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現地美女応援団も駆けつけた!北朝鮮代表の在日Jリーガーが語ったサウジアラビア戦0-4大敗の理由

金明昱スポーツライター
サウジ戦に出場した東京Vの李栄直(左)と栃木シティFCの金聖基(筆者撮影)

 ゴールが決まるたびに、周囲で歓喜に沸くサウジアラビアの記者たち。

 目の前で起こる出来事には、目をふさぎたくなるばかり。それくらい朝鮮民主主義人民共和国代表(北朝鮮代表)にとっては、厳しい初戦だった。

 UAEのドバイにあるラシード・スタジアム。ここでサッカーアジアカップのグループEの初戦、北朝鮮代表対サウジアラビアの一戦が行われた。

 結果から言ってしまえば、0-4での大敗。実力差もあったが、それよりも前半終了間際に退場者が出たことに加え、試合運びのプランが狂ってしまったのか、「ほぼサッカーをさせてもらえなかった」というのが正しいかもしれない。

 スタジアムに駆け付けた観客を見ると、サウジアラビアを応援するサポーターの数が圧倒的に多かった。

 それを見るだけでも、ここが中東であることを感じさせてくれるには十分だった。

現地在住の北朝鮮応援団。旗を振ってお馴染みの応援
現地在住の北朝鮮応援団。旗を振ってお馴染みの応援

 一方、北朝鮮代表の応援は、現地在住の人たちが駆け付けていた。

 今や国際大会ではお馴染みの光景となった“美女応援団”の姿も見られ、それぞれが手に持った小さな国旗を振りながら、統率の取れた応援で北朝鮮代表に声援を送っていた。

 その光景が珍しいのだろう。UAEの人たちは応援する姿をスマホ片手に写真を撮っていた。

 そんな雰囲気の中で行われた一戦。実力ではFIFAランキング69位のサウジアラビアが北朝鮮(109位)よりも優位と予想された。

現在イタリアのペルージャでプレーするFWハン・グァンソンは前列右から2番目(写真:ロイター/アフロ)
現在イタリアのペルージャでプレーするFWハン・グァンソンは前列右から2番目(写真:ロイター/アフロ)

5バックの超守備的システム

 北朝鮮代表のスターティングメンバ―には、エースFWのハン・グァンソン(カリアリ/現在はペルージャにレンタル移籍中)をはじめ、主将のスイスでプレーした経験のあるFWチョン・イルグァンとFWパク・クァンリョン(SKNザンクト・ペルテン)の欧州組が先発し、さらに日本でプレーする李栄直(東京ヴェルディ)と金聖基(栃木シティFC)も加わった。

 試合が始まると北朝鮮のシステムは5-4-1の守備的システム。

 勝ち点1を取る戦術を採用したのはよく分かった。完全に引いて守備を固める北朝鮮に対し、サウジアラビアは前半15~20分まで拮抗を破れずにいた。

 だが、28分にMFハタン・バヒブリに先制点を許すと、9分後の37分にもDFモハメド・アルファティルに追加点を決められる。徐々に選手に焦りと苛立ちが見え隠れした。

エースのレッドカードで10人に

 前半から積極的なドリブル突破でゴールを狙ったFWハン・グァンソンだが、代表での試合はこれが3試合目と経験の浅さが裏目に出たのか、前半36分と44分にイエローカードをもらい、レッドカードで退場。

前半に2枚のイエローカードをもらって退場となったハン・グァンソン(写真:ロイター/アフロ)
前半に2枚のイエローカードをもらって退場となったハン・グァンソン(写真:ロイター/アフロ)

 アジアでの試合の少なさからくる感覚の違いもあっただろう。イタリアとはまた違う審判の笛にも戸惑った部分はあったかもしれない。これでハン・グァンソンは13日のカタール戦に出られなくなった。

 絶対的なエースを失った北朝鮮は、後半からは10人で戦うことになり、劣勢を強いられた。

 途中、MF李栄直が強烈なミドルシュートを放つなど、何度か得点チャンスもあり、後半は少しリズムをつかみかけたのだが、一枚上手のサウジにさらに2失点を許し、0-4で大敗した。

 グループリーグ突破のためには、カタール(13日)、レバノン(17日)に1勝1分以上の成績を残さないといけない。

2人の在日選手「残り2試合勝ちに行く」

 試合後のミックスゾーン。大敗にうなだれる北朝鮮選手たち。声をかけづらかったが、在日選手の2人が足を止めてくれた。

 金聖基は「戦術として入り方は狙い通りでした」と出だしは良かったという。

 ただ、「どこまでそれを続けるのか、選手のなかでベンチワークも含めて意思疎通できていなかった。それをずるずる引きずってしまって、最初の失点を食らったシーンまで続けてしまった」と反省を口にしていた。

 一方の李栄直は「サッカーができないまま負けるのが一番悔しいです」と悔しさをにじませた。

「引き気味の戦術をすることになって、20分まで失点せずに済みましたが、気の緩みが出てしまいました。後半は10人になってから、みんなの意識が引き締まったというか、ポゼッションしながら展開していきましたが、その形を作るにはまだチームとして時間がかかる部分はあります。ただ、0-4で終わりましたけれど、通用する部分、そうでない部分も分かったので、絶望感はなかったです。次の試合に向けて、もうとにかくやるしかない。あと2試合は勝ちにいかないといけない」と前を向いた。

北朝鮮代表のキム・ヨンジュン監督。ベンチとピッチ内の選手との意思疎通には課題が残る印象だ(写真:ロイター/アフロ)
北朝鮮代表のキム・ヨンジュン監督。ベンチとピッチ内の選手との意思疎通には課題が残る印象だ(写真:ロイター/アフロ)

ベンチワークに課題も

 試合を見た全体的な印象としては、北朝鮮の守ってからのカウンターという分かりやすい戦い方を貫きたかったのだろうが、それを90分続けるには限界がある。

 ボールをたくさん動かし、選手も連動するサッカーが見たかったというのが本音だ。

 35歳の若いキム・ヨンジュン監督が指揮官となってからは、結果が出ていない。

 今年12月に韓国で行われるEAFF E-1選手権(東アジア選手権)の最終予選を突破できず、出場権を香港に奪われた。アジアカップ前のテストマッチでは、ベトナム代表に1-1、バーレーンに0-4で大敗している。

 もちろん今もチームを作っていく段階なのだろうが、劣勢に立たされたときの判断やベンチワークには経験の浅さが見える。

 実は2015年のアジアカップでも北朝鮮はサウジアラビアとグループステージの2戦目で対戦している。

 そのときは李栄直がレッドカードで退場し、1-4で敗れている。今大会も過去の教訓を生かしきれなかったと思われても致し方ない。

 ただ、まだ諦めるのは早い。アジアカップは1980年大会での4位が最高位の北朝鮮。

 13日のカタール戦で勝利すれば、グループリーグ突破は大きく開ける。奮闘を期待したい。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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