“朝ドラ”こと連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)は現在、三世代ヒロインの二世代目・るい(深津絵里)の物語が描かれているところだ。大阪は道頓堀のクリーニング店で住み込みながら働くるいは客のひとり・ジョーこと大月錠一郎(オダギリジョー)と次第に心を通わせていく。第11週ではトミー(早乙女太一)とベリー(市川実日子)と4人で海にドライブ(淡路島でロケ)に行き青春ドラマの雰囲気に。大阪編では演出スタッフも新たな顔ぶれが参加している。中盤を盛り上げる制作スタッフに裏話をたっぷり聞いた。

――第10週の演出が松岡一史さん。第11週は泉並敬眞さん。ふたりとも大阪編からの登板です。演出スタッフはどのように決めていますか。

堀之内礼二郎CP(以下 堀之内) 『カムカム〜』は3世代の物語で、それぞれ、時代と場所とキャストが変わるため、違うドラマを3本同時並行で作っているようなものなんです。第2部・大阪編はジャズやクリーニングに関することなど、準備に時間がかかることが多かったので、第1部・岡山編をやりながら、松岡と泉並が中心となって第2部の準備を行いました。第3部・京都編も第2部の途中から別の演出が中心となって準備をはじめています。ヒロインだけでなく、スタッフも含めてのバトンリレーですね。

※松岡さんは、朝ドラ『まんぷく』や土曜ドラマ『心の傷を癒すということ』などに参加、泉並さんは朝ドラ『スカーレット』や大阪発ショートドラマ『これっきりサマー』などに参加している。

――第10週で印象的だったシーンはどこですか。

松岡一史(以下 松岡) 第46回でるいが竹村家の子供だったら良かったと感じている場面があります。それがはたして本心なのか断定できないように探りながら撮影しました。今はまだ、るいという人物がこう考えていると決定打を打てない感じです。演出家は本来、俳優を導く役割だと思いますが、深津絵里さんがるいの心情を繊細に考えて演じていらっしゃるので、こちらから「こうです」と決めるのではなく、共に探り探り作っています。

――深津さんの俳優としての凄さを感じた点を教えてください。

松岡 妥協しないで役を深掘りされる姿が印象に残っています。髪型や服装だけでなく居住まいひとつに気を配って年齢相応に見えるように演じていらっしゃいます。例えば脚の開き方などでも全然違って見えるんです。

――オダギリさんの魅力はいかがですか。

松岡 オダギリさんは誠実かつおもしろい方です。トランペットを吹くときの指使いが完璧です。毎日のようにNHKに来て練習していらっしゃいました。

泉並敬眞(以下 泉並) オダギリさんだからこそ、ジョーがちょっと母性をくすぐるかわいらしいキャラクターに見えていると思います。「ありがとう」とか「はい」とか普通の言葉をオダギリさんが言うとほわっとしますし、ケチャップをあんなに服にこぼすことは現実にはあり得ない状況でもオダギリさんだと魅力的に見えますよね。トランペットを吹く以外は基本、ダメ人間だけど憎めない。ジョーのああいう雰囲気を見ているとるいは思わず「もう〜っ」て世話したくなってしまう。そんなジョーの魅力を視聴者の皆さんにも感じてもらえればと思います。

松岡 オダギリさんは、多くの経験に基づいて的確なことをやってくださるので安心して委ねられます。ただ、ご自身も監督をされているのでこちらの演出をどう思われているかひやひやしていますが(笑)。

『カムカムエヴリバディ」第10週より 写真提供:NHK
『カムカムエヴリバディ」第10週より 写真提供:NHK

ジャズ喫茶Night and Dayのモデルは実在の音楽喫茶「ナンバー一番」

――ジョーの部屋が個性的ですよね。

松岡 ジャズ喫茶Night and Dayの入っているビルの上階に住んでいる設定です。Night and Dayは道頓堀のたもとに実際にあった音楽喫茶「ナンバー一番」をモデルにしています。セットなので実際のような規模は出せないですが、5、6階建ての雑居ビルで、ジョーはいわゆる物置きスペースのようなところを間借りしています。お店で過去に使っていたであろう道具で仕切りを作っているのは、るいが訪ねて行ったとき、すぐにジョーと顔を合わせることなく、どうやったら面白く出会えるか、美術スタッフがアイデアを出してくれたものです。『オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート』をジョーがいかにもどうだという感じではなく、自然に陽光の中で吹くことのできる場にもなっています。

――第47回でジョーがやって来たお祭りは地蔵盆で、関西では有名ですが、関東では馴染みのないものです。ここ10年くらいのBK(NHK大阪の略称)さんの朝ドラで地蔵盆を取り上げたことはなかった気がしますが、藤本有紀さんの指定ですか。

松岡 僕もBKのドラマ作りに携わるようになって長いほうですが、地蔵盆という指定が台本であったのははじめてかもしれないですね。「お祭り」や「縁日」のように季節を表すイベントはよくありますが、地蔵盆を描くことは少ないですよね。僕も子供の頃、地蔵盆でお菓子をもらったりしていたのでふつうにすんなり受け入れて、自分が見ていた景色のセットを作ってもらって撮ったのですが、関東の人たちに馴染みがないことをはじめて知りました。(地蔵盆は主として近畿地方で行われる、子供のためのお祭りで、子供にお菓子が配られる。町内に祀られているお地蔵様信仰に基づいたもの)。

――第11週で大事にした部分を教えてください。

泉並 るい編全体が『アメリカングラフィティ』のような青春物語だと思って作っています。8週までは視聴者も制作側も心がざらつく内容がありましたが、9週以降はゆっくりと癒やされるものになっています。イベントがたくさんあるわけではなく、ただ「恋をした」というエピソードのみですが(笑)、それをゆっくりと描き「るいちゃん頑張って」と応援するように見てほしいと思いました。

――るいとジョーの関係の進展はどのように考えて撮影しましたか。

泉並 第52回の終わりは、ジョーがるいの傷と彼女の過去をどう受け入れるか、俳優部と共にいろいろ考えたうえでやりました。その中で、試着室の鏡を通してお互いを見たらどうだろうとなりました。鏡を通して自身と葛藤するというふうにもなったかなと思っています。

カーテンを閉める動きは台本にも書いてあったのですが、『カムカム』では「見せないこと」「視聴者のかたの想像に任せること」を心がけていて、これもそのひとつです。

雨は、台本上は雨指定ではなかったのですが、たまたま直前まで雨が降っていたんです。そこで、るいにとっていやな思い出を変換していくに当たり、当時と同じような状況(雨)に置いてみたらどういうふうになるのかなと思って雨にしました。

堀之内 るいのように目に見える傷が外にある人のみならず、コンプレックスを内に抱えた人はいて。それを曝け出して受け入れられていくことで楽になっていくことが普遍的なものとして見ていただけたらいいなと思っています。

ーーるいとジョーはなぜ惹かれ合ったのでしょうか。

泉並 藤本さんに、るいとジョーはどこでお互いを好きになったんですかね?と伺ったら、ふたりは気付いてないけれど、どこかで繋がっているんだよねと藤本さんは言っていました。第48回で、ジョーがるいに「お母さんに会いたいんだね」と言うのがそれを象徴するシーンかなと思っています。るいは母を恨んでいるけどやっぱり好きなんですよね。

恋愛において相手を好きになるきっかけは、自分の本当に言いたいこと、もしくは無意識な本音をポンと言い当てられることかなと思いまして。ジョーは、ふらりと夏祭りに来ちゃったり、るいが反応する『サニーサイド』を吹いてしまったり、「お母さんに会いたかったんだね」と思ったことを素直に言葉にしたり、ふつうなら躊躇してしまうことを一足飛びでやってしまいます。そこが彼のいいところで、そんな彼の不意打ちによって、るいが19年間、抱えてきた頑なさが崩れていくんです。

――深津さんのキャッチボールシーンが良かったです。

泉並 勇(村上虹郎)と同じく近鉄バッファローズの山崎慎太郎さんに野球指導をしてもらっていますが、深津さんは練習期間があまりないなか、きれいなフォームでした。岡山で勇とキャッチボールしていたとき運動神経の良さを発揮していた名残が成長してもあって、役に立つことが重要なので、それを見事に表現していてさすがだと感じました。素人だとあそこまでボールは飛ばないんですよ。深津さんはふつうにノーバウンドで届くので筋がいいと現場で山崎さんがおっしゃっていました。

べリ−とトミーも後々まで繋がっていくキャラクター

――早乙女太一さんと市川実日子さんも魅力的です。

泉並 べリ−とトミーも後々まで繋がっていくキャラクターなので彼らを好きになってもらうように考えています。早乙女さんは、台本に描かれたトミーのかっこつけだがいやみにならないキャラを抜群に的確に演じてくれています。

市川さんは恋敵の役ではありますが、どこか女性が応援したくなるキャラになっています。恋に破れてちょっと大人になったベリーが最終的にはるいを支えて、今後は彼女たちには友情が芽生えていくようになると思います。

――岡山編の話になりますが、『カムカム』でしいたけが出てきた回の放送日と同じ日の『純ちゃんの応援歌』再放送にもしいたけが出てきました。『カムカム』に限らず、朝ドラが再放送の朝ドラと内容が重なるときがあるのは、意図的に放送回に合わせて小ネタを入れているのでしょうか。

堀之内 しいたけは偶然と思うんですが(笑)。『純ちゃん〜』では『カムカムエヴリバディ』というワードも出てきて。それもたぶん、偶然と思うんです。ただ、藤本さんは朝ドラをたくさんご覧になっていて、第8週でも朝ドラ第1作の『娘と私』が出てきましたし、『カムカム』では過去の朝ドラが今までにないような役割を果たします。また、朝ドラに限らず、その時代で流行ったことをとても大切に、織り込みながら『カムカム』の物語は進んでいきます。とくに第2部、第3部の時代は僕らが生きて知っている時代なので、積極的に時代性のわかるものを取り入れていきます。朝ドラもそのひとつです。それはそれで新しい楽しみ方になるかなと思っています。

取材を終えて

るいとジョーは『オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート』を特別なものとしている者同士だった。それぞれ過去の体験に少なからず傷ついているが、出会ったことでその傷が癒やされていく。出会い、音楽、お祭り、野球……と世代を超えて重なり合う出来事の数々。過去が現在に影響を及ぼしていく、3世代のドラマならではの味わいがじわじわと効いてくる『カムカムエヴリバディ』。記憶を刺激するアイテムがたくさん出てくることも楽しみにしたい。

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』

毎週月曜~土曜 NHK総合 午前8時~(土曜は一週間の振り返り)

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢

作:藤本有紀

プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香

演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史 二見大輔 泉並敬眞

音楽:金子隆博

主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈

語り:城田優

主題歌:AI「アルデバラン」