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朝ドラと平成ライダーのすてきな関係

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
(GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

平成最後の暮れ、平成ライダーが朝ドラに大集合してSNSが沸いた

インスタントラーメンがいつ開発されるのか待たれる、朝ドラこと連続テレビ小説『まんぷく』(NHK)に3人の歴代 仮面ライダーが顔を合わせたとSNS が盛り上がったのは、12月27日(木)の第76回のことだった。

主人公・福子(安藤サクラ)の夫・萬平(長谷川博己)が脱税の罪で捕まり、どうしたものかと家族会議が行われる場面で、福子の義兄・忠彦役の要潤(01年『仮面ライダーアギト』)、姪の恋人・神部役の瀬戸康史(08年『仮面ライダーキバ』)、萬平を助ける弁護士・東役・菅田将暉(09年)『仮面ライダーW』)が一同に介した。

仮面ライダーがお茶の間に集まるといえば、家の警備を頼まれたライダーたちが一般家庭のテーブルを囲み打ち合わせするというちょっとシュールなCMがあったが、そちらは昭和のライダーで、『まんぷく』では平成ライダーが集合した。

平成ライダーとは、2000年から”平成仮面ライダー”として再スタートをきった”仮面ライダーシリーズ”(テレビ朝日)のヒーローたち。不思議と平成ライダーたちが、その後、朝ドラに出演することが多く、そのつどSNSは盛り上がる。

平成ライダーに出演した若手俳優たちは、朝ドラのヒロインの相手役のような大きな役から、家族役、ゲスト的な役など、いろいろな出演の仕方があって、要潤は、01年、アギトに出た翌年の02年、『まんてん』に出た。『まんぷく』はそれ以来、16年ぶりの朝ドラ。

ライダーでは敵役だった綾野剛は朝ドラでブレイク

平成ライダーから朝ドラへの流れで、最も鮮烈だったのは、11年の『カーネーション』だろう。03年の『仮面ライダー555』に出演していた綾野剛が、主人公・糸子(尾野真千子)と道ならぬ恋に落ちる役・周防さんを演じて、女性視聴者からの絶大な支持を獲得した。

ただし、綾野は厳密にいうとライダーではなく敵役だった。ヒーロー側ではない俳優が、朝ドラでヒロインと恋する役という意外性。それが、道ならぬ恋だったから余計に背徳感があってよかったのかもしれない。とにかく、綾野剛演じる周防さんは人気だった。

そして、『カーネーション』にはれっきとしたライダーも出ていた。だんじりの花形・大工方として活躍する凛々しい泰蔵兄ちゃんを演じていた須賀貴匡は、02年の『仮面ライダー龍騎』に出演していた。『カーネーション』は10年の『ゲゲゲの女房』から引き続いての朝ドラ出演だった。

その後、13年『あまちゃん』で福士蒼汰(11年「仮面ライダーフォーゼ」)、17年『ひよっこ』で竹内涼真(14年『仮面ライダードライブ』)、磯村勇斗(15年『仮面ライダーゴースト』)、18年『半分、青い。』では佐藤健(07年『仮面ライダー電王』)が主人公の相手役になっている。

佐藤健に至っては11年も前の作品なので、いまさら平成ライダー出身俳優が朝ドラヒロインの相手役の法則に当てはめるのもどうかと思いきや、12月22日から公開された『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』に出演しているということで、

18年は朝ドラにもライダーにも出たことになり、余計に両シリーズの関係性を濃くしたかのよう。

なぜ、ライダーから朝ドラに?

では、なぜ男児対象の特撮ヒーローものの出演者が朝ドラに多く起用されるのか、というと、例えば、01年に『週刊 女性自身』で「“日曜のおめざめ”は「朝ヒーロー」にドキドキ! 『仮面ライダークウガ』『未来戦隊タイムレンジャー』 子供も、ママも、お姉さんまで“大好きな”イケメン図鑑」という記事が掲載され、02年の女性情報誌『Hanako』では「ハシャぎたい気持ちはお子ちゃま以上!? 特撮の新イケメン登場」、同じく02年『週刊朝日』では「ママたちが夢中のイケメンヒーロー」など、平成ライダーがはじまってからその主人公たちに女性視聴者が飛びつく現象が起きていた。

なにより第1作の『仮面ライダークウガ』のオダギリジョーの人気が高く、その後も『仮面ライダーアギト』(01年)賀集利樹、要潤、『仮面ライダー龍騎』(02年)須賀貴匡、松田悟志、弓削智久、『仮面ライダー555』(03年)半田健人、『仮面ライダーカブト』(06年)水嶋ヒロなどがライダーをステップボードに映画やテレビドラマに進出していった。朝ドラもそのひとつだ。

また、同じくテレビ朝日の人気特撮番組”スーパー戦隊シリーズ”も若手俳優の登竜門で、『侍戦隊シンケンジャー』(09年)の松坂桃李は朝ドラ『梅ちゃん先生』(10年)と『わろてんか』(17年)、『天装戦隊ゴセイジャー』(10年)の千葉雄大は『わろてんか』、『獣電戦隊キョウリュウジャー』(13年)竜星涼は『ひよっこ』、『烈車戦隊トッキュウジャー』(14年)の志尊淳は『半分、青い。』を彩っている。

もともと朝ドラは女性……特に主婦を対象にしていたから、特撮ヒーローもので女性視聴者をトリコにした若手を朝ドラに起用するという作戦は功を奏した。とりわけ、若いヒロインの相手役に、ヒーローを演じてきた清潔感のある彼らはピッタリ。

須賀貴匡や綾野剛起用の頃、どこまで戦略的だったかはわからないが、竜星涼、竹内涼真、磯村勇斗がそろった『ひよっこ』あたりからはSNS でかなり盛り上がっていて、『まんぷく』では、前述した『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』の公開直後ということもあり、送り手が狙いを定めてきたといえるだろう。こうなると、女性視聴者というよりも、男女問わず、SNSユーザーに的を絞ってきた印象がある。それと、親子で楽しめるファミリー路線の強化も感じる。

19年、4月からはじまる朝ドラ100作『なつぞら』には『仮面ライダーフォーゼ』に福士と共に出ていた吉沢亮がヒロイン(広瀬すず)と重要な関わりをもつ役で登場する。平成は終わるが、平成ライダーと朝ドラの関係性はまだまだ強い。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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