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朝ドラ『まんぷく』に出てくるラーメンはどんな味? NHK大阪局の食堂に登場した限定品を食べてみた。

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
BKワンダーランド 限定 まんぷくラーメン 撮影:筆者

『まんぷく』劇中のラーメンを再現する企画が

朝ドラこと連続テレビ小説『まんぷく』(NHK)が快調だ。開始から一ヶ月、全話、視聴率20%以上をキープしているのは、目下、朝ドラが空前のブームとはいえ、なかなかないことだ(ビデオリサーチ調べ 関東地区)。

インスタントラーメンを開発した安藤百福をモデルにした発明家・立花萬平(長谷川博己)と結婚して、生涯支えていく主人公・福子(安藤サクラ)の物語は、キャラクターもストーリーも明快なうえ、なんといっても“ラーメン”が親しみやすい。

萬平がいつかインスタントラーメンを開発するまでは紆余曲折あって、いろいろな事業に手を出しては失敗するというあらすじではあるものの、第一週からラーメンがことあるごとに出てきて、福子も萬平もじつに美味しそうに食べている。

第6週に入った11月、舞台は海のそばの泉大津に。戦争で塩不足のためラーメンの塩っ気が足りないと感じた萬平は、塩を作ることにする。

ラーメン開発までの間も、ちゃんとラーメンに関係する仕事をするうえ、これだけ毎朝、ラーメンが出てくると、矢野顕子ではないがラーメン食べたい、気持ちが高まって高まって止まらない。

そこへ、11月3日(土)、4日(日)、NHK大阪放送局が毎年開催しているNHK大阪放送会館公開イベント〈BKワンダーランド〉で、劇中に登場した味を再現した“まんぷくラーメン”を一杯500円で、NHKの食堂を一般開放し、限定販売するというから矢も盾もたまらず行って来た。ちなみに、BKとはNHK大阪の略称。

限定“まんぷくラーメン”は、『まんぷく』で料理指導をしている広里貴子が監修し、第1話、昭和13年、福子が街中の屋台で初めて食べたラーメンを再現しているという。

どんなにドラマを食い入るように見ても、画面の中のラーメンを食べることはできない。

「いいニオイ」という台詞があっても、ニオイは実感できない。それが、この舌や鼻で味わえるのなら、体験したい!

1日200食(計400食)、1人1杯、という限りがあるので、整理券をもらわないといけない。

念のため、広報に、取材は入れないのか聞いたところ、写真と広報資料は提供できるが、試食はできない、食堂にも入れないという。それはごもっとも。お客様優先、マスコミが優先的に限定品をゲットするなんてことはゆめゆめあってはならない。だから、平等に一般客として、朝から並んで整理券をもらってラーメンを食べることにした(あとで広報さんに、え、並んでたんですか?と驚かれた)。

朝9時半から食券販売、整理券配布ということで、8時40分にNHK大阪に来てみたら、ちょっと寒い外に、すでに5、60人並んでいた。私の後ろにどんどん並んでいく。配布開始20分で整理券はなくなったという。

まんぷくラーメン整理券 撮影:筆者
まんぷくラーメン整理券 撮影:筆者

麺は太め、スープはあっさり

ラーメンを食べる時間は11時15分から14時までの間で、6ブロックに分けて順番に食堂に入る。私は13時15分の部を選び、まず〈BKワンダーランド〉をぶらついて、『まんぷく』の衣裳展示とセット展示などを眺めた後、梅田で時間をつぶすことにした。

目的は、阪急うめだの地下一階にある〈モモフクヌードル〉を購入することである。こちらは、萬平さんのモデル安藤百福の会社・日清食品がスープや具材を選んで、自分好みのものが作れるもの。化学調味料を使用せず、ナチュラルな野菜の味わいにこだわっているという。カラフルな具材が目に楽しい売り場であったが、ここも並んでいた。

無事、オーダーメイドとオリジナルを購入し、〈BKワンダーランド〉に戻り、『まんぷく』セットで一応、記念撮影も体験した後、いざ、15階の食堂へ。

ふだんは、局員や番組関係者が利用する場所で、一般開放するのは、『ごちそうさん』を放送していた13年以来。

ふだん〈なにわ食堂〉というそこは、シンプルないわゆる社員食堂のような内装。厨房を隔てたカウンターから料理をもらってテーブルへ。窓辺に面したカウンター席は、大阪城も見えて、見晴らしがいい。

食堂に入る経路 撮影:筆者
食堂に入る経路 撮影:筆者

さて。まんぷくラーメン。見た目はテレビで見たまんま。スープはあっさり飲みやすい。

麺は太めのストレート麺でもっちり歯応えがある。メンマ、チャーシューでアクセントをつけながらあっさり、もっちりを繰り返し、すべてたいらげられた。スープが胃もたれしないで、なんだか清々しくさえあった。

料理監修・広里さんに聞いたラーメンの秘密

広報を通じて、料理監修の広里さんに質問してみた。

Q:昭和初期のラーメンは、現代と比べて何が違うのでしょうか。素材、調味料などでしょうか。

現在より薄味に作ってあるとのことですが、なぜなのでしょうか。

広里:私が調べたかぎりでは、今のように長時間かけて濃厚スープを作るというのがあまりなかったと聞いております。

なのであっさりスープで、香りの強い煮干しや節(サバ、かつおなど)のスープを効かせた和だしも多かったようです。

Q:スープがあっさりしていて、食べ終わって、胃にもたれずよかったです。工夫されている点を教えてください。

広里:劇中では何回も一人の俳優さんが食べるシーンが続くことがあるので、のどの渇きやすい味付けは演技の妨げになるのでひかえています。ふつうのラーメンは1杯食べ終わったときに女性でしたらスープを残してしまうくらいの満足感があると思いますが、まんぷくで出しているラーメンはスープを飲み干してもすこし胃袋に余裕がある位の味付けにとどめています。

Q:麺がもっちりしている気がしたのですが、製麺の仕方の違いはなにかありますか。めんの太さや縮れ具合など、『まんぷく』ならではの特徴はどこになりますか。

広里:製麺屋で現在も売られている物で形状がドラマに適している物をシーンに応じて選んでいます。ラーメン屋、闇市等々全て麺は違い、BKワンダーランドで使用した麺は、ストレート麺のやや太めで、劇中で使ったものの中で比較的伸びづらいものを選びました。

Q:当時から、チャーシュー、シナチク、なると、ネギ は定番だったのでしょうか。

広里:私が調べて限りではそうだと思います。舞台が関西なので、ネギは青ネギを使っています。チャーシューはラーメンスープや返し(タレ)を作るときのだしがらを利用したものです。

今後時代がすすむにつれてトッピングも変える予定です。

缶詰の人・藤山扇治郎がネタバレ

野呂を演じる藤山扇治郎と近田アナウンサー 撮影:筆者 許可を得て撮影しています
野呂を演じる藤山扇治郎と近田アナウンサー 撮影:筆者 許可を得て撮影しています

ラーメンを食べた後は、14時30分から、福子のことが気に入って、缶詰を三年間、貢いでいた、大阪東洋ホテル厨房の料理人・野呂幸吉役の藤山扇治郎のトークショーを観覧した。

内容は「藤山扇治郎さんってどんな人」「まんぷく裏話」「浜野謙太からのメッセージ」「缶詰クイズ」「まんぷく検定」など、愉快なトークであっという間の1時間だった。

司会は、鉄道に詳しい近田雄一アナウンサー。99年、NHK入局、東京、静岡、青森などを経て、大阪に。現在『ニュースほっと関西』を担当。過去、『ダーウィンが来た!〜生き物新伝説〜』ナレーション、『先人たちの底力 知恵泉』二代目店主などをやっていた。

藤山扇治郎は、祖父は昭和の喜劇王・藤山寛美、叔母が朝ドラ『芋たこなんきん』(06年)でヒロインを演じた藤山直美。幼い頃、故・中村勘三郎と共演もしている。

13年松竹新喜劇に入って活動中。「朝ドラに出演できるなんて夢のよう」と語った。

『まんぷく』裏話としては、料理人なのに料理のシーンがない。まだ下積みだったのだろうとのこと。

缶詰を渡すシーンは一日でまとめ撮り。

6回、渡していて、福子に、ツナ、コンビーフ、トマトスープ、ビーフシチュー、保科恵(橋本マナミ)にビーフシチュー、チェリー。

福子に渡していた缶詰が、野呂が購入したものなのか、厨房からこっそりもらってきているのか、SNSなどで話題になったものだが、「横流し」だったと明かす藤山に、「公式に横領と認めた」と近田アナ。言葉のチョイスが巧い。

生のトークはこういう面白い会話の流れが醍醐味で、喜劇俳優の血筋らしく明るく軽妙なトークをする藤山と、あくまで藤山の話を中心によどみない進行をしながら、ときおり、ほんのすこしの毒のあることをちょいちょい入れてくる近田アナウンサーのバランスが良かった。

藤山はついつい口を滑らして、ここだけの話なのでSNSで拡散しないでと観客にお願いすることが2回ほどあったが、近田アナが言っちゃダメな単語をあえてまた繰り返して言ったり、最後に「家、帰って、みなさんで共有してほしい話、共有してほしくない話ありましたけど……」などとまとめたり、ここだけの秘密やネタバレの共有を一層楽しいものにしてくれた印象がある。

こういうことによって、内緒にしておこうと思う気がする気がするのだが、皆さん、いかがでしょうか。

以前、この枠で、『半分、青い。』の広報プロデューサーにSNS時代、以前より速く広く拡散する情報の扱い方についてインタビューしたが、ネタバレをいい方向に切り替えて、送り手と受け手が目に見えないくらいのごくゆるいルールを共有しながら、いっしょに遊ぶくらいのことが、今、求められているのではないか。近田アナの対応には、そのセンスが感じられた。

4日(日)は、NHK大阪ホールにて、福子と姉ふたりを演じる、安藤サクラ、内田有紀、松下奈緒のプレミアムトーク(こちらは抽選)が行われた。こちらの司会は17年3月まで「スタジオパークからこんにちは」で名司会をしていた伊藤雄彦アナウンサー。

あとで放送することもあるが、今回は放送の予定はないそうだ。

ところで、野呂はもう出て来ないのか。

藤山扇治郎はいったいどんな秘密を語ったのか。

ここでは触れないでおく。

〈BKワンダーランド〉とは

〈BKワンダーランド〉には、2日間計で約2万人が来場。

私が見た限りでは、親子連れから年配の方まで幅広い客層だった。

〈BKワンダーランド〉は、昭和63年(1988年)に前身となる「秋のBKひろば」がスタート。コンセプトは「NHK大阪放送局へ親しみを感じていただく」こと。

平成20年(2008年)に〈BKワンダーランド〉に改称。

人気が高い企画は、BKで制作している「連続テレビ小説」(朝ドラ)のドラマセットの公開。

今年は一階のアトリウムに『まんぷく』の立花家(戦前)のセットを設置し、ポスターと同じ写真を撮れる企画を実施した。

ほかに、今年の企画は、ふわふわジャンボどーもくん、キッズトレインなど子どもが体験できるもの、災害報道の最前線展示と生活に根ざしたもの、8K の映像を体験できるものなどいろいろ。

イベントを担当する事業部だけでなく、制作部・報道部・技術部・広報部など、あらゆる部署が協力・連携して実施しているそうだ。

『まんぷく』の美術ガイドブックが配布されるなど、手作り感覚のあるイベントだと感じた。

『まんぷく』のセットでポスターと同じようなアングルで撮影できる おかず以外はお椀に入ってなかったのがちょっと惜しい 撮影:筆者
『まんぷく』のセットでポスターと同じようなアングルで撮影できる おかず以外はお椀に入ってなかったのがちょっと惜しい 撮影:筆者
忠彦(要潤)の描いた絵や、ハンコを作るためのルーペなど道具が飾られていた 重り(?)に注目 撮影:筆者
忠彦(要潤)の描いた絵や、ハンコを作るためのルーペなど道具が飾られていた 重り(?)に注目 撮影:筆者
フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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