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賛否両論の月9『コンフィデンスマンJP』のどこが賛でどこか否か、古沢良太の過去作と比較してみた

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
『コンフィデンスマンJP』公式サイトより

期待値の高かった古沢良太ドラマ

かつてテレビドラマの女王様的存在であった月9だが、最近、少しおとなしい。

『民衆の敵〜世の中おかしくないですか!?〜』『海月姫』と続けて平均視聴率は一桁だった。人気の低下に歯止めをかけることを期待されてか、『リーガルハイ』シリーズや映画『探偵はBAR にいる』などの人気脚本家・古沢良太の『コンフィデンスマンJP』がはじまった。

実際、15年に放送された彼の初月9『デート〜恋とはどんなものかしら』は初回視聴率が14.8%で全話平均も10%台、一回も一桁に落としてない。

『コンフィデンスマンJP』はコンゲームと言われる信用詐欺の話で、長澤まさみ、小日向文世、東出昌大の三人が、毎回、大物ゲスト演じるお金持ちたちから大金を巻き上げていくという趣向。

4月9日(月)に30分拡大の90分で放送された第1話は、江口洋介演じるゴッドファーザーみたいな人物がターゲット。はじまる前の宣伝などを見ていると、制作費をかけて、大きなスケールで、長澤、小日向、東出があの手この手を使って、ターゲットを陥れていく痛快なドラマになるのではないかと想像していた。小日向文世は番宣番組で名画『スティング』に例えていたし、ウェルメイドの騙し合いドラマを楽しめそうだと期待は膨らんだ。

ふたを開けてみたら、偽物のカジノから偽物の空港まで作るという大胆不敵なやり口ではあるが、それがかなりこども騙し(敢えてそうしているのだろう)のドタバタコメディで、SNSでは賛否両論だった。やっぱり古沢良太と讃える声と、期待はずれと貶す声がネットを飛び交った。

賛否両論のほうが作品としては跳ねる可能性が高いので、1話としてはいい反応なのではないかと思うが、視聴率はもう少しあってほしかった気もする。

古沢良太らしさとは何か

さて、何が古沢らしくて、何がそうじゃないと思われたのか。

過去のフジテレビでの彼の傑作と比較してみよう。

圧倒的な人気を誇ったドラマ『リーガルハイ』シリーズ(12、13年)では、本来、正しく人間を裁くはずの裁判の矛盾を笑うドラマだった。主人公の敏腕弁護士(堺雅人)は、「真実」よりも「仕事」を優先する。そんな彼と反対に「真実」を求める純粋な新人弁護士(新垣結衣)と価値観を対立させながらドラマが進んだ。

『逃げ恥』ブームより前に契約結婚からはじまるラブストーリーを描いた月9『デート〜恋とはどんなものかしら〜』は、恋に不得手な男女(杏、長谷川博己)が、感情や生理的欲求からではなく、理屈から交際をはじめ、やがて、恋愛感情が芽生えていくという展開。

この2作、どちらも、ふたりの人物が、異なる価値観をぶつけ合い、すり合わせたり、結局すり合わなかったりする過程が楽しく、それが魅力のひとつだった。さらに、そこに社会派な視点も少々盛り込んで、見る者の気持ちをくすぐった。

だが、『コンフィデンスマンJP』にはそれがない。騙す側と騙される側という対立はあるとはいえ、彼らが何かをすり合わせていくことは一切ない。主人公たちが、いかに知恵を絞り、相手を騙し抜くか、勢い勝負なのだ。見方によれば、社会派の視点もあるにはあるが(たとえば、カジノに関することとか)、あまり関係なさそうだ。

『コンフィデンスマンJP』では、たとえ、こどもだましの仕掛けでも、しらを切りきったら勝ち。1話の場合だと、偽の空港なんていくらなんでも作れないだろうとか、飛行中に非常ドアを容易に開けられるものなのかとか、主人公がそんなに簡単にCA になれるのかとか、ツッコミどころがたくさんあるが、速度と勢いで見せきってしまえるかというエンターテインメントの原点のようなものに挑んでいた。

そこが面白いという人と、ついていけない人に分かれるであろう。

おそらく、わかりやすさを求めたら、『ルパン三世』における銭形警部のような主人公たちの宿敵を作るのが手であろう。『リーガルハイ』の堺雅人と新垣結衣、『デート』の杏と長谷川博己のように、二項対立のシーソーゲームが受けるドラマの定番だ。

だが今回、あえて、それをやっていないのだと思う。

『コンフィデンスマンJP』の志の高さ

古沢良太が好きというのなら、これまでの彼の作品と違うとか、番宣で想像したものと違うとかいうことも含めて楽しめるはずだ。なぜなら彼は、常に見る者の予想を覆す作家だから。結末までに二転三転あり、終わったと思ったらもう一転するというように、油断ならない脚本を書く。そのスリルが楽しい。

『コンフィデンスマンJP』に関しては、事件とか恋とかそういうテーマ的な枝葉をとっぱらい、骨組みだけを見せた勝負作なのではないかと思う。

骨組みだけといっても、そこには高い技術が必要で、例えるなら、フィギュアスケートで選手たちが“4回転ジャンプを六つ組み込む”とか、“4回転ルッツを成功させる”とか切磋琢磨しながら、史上最高難度の構成に挑み続けるようなものであろう。

古沢良太は、まるで羽生結弦選手のように歯を食いしばりながら、どこまで話を転がしていけるか挑み続けているのだと想像する。

「芸術は、絶対的な技術に基づいたものであると僕は思っています」と言った羽生選手のように、古沢良太の脚本が圧倒的な技術を見せつけることで芸術性にも繋がるものになってほしい。

4月16日(月)放送の、第2話『リゾート王編』は老舗旅館を金に任せて買い取ろうとする大手ホテルチェーンの女社長(吉瀬美智子)がターゲット。土地開発に政治家も絡んできて、話はまたまた壮大に。

コンフィデンスマンJP

月曜よる9時〜 フジテレビ

脚本:古沢良太

出演:長澤まさみ 東出昌大 小日向文世

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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