“朝ドラ”こと連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』、2代目ヒロイン雉真るい(深津絵里)が「あきらめへんって決めたんです。ジョーさんと幸せになることを」(第58回)と大月錠一郎(オダギリジョー)とついに結ばれて京都で“大月るい”として新生活をはじめる。そこで見えてきたのは、るいが母・安子(上白石萌音)の生きてきた道と同じ道をたどっていることだ。「あなたと日なたの道を歩いていきたい」(第59回)から小豆を炊いてお菓子を作ること(第60回)、自転車の練習をすること(第62回)などなど……。あの荒物屋・赤螺一家も再登場して、過去から未来、すべては繋がっていると盛り上がる『カムカム』13週を、演出した安達もじりさん、チーフプロデューサーの堀之内礼二郎さんに振り返ってもらった。

――あっという間に京都が舞台になりました。

安達もじり(以下 安達) 家庭を持つことをこわいと思っていたるいが結婚してお母さんになるまでを1週間5回という短い話数の中、駆け足で撮りながらも、るいの心の変化を丁寧に描くことを心がけました。ジョーの入水シーンはそのシーンそのものよりも、そこに至るまでがセンシティブなため、撮影の何週間か前に、オダギリさんと深津さんと3人で、ここまでの絶望を表現するか、るいがジョーをぐっと抱きしめる塩梅をどこまでどう積み重ねていけばいいか議論を重ねました。撮影当日は快晴で曇っていたほうがいいとも思いつつ、快晴を逆手にとるような表現にしました。

――るいの体験が安子と重なっていくところが面白いです。チーフプロデューサーの堀之内礼二郎さんが以前『カムカム』は「積み重ねの物語」とおっしゃっていたことがはっきりしてきました。〈カムカムエヴリバディ〉が深すぎる 制作者に聞いた裏テーマ

安達 海のシーンのるいのセリフ「あなたと日なたの道を歩いていきたい」もシチュエーションは違いますが完全に安子と同じですよね。藤本有紀さんの台本の仕掛けがみごとなので、安子編と重なる部分はできるだけそう感じてもらえるようにおかしくない範囲で寄せて撮っています。川べりで自転車の乗り方を練習するシーンのカット割りはほぼ一緒です。あえてそんなこともやりました。この先も実はこのパターンがあります(笑)。安子が体験したことだけでもなく、ああ、こんなことがあったなあとちらっと思い出させる仕掛けかもしれません。

堀之内礼二郎(以下 堀之内) るいと安子、やがてひなた(川栄李奈)にも響き合っていきます。すべてが伏線になっているんです。中には、僕らの考えてないような響き合いみたいなものを、視聴者さんがみつけてくれたこともあるんですよ。例えば第52回で、洋服屋で自分はジョーにふさわしくないと思って身を引こうとするるいに、第12回で描かれた安子と稔の別れを思い出したという声を聞きました。僕らはそこまで考えてなかったのですが、意図的なものと意図しないで響き合うものがあったりして。もしかして藤本さんは、こういう響き合いがどんどん派生していくことを考えていたのかなと思うと、すごいなあと驚くばかりです。

安達 積み重ねることでいえば、安子編の赤螺家の皆さんが出てくることは最初から織り込み済みで作っていましたが、大人になった吉右衛門として吉兵衛役だった堀部圭亮さんがいらっしゃるだけで単純に笑えてきますよね。藤本さんが楽しんで書いている時空を超えた感じがドラマならではと思って私も楽しみながら撮影しました。キャラ付けに関しては、堀部さんは子役の吉右衛門と共演していたので、はて、あの特徴的な吉右衛門の空気感をどう残しましょうかと相談し、様々なパターンを試しながらやった結果、微妙なさじ加減で、ああ、吉右衛門であって吉兵衛ではないなあと思うところを演じてくれました。若干、吉兵衛寄りになっているのは、お父さん(吉兵衛)が空襲で亡くなって、お母さんに女手ひとつで育ててもらった吉右衛門がお父さんの凄さを感じて、そのケチなところを受け継いだという裏設定です。

――親子の役を同じ俳優が演じることは今までありましたか。

堀之内 はじめてではないと思います。子役として出演した俳優が後(のち)にその血縁者の役で再登場することは朝ドラや大河ドラマでよくあります。直近だと『おちょやん』で千代の子役だった毎田暖乃さんが後(のち)に子孫として再登場しました。ひとりの俳優が子孫も演じるというフォーマットは視聴者もふくめた共犯関係というか文化のようになっていますよね。とはいえ『カムカム』ほど最初から予定していたことはあまりないことだと思います。しかも、赤螺家の堀部さんだけでなく、桃山家の尾上菊之助さんまで親子ふた役というのはなかなかないことです。100年という長い期間を描いているドラマだからこそだと思います。

安達 菊之助さんもそうで、初代の、往年の銀幕スターのモモケン(桃山剣之介)と、テレビを主戦場にがんばっている息子という設定で、先代はどっしりと、子孫は真逆に振ってみました。堀部さんも菊之助さんも共に、微妙な表情がさすがだなと思います。ちょっとしたことも演じ分けることのできる役者さんはすごいとおふたりを見て痛感した次第でございます。

堀之内 安子と縁の深い赤螺家とるいがこんな傍にいるけれど、お互い気づいていないのは、ドリフに例えれば「志村、後ろ、後ろ」と言うようなもので。視聴者は気づいているけれど、当人は縁があることを気づかずにいる。こういうことって現実にもありますよね。見えない縁に支えられて世の中ができている。そんな風に感じて、感謝の思いに胸があたたかくなったという方がいたら、制作に携わった一人としてすごく嬉しいです。

――視聴者が知らなかったのは、ベリー(市川実日子)の京都での一子としての顔です。

安達 お着物を着られると雰囲気が変わりますよね。とてもお似合いです。ベリー(一子)役の市川さんには最初から京都の茶道家のお嬢さんと設定をしたうえで演じてもらっていたので、こっちがほんまの姿やでという感じです。上品だけどはっきりものを言うそのさじ加減を探りながらキャラクターを作っていきました。今後も茶室シーンがでてきますが、「一子の部屋」と冗談を言いながら撮っています(笑)。

取材を終えて

朝ドラは半年ごとに違うドラマがはじまるが、「朝ドラあるある」と言われるようにおなじみのエピソードがよくある。主人公が故郷を出るとか、初恋は実らないとか、主人公と対比する人物がいるとか、姑の嫁イビリとか(最近減ってきた)、立ち聞きとか、玉音放送とか、国防婦人会とか……。100作以上制作しているのだからかぶるのも無理はなく、逆にそれが「待ってました」的なものとして愛される。今回はどんな演出で、どんな演技で表現するか?それを伝統芸的に楽しむのだ。『カムカム』ではそこから一歩進化して、コーナー的に消費するのではなく「繰り返す」ことを物語の核として描いている。まるで秘伝のタレとかスープを継ぎ足していく老舗のような物語で、三代の物語100年間が半年、猛スピードで進んでいくが、同じようなエピソードがリフレインされることで、その駆け足感が薄れ、以前、見た感動がさらに継ぎ足されて味わいが深まっていくのだ。最初はさほどでもなかったことまで繰り返すことで愛着が増していく。朝ドラってそもそもそういうもので、だからこんなに長く1961年から60年以上も続いているのだろう。2021年は朝ドラ60周年だったから、 21年後期の『カムカム』にも60年続いたことを記念する気持ちがあったのではないかと想像する。朝ドラが100年間、続くことを祈りたい。

『カムカムエヴリバディ』より 写真提供:NHK
『カムカムエヴリバディ』より 写真提供:NHK

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』

毎週月曜~土曜 NHK総合 午前8時~(土曜は一週間の振り返り)

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢

作:藤本有紀

プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香

演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史 二見大輔 泉並敬眞

音楽:金子隆博

主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈

語り:城田優

主題歌:AI「アルデバラン」