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日本の環境が韓国選手をうまくさせる?韓国女子ゴルフ単独首位のペ・ソンウが語った“日本で成長したワケ”

金明昱スポーツライター
韓国ツアーで単独首位のペ・ソンウ(写真・KLPGA/Park Jun-seok)

 その好調ぶりにかなり驚いた。

 韓国女子ゴルフツアーの「KLPGAチャンピオンシップ」が14日から開幕。

 日本ツアーを主戦場にする選手の中では、賞金女王のタイトルを手にしているイ・ボミやアン・ソンジュの出場に注目が集まっていたが、今大会の主役はペ・ソンウだった。

 初日に5バーディ、ノーボギー、2日目に7バーディ、ノーボギーの12アンダーで単独トップに立った。2位に4打差をつける圧倒的な強さだ。

 彼女もまた2019年から日本女子ツアーに参戦している“日本ツアープレーヤー”の一人。1年目から2勝して賞金ランキング4位となり、今年は賞金女王の候補としても注目されていた。

 韓国での実績も申し分ない。2012年プロ転向し、16年に2勝して注目を浴びた。2018年には韓国のメジャーを含む2勝で賞金ランキング2位となっている。

 24歳の若さで日本ツアー挑戦を決心し、2018年のファイナルQT(予選会)で14位となり2019年から日本ツアーに参戦した。

 2015年から日本で開催されている4ツアー対抗戦「ザ・クイーンズ」にも韓国代表として3年連続出場を果たしている実力者だ。

 すでに韓国ではその実力を認められていたが、日本では“新人”。昨年の日本2勝で、一気に認知度を高めたわけだが、今大会の結果をもっとも驚いているのが母国・韓国である。

日本ツアーは“都落ち”なのか

 強豪ひしめく韓国女子ツアーは、競争心の強い選手が多く、レベルも高いと言われている。

 現在、世界ランキング1位のコ・ジンヨンや同3位のパク・ソンヒョンなどは、韓国ツアーを経てアメリカへ渡り、すぐさま結果を残した。

 だが、ペ・ソンウはアメリカではなく、日本を選んだ。たった1年だが韓国を離れたペ・ソンウはすでに“過去の人”になりつつあった。

 というのも、米ツアーに渡った選手たちの活躍は華やかで、大々的に報じられるが、日本ツアーでの結果はそこまで大きく話題になることはないからだ。

 日本ツアーは、韓国ツアーに比べてレベルが低い場所――どちらかといえば、“都落ち”と見られがちだ。

 今大会でも日本でプレーしている選手は、「韓国ツアーで結果を残すのは難しい」と見られていたかもしれない。

 開幕前日のメディアデーでの会見やフォトセッションなどで、取り上げられていた選手の顔ぶれを見れば、それがよく分かる。パク・ソンヒョン、キム・セヨン、イ・ジョンウンら米ツアー選手や日本で2度賞金女王になっている人気選手のイ・ボミなどが前日に大会をアピールした。

 日本でメジャーを含む2勝のペ・ソンウは、蚊帳の外に置かれていた感じがあった。

日本のコースでマネジメントやパットの読みがうまくなったというペ・ソンウ(写真・KLPGA/Park Jun-seok)
日本のコースでマネジメントやパットの読みがうまくなったというペ・ソンウ(写真・KLPGA/Park Jun-seok)

「日本の環境の良さ」を熱弁

 だが、ペ・ソンウは完全に今大会、主役となった。まる2日間、ノーボギーでのプレー。

 韓国メディアの関心事は「なぜそんなにも好調なのか」だ。

 KLPGAから提供してもらったペ・ソンウの昨日の試合後の会見資料には、日本ツアーでの話がたくさん出ていた。

 結論からいえば「環境の良さが技術を向上させた」という。「日本ツアーで技術が磨かれた」ことを様々な側面から語っていた。

「日本ではバンカー練習をたくさんしたからか、バンカーに入っても、アプローチをしてもパーセーブができるという自信がありました。ショットの感覚は50%にもいっていません。ですが、コースマネジメントがうまくいったのか、スコアがでました。日本のコースは歴史の長い場所が多いので、攻略をしっかりすることを念頭においているのが結果につながったのだと思います。また、日本ツアーではグリーンの傾斜を読む練習を学びました。それらが力になっています」

 日本ツアーに来たからこそ、ゴルフの技術が上達したとはっきりと語っていた。

日本に行けば「うまくなる要素しかない」

 韓国の「ヘラルド経済」はペ・ソンウの結果を報じつつ、日本ツアーの環境について「日本ツアーは大会期間、客を入れずコースを完全に閉めて運営する。試合後にはいくらでもゴルフ場のドライビングレンジや練習グリーンで様々な練習が可能だ。こうした良い環境の中で、韓国の選手たちは短期間に技術を高めている。特に韓国の選手は弱点だったバンカーショットやパッティングなどショートゲームが格段に良くなる」と伝えている。

 つまり、韓国では日本ほど十分な練習場が確保されていないゴルフ場が多いということだ。トーナメント開催期間でも一般客を入れて営業している場合もある。

 韓国の選手は試合会場で練習ラウンドしたあと、外の練習場で打ち込むケースがほとんどだ。

 日本と韓国の環境の違いについて、日本で4度賞金女王になっているアン・ソンジュも「日本ではゴルフ場で十分な練習ができるので、“うまくなる”要素しかない」と語っていた。

日本の技術が韓国でも通用する

 ペ・ソンウがアメリカではなく日本を選んだからと、決して楽な道を選んだわけではない。

 アメリカも日本も同じ海外。適応できる選手もいれば、そうでない選手もたくさん見てきた。

 一つ言えるのは、ペ・ソンウが覚悟をもって日本ツアーに参戦しているということ。環境の良い日本では、練習量が増えたことも技術の向上につながっているだろう。

 日本で磨かれた技術と実力は、韓国のメジャー大会でも十分に通用するーー。残り2日間でもそれを証明してくれるに違いない。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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