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心ズキズキワクワク、ついに誕生「東京ブギウギ」

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「東京ブギウギ」を紙ナプキンに作曲する羽鳥(草彅剛) 写真提供:NHK

「これは福来くんの復興ソングであると同時に日本の復興ソングなんだ」

羽鳥善一(草彅剛)が高らかに叫び、ついに「東京ブギウギ」が完成した。

譜面を見て「心ズキズキワクワク」と歌ってみるスズ子(趣里)の場面にトランペットが鳴り響く高揚感。

このセリフこそ「ブギウギ」最大のテーマなのではないかと思ったが、制作統括の福岡利武チーフプロデューサーの回答は、極めて慎重なものだった。

「そうですね……とは言え、あまり説教くさくはしたくないところでもありまして。とにかく、時代を超えて、何か明るく前向きに、元気な気持ちになっていただければという思いを込めています。草彅さんにもそういうところを共感いただいております」

“時代を超えて、みんなが元気になれれば”。福岡CP をはじめとした作り手の気持ちを受け止めているからこその草彅剛のひたすら明るい表情が印象的である。

「草彅さんは、本当に楽しんでいらっしゃって。現場で『ブギウギ最高』『なんかもうズキズキワクワクだよー』『趣里ちゃん、最高、最高』とノリノリでおっしゃっていったのが印象的ですし、とにかく常に楽しんで演じていただいています。これまで戦争やいろいろな艱難辛苦を乗り越えながら、底抜けに音楽を愛し、明るく進んでいく、素敵な羽鳥善一になっていると思います」

「東京ブギウギ」完成に至る前には、珍しく曲作りに悩む局面もあったが、列車のなかで曲をひらめき、喫茶店に駆け込んで紙ナプキンに譜を書いて(第89回)、そして、米兵を呼んでお披露目するというチャレンジ(第90回)ととてもユニークな展開だが、これはモデルの服部良一さんの実話なのだ。

「あまりに面白いエピソード過ぎて、創作ではこういうことはなかなか思いつかないですよね。その素晴らしいエピソードはそのままうまくドラマに取り込みたいという思いです」

「ブギウギ」より 米兵の前で歌うスズ子(趣里) 写真提供:NHK
「ブギウギ」より 米兵の前で歌うスズ子(趣里) 写真提供:NHK

これからはたくましく立ち上がっていく人たちの姿が出てきます

車内は、日本の復興のさなか、疲れた人たちもたくさん乗っていて、羽鳥はその人たちの気持ちにも寄り添う。また、第90回では、復興中の町で、靴磨きの少年・達彦(蒼昴)が出てくるなど、終戦から2年、まだまだ貧困にあえいでいる人たちのいる風景が描かれはじめた。

「復興の町のセットは、照明部もがんばってくれて、ガード下の匂い立つ雰囲気が表現できたと思っています。これまでは、スズ子の住まいのある三鷹が空襲に遭っていなかったため、自宅周辺に復興の様子を描けなかったのですが、これからはたくましく立ち上がっていく人たちの姿が出てきます」

「べっぴんさん」から「ジャズ喫茶ヨーソロー」の看板

靴磨きの少年と出会ったとき、スズ子の頭上にあった「ジャズ喫茶ヨーソロー」の看板。これは「べっぴんさん」(2016年度後期)に出てきた神戸のジャズ喫茶のもの。朝ドラあるあるで、過去作の装飾品が使用されること(「わろてんか」の額や「カムカムエヴリバディ」の看板など)はよくあることだが。

「今回は過去作へのリスペクトと、敵性音楽と弾圧された“ジャズ”という文言が、終戦から数年経った空間で、徐々に街に戻ってきている様子を現すために使わせていただきました」

「東京ブギウギ」を「ひとつの再起の歌として描きました」と福岡CP が言う第19週。クライマックスの第91回では、都合よく空いていた日帝劇場でスズ子のワンマンショーが行われる。きっと明るく前向きな気持ちにさせてくれるだろう。

連続テレビ小説「ブギウギ」
総合【毎週月曜~土曜】午前8時~8時15分 *土曜は一週間の振り返り
NHKBS【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
NHKBSプレミアム4K【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
【作】足立紳 櫻井剛 <オリジナル作品>
【音楽】服部隆之
【主題歌】「ハッピー☆ブギ」中納良恵 さかいゆう 趣里
【語り】高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)
【出演】趣里 水上恒司 / 草彅剛  菊地凛子 小雪 生瀬勝久 水川あさみ 柳葉敏郎 ほか
【概要】大阪の下町の小さな銭湯の看板娘・福来スズ子(趣里)は歌や踊りが大好きで、道頓堀に新しくできた歌劇団に入団し活躍後、上京。そこで、人気作曲家・羽鳥善一(草彅剛)と出会い、歌手の道を歩みだす。“ブギの女王”と呼ばれた人気歌手・笠置シヅ子をモデルにした、大スター歌手への階段を駆け上がる物語。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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