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『やすらぎの郷」”やすらげない郷”になっちゃうのか。

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

45話のあらすじ

犬山小春(冨士眞奈美)に、やすらぎの郷に入りたいから口を利いてほしいと頼まれた菊村栄(石坂浩二)は、総務理事・名倉みどり(草刈民代)に聞いてみるが、答えはノーだった。

45話のあらすじ

火曜日に放送した42話で描かれた、5月の連休にやすらぎの郷に家族がやってきて、さんざんわいわいした後で帰っていく描写(それをしみじみ語る石坂浩二のモノローグ)が再び繰り返された45話。

回想でもなく、なぜ、またこれ? といぶかしく思ったら、42話は連休1日目、45話は、連休2日目の出来事だった。火水を見逃して、この日から観た視聴者も、やすらぎの郷へ家族が遊びに来ることがあり、それはけっこう深い意味をもつことが認識できる親切設計。

45話では、42話で語られなかった、(老人にサービスして)“遺産の分前にありつこうとする”身内や、来てくれない家族を門で待ち続ける老いた女優や、菊村のところにも家族は来ないという話が加わった。

連休1日目ではなく、2日目になっても家族が現れないほうが、気にしてないと言いながらも実は孤独な菊村の心理が際立つ。

「大切なことだから2回言いました」という手法はエンターテインメント作品の世界で昨今よく使われるが、”繰り返す”ということは意外な発見をもたらすこともあるものだ。

やすらぎの郷 入居の基準

菊村も孤独だが、小春はもっと孤独だ。

小春は以前、事務局にも入居審査の希望を出していた。でも、審査が通らなかったのだ。

入居審査には3パターンあると、みどりが説明する。

C 入居をお断りしたい方

B 空室ができたときにあらためて検討しようという方  現在待ちが30組ほど(人気のほどが伺える)

A やすらぎの郷から入居をおすすめする方

テレビへの貢献度、人格、ここでうまく溶け込め、うまくやっていけるか、国営放送民放に関係なく幅広い観点から審査がされる。

菊村夫婦は点数が高かった、と言われて、ちょっとうれしそうな顔をする菊村。

一方、小春は、入られては困るというマイナス評価だった。

問題、トラブル、スキャンダルのあった人も、犯罪者を差別しない(スタッフにはワケありの人がいる)やすらぎの郷ではあるが、生活保護を受けているような経済的に困窮した人でも断ることもある。その入居基準は独特のものだった。

小春は過去、監督そっちのけで演技指導したり、自殺未遂事件を起こしたりしていたと悪く語られていたが、犯罪者よりも断られてしまうほど困った人だとは……。

「やすらげない郷になっちゃうわよ」

小春が入居を断られた話は、あっという間に園内に広がっていた。

(小春が入ったら)「やすらげない郷になっちゃうわよ」とお嬢(浅丘ルリ子)。

自分たちだって、相当、他人をやすらげなくしているのに。

その頃、及川しのぶ(有馬稲子)と貝田さん(藤木孝)のコテージ・306号室では、『しのぶの庭』復活を、絶対、成功させて としのぶが貝田に強く言っている。

そのためには、小春と仲直りしないとならないと貝田に言われて、しぶしぶ会うことにする。

感動の再会……、だが、44話の小春の様子(やすらぎの郷に入りたい)から考えるに、ほんとうにただしのぶに会い一心なだけではなさそうなのだが……。過去の自殺未遂も、同情されるための狂言説もあることだし……。名女優なのだからなにもかも疑わしい。

しのぶと小春、どちらも腹に一物ある感じだ。男同士(作家と俳優)はなんかいい感じに友情が成り立っているが、女優同士はなんだかこわい。

ともあれ、今後、『しのぶの庭』が復活するところまで描かれるのか、それが気になる。

帯ドラマ劇場「やすらぎの郷」(テレビ朝日 月〜金 ひる12時30分  再放送 BS朝日 朝7時40分〜)

第9週 45回 6月2日(金)放送より。 

脚本:倉本聰 演出:池添博

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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