ゼロから1、そして2へ──“清原監督”から始まったワールドトライアウトの挑戦

「再チャレンジのシンボル」として起用された清原監督(筆者撮影)

 晴天に恵まれたとはいえ真冬の寒さの中、朝から熱心なファンが大勢駆けつけていた。11月30日に神宮球場で行われたのは「ワールドトライアウト2019」。民間企業のWorldTryout社が次のステージを目指す元プロや独立リーグ、アマチュアなどの野球選手を集め、実施した“公開オーディション”である。

NPB経験者は4人、元ヤクルトのルーキらは出場をキャンセル

 日本野球機構(NPB)が主催する12球団合同トライアウトとは違い、野球ファンに馴染みのある選手はほとんどいない。参加した26人の中でNPBの球団でプレーした経験があるのは高木勇人(前西武)、友永翔太(前中日)、横山貴明(元楽天)、白根尚貴(元DeNAほか)の4人だけ。その他の参加メンバーは、大半が国内の独立リーグやアマチュアでプレーする選手で占められていた。

「ワールド」と冠したイベントだけに、当初はニューヨーク・メッツなどメジャー4球団で通算663試合に出場したルーベン・テハダや、ともに元東京ヤクルトスワローズのジョシュ・ルーキ、マット・カラシティーなど、11人の外国人選手の参加も発表されていた。ところがメジャー球団との契約交渉中などを理由に、直前になって7人が出場をキャンセル。結局、このトライアウトのために来日したのは、メジャー2球団でプレーした経験のあるヘクター・ゴメス、今秋のプレミア12にプエルトリコ代表として出場したアンソニー・ガルシアら4人だけと、当初の見通しよりも国際色はグッと薄まっていた。

 とはいえ、WorldTryout社の加治佐平(かじさ・たいら)CEOが「今回は手探りで、ゼロからといったところ」と話したように、これだけのイベントをゼロから立ち上げるというのは、本当に大変なことだっただろう。加治佐CEO、そしてかつては自身も北海道日本ハムファイターズ、阪神タイガースでプレーした田中聡COOも「ゼロから1」というフレーズを強調していたが、まずはゼロを「1」にすることに大きな意義があったと思う。

「再チャレンジのシンボル」となった“堕ちた英雄”

 およそ2000人と伝えられたこの日の観客は、大半がこのイベントの監督を務めた清原和博氏(52歳)を目当てに球場を訪れたとみられる。NPB歴代5位の通算525本塁打という輝かしい記録を持ちながら、現役引退後の2016年に覚せい剤取締法違反で実刑判決を受け、現在も執行猶予中という“堕ちた英雄”。加治佐CEOは、『挫折からの再チャレンジ』を念頭に今回のプロジェクトを立ち上げた際に「真っ先に思い浮かんだのが清原選手でした」という。

「地道な日々の努力をしていかないと。自分ではそういう気持ちでいますけど、まだまだ薬物依存の治療もありますし、自分の人生を一歩一歩、まだ執行猶予も明けてませんし、しっかり足元を見つめながら野球というものを一番大切にしてやっていきたいなと思ってます」

 清原氏自身はイベント後の記者会見でこのように語ったが、“堕ちた英雄”がどん底から這い上がろうとする姿は、「次のステージ」を求めて必死にチャンスをつかもうとする選手たちにも重なる。加治佐CEOも「再チャレンジのシンボルとして、第1回目のシンボルとして、清原さんにこのように神宮球場で采配を振るっていただいたことは、非常に良かったと思っております」と話していたが、象徴的な意味合いでも、イベントの認知度を高めるという意味でも、ゼロを1にする上で清原氏の起用は成功だったと思う。

次回以降の課題は……

 海外に挑戦する日本人選手、そして日本でのプレーを希望する外国人選手のための橋渡しという理念は素晴らしい。ただし、今回はメジャー5球団のスカウトが来場したと伝えられた一方で、NPB球団の編成担当はゼロ。加治佐CEOは「ここが『ゼロから1』の苦しいところではあるんですけども、ここを何とかして乗り越えて、この垣根を緩和していければと考えております」と話し、引き続き日本プロ野球選手会、そしてNPBに働きかけていく意向を示したが、次回以降は参加者、そして日米のスカウトをどれだけ集められるかが重要になる。

 今回のイベントでMVPに選ばれた高木勇人は、12球団合同トライアウトを受けたものの声がかからず、さらなるチャンスを求めてこのワールドトライアウトに臨んだ選手である。今後はメキシコでのプレーを視野に入れているというが、このイベントを機に新たなプレー環境を手にする選手が実際に出てくれば、自ずと見方も変わってくるだろう。ゼロから始まった1が、どのような形で「2」になっていくのか──。野球を基本線としながらも、他のスポーツのトライアウト事業も模索していくというWorldTryout社の挑戦に、これからも注目していきたい。