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リハーサルなし一発勝負の15分「父ちゃんブギ」に泣いて笑って「ブギウギ」

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「ブギウギ」より 写真提供:NHK

父娘で一緒に歌うことで、互いの強い愛情を感じる場面に

朝ドラこと連続テレビ小説「ブギウギ」(NHK)第23週、第110回の梅吉(柳葉敏郎)とスズ子(趣里)が「父ちゃんブギ」を歌う場面は涙なくしては見ることができなかった。

制作統括の福岡利武チーフプロデューサーは撮影をこう振り返った。

「リハーサルなしの一発勝負で撮影しました。趣里さんも柳葉敏郎さんも最後だということで、撮影前も集中していらっしゃいました。こういう場面は、何度も演じるより、1回でやったほうがいいものですから、歌も練習することでもなく、おふたりの自然に任せようと。撮影部もすごく気合が入っていました。本番前の静けさがとても印象的で、皆、集中して、見守るように撮影がはじまりました。放送では10分くらいの場面ですが、撮影自体は15分以上、まるまる1話分以上あったお芝居を、編集によって10分くらいにしています。ワンテイクOKで、カットがかかったあとも趣里さんはお芝居が抜けない様子で感極まったように泣いていました。スタッフたちも泣いているなかで、柳葉さんはこれでオールアップだったので、晴れ晴れとされていたのが印象的です」

「台本に『父ちゃんブギ』と書いてあるのを読んだときは、そんな歌あったかな?と思いました」と福岡CPは笑った。

スズ子がステージで歌うことが見どころのドラマではあるが、ごくたまに、大事な人に向かって歌う週がある。今回もそのひとつだった。

「ステージシーンはたくさんやってきましたし、ここは、脚本の足立紳さんが考えた『父ちゃんブギ』という『東京ブギウギ』の替え歌を父娘で歌わせたいとおっしゃって。ツヤ(水川あさみ)のときは『恋はやさし野辺の花よ』をスズ子がひとりで歌いましたけれども、今度は父娘で一緒に歌うことで、互いの強い愛情を感じる場面になりました。我々としても、ステージシーン以外でも、スズ子の歌の力が発揮できる場面も描きたいと思っていたところだったので、とても良かったと思います」

「ブギウギ」より 写真提供:NHK
「ブギウギ」より 写真提供:NHK

ふたりの関係に、何かひとつ越えたものが

梅吉「知らんふりしてわしら親にさせとってくれてたんやな」

スズ子「そやで こっちも感謝してほしいわ」

梅吉とスズ子の会話が良かった。口を開けば憎まれ口のようになりがちだが、それはむしろ愛情の現れであることが柳葉と趣里の芝居からにじみ出る。さらに歌が、そのふたりのほんとうのお互いを思いやるやさしい心情そのものだった。

「血が繋がってないことを、梅吉としては最後まで明かす必要はないと思っていたでしょうけれど、第10週でスズ子が独り言のように言ってしまったことを梅吉が聞いていたので、その決着というわけでもないですが、改めて言葉にできればいいなと思っていました。ここで、明かしたことで、ふたりの関係に、何かひとつ越えたものがあったことを感じていただければと思います」

取材会で、第10週、梅吉にはスズ子のつぶやきが聞こえていたのか?という質問が出ると、福岡CPはこう回答した。

「それは見る人に委ねたいです。僕、個人の考えとしては聞こえていたんじゃないかと思っていますが、みなさんがお好きなように解釈していただければと思います」

福岡CPは第23週を「慌ただしい展開」と解説する。スズ子のアメリカ行き、梅吉の危篤(第110回)、そして第111回ではもうひとつ重要な出来事が……。矢継ぎ早にいろいろなことが起こり、ほんとうに濃密な週である。

「ブギウギ」より 写真提供:NHK
「ブギウギ」より 写真提供:NHK

連続テレビ小説「ブギウギ」
総合【毎週月曜~土曜】午前8時~8時15分 *土曜は一週間の振り返り
NHKBS【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
NHKBSプレミアム4K【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
【作】足立紳 櫻井剛 <オリジナル作品>
【音楽】服部隆之
【主題歌】「ハッピー☆ブギ」中納良恵 さかいゆう 趣里
【語り】高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)
【出演】趣里 水上恒司 / 草彅剛  菊地凛子 小雪 生瀬勝久 水川あさみ 柳葉敏郎 ほか
【概要】大阪の下町の小さな銭湯の看板娘・福来スズ子(趣里)は歌や踊りが大好きで、道頓堀に新しくできた歌劇団に入団し活躍後、上京。そこで、人気作曲家・羽鳥善一(草彅剛)と出会い、歌手の道を歩みだす。“ブギの女王”と呼ばれた人気歌手・笠置シヅ子をモデルにした、大スター歌手への階段を駆け上がる物語。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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