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『やすらぎの郷」いよいよテレビ局に斬り込んでいくのか。業績不振のテレビ局〈ビーテレ〉とは。

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

注目ドラマ『やすらぎの郷』の各話の魅力を掘り下げていくレビューです。

まず、『やすらぎの郷』が愛される理由のひとつは、登場人物にニックネームがついていること。

マロ、大納言、姫……という愛称が役名より断然覚えやすく、登場人物を親しみのあるものにしています。

『やすらぎの郷』42話 「振り返ればどこの局もいなかった」

『やすらぎ体操』と中島みゆきの『慕情』2番で沸いた41話の翌42話は、なにごともなく通常体制。

直近のあらすじと、『慕情』1番によるオープニングではじまった。

5月、〈やすらぎの郷La Strada〉にはこの時期、子供や孫が遊びにやって来て、にぎやか。

石坂浩二のナレーションによると、訪れる者のいない住人たちは「孤独感を味わうむしろ辛い時間だ」ということで、部屋にこもっているのだとか。

どれほど寂しそうにしているのかと思ったら、マロ(ミッキー・カーチス)と大納言(山本圭)は花札していた。

でも、これはこれで、お祖父ちゃんの孤独なのだろう。

いろいろグチグチ言いながら、

「早くお向かいが来ませんかねえ」

「もう時期ですよ」

というふたりのやりとりがしんみりする。

朝ドラと比較してみる

ところで、この日、朝ドラ『ひよっこ』では、乙女たちがばばぬきをしていた。以前、『やすらぎの郷』で、菊村(石坂浩二)の妻(風吹ジュン)の水着の話が出た直後に、『ひよっこ』では、乙女たちが水着を買って海に行こうと盛り上がるエピソードが描かれたこともあるし、そもそも、『ひよっこ』の主人公みね子(有村架純)がモノローグで「お父さん・・・」と呼びかけるのは、倉本ドラマを意識したものであろうとを思われるなど、ドラマ好きとしては、この2作の奇妙なリンクが気になる。だが、朝ドラ関係はとりあえず保留で、42話の話題は、もっぱら“ビーテレ”に尽きるだろう。

業績不振のテレビ局・ビーテレとは、「振り返ればどこの局もいなかったってね」という水谷マヤ(加賀まりこ)の台詞から、フジテレビがモチーフになっていると想像できる(ドラマ『振り返れば奴がいる』(三谷幸喜)をもじりつつ、『そして誰もいなくなった』をプラスした感じか)。

倉本聰が、『やすらぎの郷』の企画を、まずフジテレビにもちかけたが、実現に至らなかったという話は、すでに流布している。

そして、そのビーテレと関係する人物が登場。ハワイで活躍していた出目金こと石上五郎(津川雅彦)と、問題女優・犬山小春(冨士眞奈美)だ。

出目金はビーテレのテコ入れを頼まれたというが、こんなおじいちゃんに頼むのもどうかと思う。だが、それにはわけがあった。高齢者向けの番組を制作するってことらしい。

出目金は、起死回生の企画に、及川しのぶ(有馬稲子)の名前があがっているので、起用しても大丈夫かと菊村に訊ねる。

ここへ来て、41話がなぜ『やすらぎ体操』からはじまったか。ただの釣り餌ではなかったことに気付かされる。

『やすらぎ体操』のピアノ演奏のクレジットは、及川しのぶだ。9週の冒頭は、今週は彼女のターンでもあるという宣言だったのだろう。

遊びにも意味がちゃんとあった。

みんな大好き、きょうの八千草薫

犬山小春の悪口を、井深涼子(野際陽子)がしていると、

「悪口言ってると自分に帰ってくるのよ」「悪意にとってはいけないわ、善意にとらないといけない」

とたしなめる姫こと九条摂子(八千草薫)。

なんでもいいふうにとるたおやかな彼女だが、「わたしって意外と陰湿なところがあるのよ」(だからこそナスの呪い揚げをやっている)と微笑む。八千草薫は、何を言ってもやっても可愛い。

そこからの、秀さん(藤竜也)の下の世話問題。おむつを取り替えたという三井路子(五月みどり)に、「そういうことは若い方がやっちゃだめよ、これからは私が……」と言う姫。意外と、嫉妬心が強いのだろうか。

帯ドラマ劇場「やすらぎの郷」(テレビ朝日 月〜金 ひる12時30分  再放送BS 朝日 朝7時40分〜)

第9週  第42回 5月30日(火)放送より。 

脚本:倉本聰 演出:池添博

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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