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大学コーチに転身した元祖二刀流ディオン・サンダースの快進撃を支える息子シェデュアの存在

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今シーズンからコロラド大のHCを務めるディオン・サンダース氏(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【開幕早々のフットボール界で話題を振りまく新任コーチ】

 米国民にとって新年度を迎える9月は、日本でいうところのまさに4月のようなもの。新たなスタートを切る若者たちが、高揚感に満ち溢れている時期といっていい。

 また9月は、スポーツ・ファンを高揚させる時期でもある。米国で最大の人気を誇るフットボール・シーズンが幕を開けるからだ。すでに大学フットボールは開幕2週目を終え、NFLも先週末にシーズン開幕を迎えている。

 そんな開幕早々のフットボール界で、大きな関心を集めている存在がいるのをご存知だろうか。今シーズンからコロラド大学で指揮をとるディオン・サンダースHCだ。

 昨年12月に5年総額2950万ドルという高額契約でコロラド大に迎えられたことも大きな話題を集めていたが、いざシーズンが開幕するとチームを連勝スタートに導くことに成功している。

【昨シーズンは1勝11敗のどん底から奇跡のトップ25入り】

 周囲がサンダースHCに注目しているのは、単に開幕2連勝を飾ったからではない。これまでのコロラド大の悲しい歴史があるからだ。

 強豪のUSCやオレゴン大と同じカンファレンス「Pac12」に入るコロラド大は長年低迷を続けており、2005年シーズン途中でゲイリー・バーネットHCが辞任して以降、シーズン勝ち越しできたのは、2016年(10勝4敗)と2020年(4勝2敗…新型コロナウィルスの影響で短縮)のたった2回のみという惨憺たる状況だった。

 昨シーズンも1勝11敗に終わる厳しいチーム事情の中で、サンダースHCが指揮を任されたわけだが、シーズン開幕前の評価は決して芳しいものではなかった。

 ところが敵地で迎えた開幕戦で、APランキング17位(当時)のTCUを45対42で破る番狂わせを演じ、いきなり同ランキングトップ25入り(22位)に成功。

 続くホーム開幕戦となった2週目のネブラスカ大戦でも36対14で快勝し、さらにランキングを18位に上げるロケットスタートを切ってしまったのだから、周囲が驚くのも無理はないだろう。

 まさに奇跡に近い出来事といっていい。

【2011年にフットボールの殿堂入りを果たす元祖二刀流】

 多分フットボール・ファンと昔からのMLBファンなら、サンダース氏の名前を知らない人はいないだろう。

 1990年代にNFLとMLBで活躍した元祖二刀流選手で、NFLではファルコンズを皮切りに14シーズンにわたり計5チームに在籍。MLBでも9シーズンにわたりヤンキースなど4チームに在籍するなど、長期間二刀流を続けてきた。

 特にフットボールでの活躍は目覚ましく、抜群の身体能力を生かしフットボール単体でもコーナーバックとワイドレシーバーの二刀流をこなし、2011年にはフットボールの殿堂入りを果たしているリーグ屈指の名物選手だった。

 ちなみに現役中サンダース氏はNFLのスーパーボウルとMLBのワールドシリーズ両方の出場を果たしており、そんな選手は今もなおサンダース氏しか現れていない。

【2012年からTV解説の傍らコーチ業を開始】

 現役引退後は歯に衣着せぬ発言を厭わない独特のキャラクターが愛され、TV局の解説者として人気を集めていた。

 その傍らで2012年に自らが設立に携わったプレップアカデミーでHCに就任し、コーチ業をスタートさせている。

 その後も別の学校でHCやオフェンシブ・コーディネーターを務め、2020年に高校から大学にステップアップし、FCS(旧NCAAディビジョンIAA…ディビジョンIAに次ぐ2番目のレベル)管轄のジャクソン州立大でHCに就任した。

 そして同校で3シーズン指揮をとり、通算27勝6敗の成績を収めたことが評価され、前述通り破格の契約でFBS(旧NCAAディビジョンIA)管轄のコロラド大にリクルートされたというわけだ。

【サンダースHCを支える先発QBの息子シェデュア】

 現在サンダースHC率いる新生コロラド大の象徴的存在になりつつあり、開幕2連勝の立役者にもなっているのが、オフェンスの核となるクォーターバック(QB)を務めるサンダースHCの息子シェデュア選手だ。

 彼は高校時代から父親の指導を受け、父ディオンがHCを務めるジャクソン州立大に進学。大学1年から先発QBを担い、2年間で24試合に出場し21勝3敗の成績を残していた。

 そしてサンダース氏がコロラド大HCに就任するに当たり、父のリクルートによりコロラド大に編入していた。

 FCSとFBSではかなりのレベル差があり、シェデュア選手がどこまで活躍できるのか懐疑的な見方もあったが、前述のTCU戦では4つのタッチダウン(TD)パスを含む計510ヤードのパスを成功させ、コロラド大のチーム新記録を樹立し勝利に貢献している。

 続くネブラスカ大戦でも2TDパスを含む計393ヤードのパスを通し、コロラド大オフェンス陣を牽引している。

 まだシーズンは開幕したばかりで、コロラド大は現時点でトップ25入りしているUSC(5位)、ユタ大(12位)、オレゴン大(13位)、UCLA(24位)との対戦を控えている。今後も厳しい戦いが強いられることになる。

 果たしてサンダース親子の快進撃はどこまで続くのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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