、スイス・シャフハウゼン)で顔を合わせる可能性があった。しかし、昨夜、世界カーリング連盟が大会の中止を発表。

 同大会で6位に入れば、来年2月の北京冬季五輪出場権が得られていた。代わりの五輪予選方式は検討中という。

 韓国からは“チームキム”が、昨年11月に開催された韓国カーリング選手権で優勝し世界選手権の出場権を勝ち取っていた。韓国カーリング選手権の優勝で今シーズンまで韓国代表として国際大会に出場できるという。代表の座を手に入れたのは、実に3年ぶりだ。

 メンバーの顔触れも平昌五輪で銀メダルを獲ったメンバーそのままだ。

 一方で、日本代表として世界選手権に出場するチームは決まっておらず、現在開催されている第38回全農日本カーリング選手権(7~14日、北海道稚内)で優勝したチームが、世界選手権出場権を獲得することになっていた。

 世界選手権中止の一報は、日本選手権に出場している選手たちの耳にも届いているだろう。

 日本選手権の出場7チーム中、優勝の大本命は連覇を狙うロコ・ソラーレ。メンバーも平昌五輪当時の藤澤五月(スキップ)、吉田夕梨花(リード)、鈴木夕湖(セカンド)、吉田知那美(サード)は健在で、チームの代表を務めるのは本橋麻里と結束力は高い。

 しかし、平昌五輪でのメダル獲得後、韓国の”チームキム”と日本のロコ・ソラーレが歩んできた道は、正反対と言っても過言ではない。

 メガネ先輩ら“チームキム”が、再び韓国代表の座に着くまでには、競技とは関係のない部分で紆余曲折があった。

 長引く“パワハラ問題”がチームに暗い影を落としていた。

パワハラ騒動の後に勝ち取った代表の座

 慶尚北道(キョンサンブクト)体育会女子カーリングチームは、2018年11月15日にソウル市内で記者会見を開いた。

 チームメンバーのキム・ソニョン選手は「抑圧や暴言、不当な扱い、不条理によって不安でしたし、無力感と挫折感の中でつらい日々を過ごしてきました」と訴え、キム・ウンジョン選手ら平昌五輪で活躍した選手たちも会見に顔をそろえていた。

 訴えた相手は、チームの創設者のキム・ギョンドゥ前大韓カーリング競技連盟副会長と娘のキム・ミンジョン氏、娘婿となるチャン・バンソク氏。代表監督を務めていたのはチャン、キムの夫妻だ。

 選手たちは、平昌五輪前から暴言や悪口を吐かれ、2015年以降は国際大会の獲得賞金も配分されず、横領されたと発言した。

 それは韓国スポーツ界を揺るがす衝撃の告発だった。

 選手たちの訴えは2019年2月に行政当局に認められ、パワハラをした当事者たちはすべて免職。しかし、当時監督だったキム・ミンジョン氏はその後も、体育会の理事となっていたことが発覚する。

 キム・ウンジョンら選手たちは、納得する形での根本的な処罰がなされていないと2020年7月に再び訴えていた。

 最終的に2020年11月30日、大韓カーリング競技連盟はパワハラ当事者である“キム・ギョンドゥ一家”を“永久除名”すると発表。家族ぐるみの不正会計、職権乱用、組織の私有化などのすべての訴えが認められた。

 こうした問題を解決させ、心機一転で”チームキム”は韓国代表となり、今年3月の世界選手権の切符を手にしたのだが、昨夜の大会中止発表を受けてかなり落ち込んでいることだろう。

 ちなみにキム・ウンジョンは2018年7月に結婚し、公私ともに充実した生活を送っている。

 世界選手権での日韓戦の可能性は潰えたが、代替の五輪予選での顔合わせをぜひとも期待したいものだ。

※2月9日9時、内容を一部修正しました。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

金明昱の最近の記事