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「買物ブギ」はドラマパートとステージパートを並行させた挑戦の結実。「ブギウギ」と働き方改革

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「ブギウギ」より 写真提供:NHK

正直にぶつかって一生懸命働け

この週のテーマは世代交代

朝ドラこと連続テレビ小説「ブギウギ」(NHK)は、毎週のようにヒロイン・スズ子(趣里)のステージシーンがある。第22週第106回(脚本:櫻井剛、演出:小島東洋)では「買物ブギ」が披露された。

スズ子のパフォーマンスがこれまで以上にパワーアップしたと、制作統括の福岡利武チーフプロデューサーは語る。

この週のテーマは世代交代。山下(近藤芳正)がマネージャーを辞め、新たなマネージャー・柴本タケシ(三浦獠太)が登場し、スズ子は若者に指針を見せるような貫禄で歌い踊る。

「『買物ブギ』はスズ子の成長も感じる場面になりました。劇中でも言われているように、『買物ブギ』はすごく難しい歌です。でも、趣里さんはそれをみごとにやってのけ、本当に楽しいステージシーンに仕上がりました。歌や踊りのシーンを長く積み重ねてきたことで、自信もついて、いい意味で肩の力が抜けたことも良かった気がします」

スズ子のステージを見ているタケシの表情もよかったと福岡CP。

「観客を盛り上げようと一生懸命なスズ子の姿を、舞台袖から見ていたタケシが覚醒する、その表情も素晴らしいと感じました」

タケシはそれまで、仕事のメモはとらない、寝坊をする、など、仕事に身が入らなかったが、スズ子のステージを見て心を動かす。スズ子の一生懸命さが人の心を打ったのだ。そして、それは、羽鳥(草彅剛)、タナケン(生瀬勝久)、山下など、先行する世代の人たちが、観客を喜ばすために力を注いできたことの継承でもある。

「ブギウギ」より 写真提供:NHK
「ブギウギ」より 写真提供:NHK

ここで改めて思うのは、「ブギウギ」は毎週のように歌と踊りのパートがあって、そのほかに、通常のドラマパ−トもあるのだから、かなり大変だったのではないだろうかということだ。

祈るような気持ちで続けた撮影

以前、聞いた話で、朝ドラはたいてい月曜日にリハーサル、火〜金まで撮影、土日は休みあるいはプロモーション活動というような基本スケジュールがあるとか(ただ、同じセットのシーンは話数に関わらずまとめ撮りする)。今回はどうだったのだろうか、福岡CPに聞くとーー。

「今回は、従来のルーティーンに沿わず、臨機応変に対応していました。特に後半はかなり交錯していました。そして、ステージパートのリハーサルはしっかりしないといけないので、その分、お芝居パートのリハーサルをぎゅっと縮めまして、一気に本番に持っていきました。それに対応できる実力派の俳優さんによって、ドラマパートの撮影をどんどん進めながら、空いている時間にステージ衣裳のフィッティングやメイクの確認をし、歌や踊りの練習をしました。例えば、『買物ブギ』ですと、11月ぐらいから準備をはじめて、撮影は12月。楽曲自体はだいぶ前にやることは決まっていたうえ、本当に難しい曲なので、早めに、歌唱指導のゆうきさんの見本の歌が入った音源を趣里さんにお渡ししました」

働き方改革を重視しながら、クオリティを諦めないという姿勢が尊い。

正直にぶつかれ、ウソも誤魔化しもなく、

「本当にチャレンジングな企画だったなと自分でも思います。でも、これくらい毎週のように歌が出てくるドラマは面白いと思うんです。だからこそ、成し遂げたいし、でもちゃんと体を休めてほしいし、とにかく毎日、無事に撮影が終えられるようにと祈るような気持ちでした」

そう振り返る福岡CPが、第22週に関しての取材会で、何度も繰り返したセリフがあった。

「第106回で、寝坊して遅刻した柴本に大野(木野花)が『正直にぶつかれ、ウソも誤魔化しもなく、正直にぶつかって一生懸命働け』と言うセリフが響いていて。あれから、毎朝起きるとあの大野さんの言葉を思い出し、一生懸命働かなきゃダメなんだ、よし!なんてことを思ってしまうんです」

「一生懸命」働いた結果がドラマからにじみ出る。

◯取材を終えて

今週、筆者が見て印象に残ったのは、「ブギウギ」でははじめて演出を担当した小島東洋さん。朝ドラでは終盤に、若手が演出を担当する慣習があるが、今回は、ちょうど世代交代の週で、演出も新しい人だったことが興味深い。春を感じさせるために花びらを舞わせたり(それをあとで大野が掃いていたり)、愛子が出てくるたびに、紙風船で遊んだりシャボン玉を吹いたり、山下が花田家に来たとき庭から廊下に頭をのぞかせたり、毎回何かしら違う動きをしていたりして、画面にちょっとした躍動感が出る工夫をしていたような気がしたし、「買物ブギ」のステージシーンもいつも以上にメリハリが効いていて楽しかった。

連続テレビ小説「ブギウギ」
総合【毎週月曜~土曜】午前8時~8時15分 *土曜は一週間の振り返り
NHKBS【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
NHKBSプレミアム4K【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
【作】足立紳 櫻井剛 <オリジナル作品>
【音楽】服部隆之
【主題歌】「ハッピー☆ブギ」中納良恵 さかいゆう 趣里
【語り】高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)
【出演】趣里 水上恒司 / 草彅剛  菊地凛子 小雪 生瀬勝久 水川あさみ 柳葉敏郎 ほか
【概要】大阪の下町の小さな銭湯の看板娘・福来スズ子(趣里)は歌や踊りが大好きで、道頓堀に新しくできた歌劇団に入団し活躍後、上京。そこで、人気作曲家・羽鳥善一(草彅剛)と出会い、歌手の道を歩みだす。“ブギの女王”と呼ばれた人気歌手・笠置シヅ子をモデルにした、大スター歌手への階段を駆け上がる物語。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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