千賀滉大の成功はメッツのお陰?!日本人先発投手を受け入れるための新たな潮流とは
【在籍1年目でエース級の活躍をみせた千賀投手】
メッツの千賀滉大投手が9月27日のマーリンズ戦での登板で、MLB1年目のシーズンを締めくくった。
入団時には5年総額7500万ドルという大型契約に関し、多少なりとも疑問を呈する声が挙がっていたが、すでに日本でも報じられているように、そんな声は雲散霧消し、辛口で知られる地元ニューヨークのメディアからも最大の賛辞が送られる活躍を披露した。
今シーズンのメッツは大黒柱として期待されたジャスティン・バーランダー投手とマックス・シャーザー投手をシーズン途中でトレードし、急きょ先発投手陣の入れ替えを断行したとはいえ、勝利数(12)、先発登板数(29)、投球イニング数(166.1)、奪三振数(202)、防御率(2.98)においてチーム1位を記録するなど、ニューヨークのメディアでなくても誰をも納得させる成績を残している。
しかも防御率、奪三振数に加え、被打率(.208)でもナ・リーグのトップ10入りを果たしており、シーズン終盤ではサイヤング賞候補としても名前が挙げられるようになっていた。
個人的にはNPBで十分な実績を有し、30歳の千賀投手をルーキーとして語ることに違和感があるが、今シーズンのルーキー枠の先発投手の中で、規定投球回数をクリアできたのは千賀投手1人しかいない。
【これまでの日本人先発投手には見られなかったメッツの配慮】
中でも今シーズンの千賀投手について特筆すべき点は、初めて経験するMLBの162試合制シーズンをケガなく乗り切ったことであり、疲労が危惧されたシーズン終盤の8、9月では、登板10試合中8試合で6イニング以上投げる安定感をみせたことだ。
今シーズンは失敗に終わったもののポストシーズン進出を目指し昨オフから大胆な選手補強を断行したメッツにとって、ソフトバンク時代に経験したことがなかった自己最多の29試合に登板しながらも、余力を残しつつ1年目のシーズンを終えた千賀投手の姿は相当頼もしく映っているはずだ。
ただ千賀投手が理想的なかたちでシーズンを終えることができたのは、千賀投手本人の高い適応力があったのは間違いないところだが、それとは別に千賀投手の起用法にメッツならではの配慮があったからだと考えられる。
というのも、これまでMLBに在籍してきた日本人先発投手たちの1年目の起用法とは大きく異なっているからだ。
【今シーズンの千賀投手の中4日登板率はわずか11.5%】
その相違点とは、登板間隔だ。これまで日本人先発投手がMLBに挑戦する場合、課題の1つだとされてきたのが登板間隔だった。
MLBでは現在も多くのチームが先発ローテーション5人制を採用しているため、ローテーションに入っている投手は基本的に中4日、もしくは中5日で登板していかねばならない。
一方でNPBではすっかり中6日登板が定着しているため、登板間の調整法がMLBとNPBではかなり変わってくることになる。
これまでMLBにやって来た日本人先発投手たちは、当然のごとく1年目からMLB流で登板してきたのだが、千賀投手は明らかに違っていた。
それを裏づけるように、今シーズンの千賀投手が中4日で登板したのはたった3回しかないのだ。
【現役日本人先発投手の1年目起用法を徹底比較】
ちょっと簡単な比較をしてみよう。
千賀投手を含め、現在MLBに在籍している日本人先発投手たちの1年目の登板間隔を表にまとめてみた(別表参照)。
如何だろう。ダルビッシュ有投手、前田健太投手、菊池雄星投手とは違い、明確に中4日登板を回避しているのが理解できるはずだ。それほどメッツは、千賀投手に無理をさせない起用法を採用していたというわけだ。
もちろんメッツなりにそうした起用法を採用する理由があったからに他ならない。
【NPB同様先発投手の起用法が変化したMLB】
まず前述したように、今シーズンのメッツはバーランダー投手とシャーザー投手という2人の大黒柱を擁してシーズンを迎えていた(バーランダー投手は負傷のため出遅れたが)。また2人以外にも先発候補の投手は揃っており、千賀投手を無理してフル回転させる必要はなかったと考えられる。
さらにNPB同様にMLBでも先発投手の起用法に変化が起こり、10年ほど前までなら大黒柱とされる先発ローテーション1番手、2番手の投手には、35試合前後、220イニング前後が期待されていたが、ここ数年は33試合前後、200イニング前後が大黒柱の指標になっている。
実際今シーズンのサイヤング賞有力候補とされるヤンキースのゲリット・コール投手は33試合に登板し(中4日14回、中5日16回、中6日1回、中7日1回)、209.0イニングでシーズンを締めくくっている。
またもう1人のサイヤング賞有力候補であるパドレスのブレイク・スネル投手に関しては、32試合の登板で(中4日11回、中5日16回、中6日4回)、180.0イニングに止まっている。
そうしたMLBの潮流やチーム事情を考えれば、MLB在籍1年目の今シーズンから千賀投手に中4日登板を強いるのは、5年間という契約期間を考えれば決して理想的ではないと判断したのではないだろうか。
【先発完投型投手がほとんどいなくなったNPB】
また昨今のNPBでは中6日登板が固定化しただけでなく、球数も抑える傾向が強くなり、今では先発完投型の投手はほぼ姿を消している。
そのためダルビッシュ投手や前田投手の世代では、NPBで年間200イニングを突破するのは決して珍しいことではなかったが、次世代の菊池投手や千賀投手は200イニングを突破した経験がない。
実際セ・リーグでは2018年の菅野智之投手(202.2イニング)、パ・リーグでは2014年の則本昂大投手(202.0イニング)を最後に、年間200イニング到達者は現れていない。
ちなみに野茂英雄投手の近鉄時代は在籍5年間で、MLBより試合数が少ないにもかかわらず(当時は130試合制)、年間200イニング到達が4回、さらに1993年には年間32試合先発登板も果たしている。
野茂投手が1995年にドジャースに移籍し、すぐにMLBに適応し一大センセーションを巻き起こす投球を披露できたのも、こうしたNPBでの経験が影響しているだろう。
つまり現在のNPBでは先発投手がMLBに適応するのがますます難しくなっている一方で、MLBにも変化がみられ、日本人先発投手に無理をさせなくてもいい環境が整い始めているというわけだ。
すでに米メディアの間では、今オフにオリックスの山本由伸投手やDeNAの今永昇太投手らのMLB挑戦が注目を集めているが、彼らの獲得に動くチームがメッツのような負担の少ない起用プランを用意できるかが、重要なファクターになっていくのかもしれない。