木村拓哉が高校ボクシング部のコーチを演じる木曜ドラマ「未来への10カウント」(テレビ朝日/木よる9時〜/脚本:福田靖)の第3回(4月28日放送)がおもしろかった。いまどきの高校生は他人の不幸な話を聞くとドン引きするというセリフがあったのだ。それが果たして真実かどうかはここでは問わないが、高校生に限らず、いまどきの視聴者は、実生活がしんどいため、テレビドラマにまでしんどいものを求めていないと言われるようになったのは2018年頃だったか。

職場や家庭のしんどい問題をリアルに描くと敬遠されるため、ベールをかけたドラマが増えてきた。そうはいってもドラマには生きる辛さや哀しみが不可欠だ。「未来への10カウント」は生きることに絶望した主人公・桐沢祥吾(木村)が母校のボクシング部のコーチを引き受けたことで再生していく物語なのだから、彼の不幸をベールにかけていては成立しなくなる。そこで“不幸話は高校生をドン引きさせる”という事実をあえて言葉にすることで空気をほぐす工夫を試みたのだろう。しかも“ドヤ顔で”と表現することで、授業していても焼き鳥焼いていてもかっこ良すぎる木村拓哉=二枚目という覆せない事実をすこし笑えるものに転化する。木村拓哉のヒット作「HERO」(フジテレビ)を書いた福田靖だからこそできたことかもしれない。

桐沢祥吾、48歳。決して若いとはいえない彼がわけあってデリバリーのバイトをして生計を立てていた。ボクサーとしてオリンピック出場も期待されるほどの才能があった彼だが網膜剥離によって道を閉ざされる。第1回では「長生きなんかしたくない」「いつ死んでもいい」「なんなら今日でもいい」とまで言うほど生きる気力を失くしている。その理由はボクシングができなくなっただけでないことが第3回でわかる。

ボクシング部員の水野あかり(山田杏奈)は母につきまとう元再婚相手・今宮(袴田吉彦)を撃退するためにボクシングの練習に励む。桐沢は今宮と不幸対決をして、あかりにジャッジさせ、敗けたほうを殴るという奇妙なやり方を行う。それが“ドヤ顔の不幸自慢”である。

第1ラウンド:就職氷河期VS網膜剥離でボクサー人生終了

第2ラウンド:銀行が吸収合併VS結婚した妻ががんで死亡

第3ラウンド:妻に捨てられたVS焼き鳥屋がコロナで潰れた

3つとも桐沢の不幸勝ちで、あかりは桐沢に鍛えられたパンチを今宮にお見舞いする。グロッキー状態の今宮を「生きてかなきゃいけないんですから」「しっかり前見なきゃ」「不撓不屈でいきましょうよ」と励ます桐沢。これが2010年以前のドラマであれば、絶望を体験しながらもそれこそ不撓不屈で生き抜いている桐沢のかっこよさが主となったことだろう。ところが今や桐沢の生き方は高校生にドン引きされると部の顧問・折原葵(満島ひかり)にあっさり言われてしまう。ただし、折原はそういう話が嫌いではないので、自分には話してもいいですよというようなことを言うのでフォローにはなっている。

昭和の終わりから平成にかけてのドラマのスタイルも残しつつ、ボクシング部員役の山田杏奈をはじめとして高橋海人(たかははしごだか)、坂東龍汰、佐久本宝、吉柳咲良などの若い世代の考えも尊重する。「未来への10カウント」はテレビドラマの視聴者が高齢者が大多数のいま、若い世代にシフトしていきたい思惑にも沿ったドラマだといえるだろう。

第1回でもいまどきの若者は厳しくしたら辞めてしまうから、大人が気を使って盛り上げてあげないといけないのだと桐沢の親友でボクシング仲間の甲斐誠一郎(安田顕)が言っていた。

だが、「未来への10カウント」がおもしろいのは、若い世代に寄り添っていることだけではない。寄り添って見えて、実のところ若い世代にも潜む(かもしれない)熱い炎を引きずりだそうとしている点である。第1回では、ボクシングを漫画の影響や親に運動しろと言われてはじめた高校生たちに張り合いを感じられない桐沢だったが、スパーリングをした伊庭海斗(高橋)から強さへの希求が溢れ出すのを感じる。そのとき、それまで虚ろな態度だった桐沢が一変、本気で勝負に出るのだ。

大人も若者もお互い内側でくすぶらせていた炎が、触れ合うことで燃え盛る。これぞドラマだと感じた。いやでも、ここに注目してしまうことは若くないってことなのかもしれないが。それでもいいから、こういう人間と人間がガチでぶつかり合うドラマがやっぱり見たいのだ。

余談だが、木村拓哉さんは絵もうまいんだなあと感心した。さらっと黒板に描く焼き鳥の絵がうまい。