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羽鳥(草彅剛)が問う、音楽とは「しょせんは余裕のある者たちのものではないか」〈ブギウギ〉

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「ブギウギ」より 写真提供:NHK

裕福な花田母娘と貧しい小田島父子の格差

朝ドラこと連続テレビ小説「ブギウギ」第23週は、スターとなり優雅に豪邸に住まうスズ子(趣里)と愛子(このか)と、貧しくて、漫画雑誌もたった一冊をずっと読み続けている小田島(水澤紳吾)と一(井上一輝)父子の差異を描いた。いや、この差異をスズ子と愛子が埋めていく物語であったようにも思える。

制作統括の福岡利武チーフプロデューサーは第23週をこう振り返った。

「さすがに脅迫してきた小田島を受け入れるかどうかは難しいところだと思うのですが、おせっかいのスズ子はやっぱり受け入れる選択をすることは良いことだと感じます。こうして小田島父子との関係ができて、彼らはこのあとも出てきます」

誘拐事件を経て、スズ子は、「わては……わてが歌うことで お客さまに楽しんでもろたり 少しくらい力になったりせえへんかなという気持ちがどっかにあったんです。わてが歌うことで なんぞ辛いことがあったら つかのま忘れてくださいねって」と思っていたが、誘拐未遂犯のような人たちにとっては歌は役に立たないではないかと気付き悩む。

それを聞いた羽鳥(草彅剛)は「〜しょせんは余裕のある人間が作って余裕のある人間たちが楽しんでいるだけじゃないか、そんなふうに思ってしまうことが僕にもあるんだ」と答える。そして、ベートーベンやバッハのように天才的ではない自分は「僕程度の作曲家はねちょっとでもお客の暇つぶしになればいいなんて思うこともあるよ」と自虐するのだ。

羽鳥のかなり冷めた感覚が印象的な第116回だが、福岡CPはこれを「足立さんの思いもあると思う」と前置きしつつ、「ここでは通過点のシーンなんです。この問題はこれで終わりではなく、第25週と最終週にその展開も踏まえて、さらなる展開があります」と説明した。

スズ子の歌や踊りを見ると元気になるという声が多い

長い連続ドラマなので、その回、その週だけで解決する問題もあれば、もっと長いスパンで物事が描かれることもある。例えば、豪邸に引っ越したスズ子は、ようやく近隣の人たちと交流をするようになった。三鷹時代は奇妙なぐらい近隣とのつきあいがなかったが、「戦争もあったので、そういう余裕がなかった」と福岡CPは言う。

長くドラマを見ていると、ああ、やっとスズ子のメンタルにも余裕が生まれたのかなと思ったりもする。だから、この音楽は、エンタメは、誰のためのものなのか問題はとても重要なことだし、もう少し描き込まれることを待ちたい。

足立の書いた脚本にGOを出した福岡CPは、音楽あるいはエンタメの力をどう思っているのだろうか。

「視聴者の方からは、ドラマを見て、元気をもらっていますという反響をいただいていまして、本当にありがたいと思います。もちろん、そこには家族愛みたいなところにも魅力を感じてもらっていることもあるでしょうけれど、やっぱりスズ子の歌や踊りを見ると元気になるという声が多く、音楽の力はすごいと実感しているところです。残りの2週間で、音楽とは人間にとって何なのか、僕たちなりの思いを感じていただければと思います」

あと2週。しっかり見守りたい。

ところで、小田島役の水澤紳吾は、足立紳の推薦でこの役に決まったそうだ。映画「罪の声」(20年)ではキツネ目の男役を演じて、注目された。いわゆる「性格俳優」と呼ばれるような名バイプレイヤーである。今回、貧しさを出すために痩せて撮影に臨んだそうだ。その肉体に、切羽詰まって脅迫に走る人物の悲哀をひしひしと感じた。

「ブギウギ」より 写真提供:NHK
「ブギウギ」より 写真提供:NHK


連続テレビ小説「ブギウギ」
総合【毎週月曜~土曜】午前8時~8時15分 *土曜は一週間の振り返り
NHKBS【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
NHKBSプレミアム4K【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
【作】足立紳 櫻井剛 <オリジナル作品>
【音楽】服部隆之
【主題歌】「ハッピー☆ブギ」中納良恵 さかいゆう 趣里
【語り】高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)
【出演】趣里 水上恒司 / 草彅剛  菊地凛子 小雪 生瀬勝久 水川あさみ 柳葉敏郎 ほか
【概要】大阪の下町の小さな銭湯の看板娘・福来スズ子(趣里)は歌や踊りが大好きで、道頓堀に新しくできた歌劇団に入団し活躍後、上京。そこで、人気作曲家・羽鳥善一(草彅剛)と出会い、歌手の道を歩みだす。“ブギの女王”と呼ばれた人気歌手・笠置シヅ子をモデルにした、大スター歌手への階段を駆け上がる物語。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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