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大谷翔平の残留に一縷の望みを繋ぐオーナーとは裏腹にエンジェルスが解消できずにいる不安要素とは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
大谷選手との再契約を最優先に考えているとされるアルテ・モレノ・オーナー(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【新戦力で臨んだブレーブス3連戦に負け越し】

 トレード期限では大谷翔平選手のトレードを回避し、積極補強を断行したエンジェルス。戦力を整備してMLB最多勝のブレーブスとの3連戦に臨んだが、結果は1勝2敗で負け越しに終わった。

 すでにご承知の方も多いことと思うが、ポストシーズン(PS)争いに止まりたいエンジェルスを、相当に厳しい8月が待ち受けている。

 現地時間8月3日から本拠地に戻ってマリナーズ3連戦を迎えた後、それ以降もジャイアンツ、アストロズ、レイズ、レッズ、メッツ、フィリーズとの対戦を控えている。

 メッツ以外はすべて勝率5割以上のチームで、エンジェルスと同様に熾烈なPS争いを演じており、ここで互角の戦いを演じられなければ、一気にPS争いから引き離されてしまう可能性すらある。

 いずれにせよトレード市場で買い手に回った以上、エンジェルスは望みが続く限りPS争いを続けていくしかない。

【エンジェルスのトレード策で賛否両論の米メディア】

 ちなみに今回のエンジェルスがとったトレード策について、米メディアの間で賛否両論があるのをご存知だろうか。

 例えば賛成意見としては、MLB公式サイトは「トレード期限で勝者となった7チーム」という記事の中でエンジェルスをその中に加え、スポーツ専門サイトの「Fans Sided」が発表した今年のトレード・ランキングで、エンジェルスを第2位にしている。

 一方で否定的な意見としては、スポーツ専門サイトの「The Athletic」が発表したトレード評価では、エンジェルスを最低クラスのD評価にしているし、同じくスポーツ専門サイトの「the Score」では、エンジェルスをトレード策に失敗した敗者に加えている。

 これだけ極端に意見が分かれてしまうのには理由がある。それは評価する視点の違いだ。

 純粋にトレードで補強した選手だけを捉えて評価するか、それとも大谷選手をトレードに出さなかった判断を含めて評価するかで、まったく見え方が違ってしまうからだ。

 すでに本欄で指摘させてもらっていたが、トレード期限が迫る中、米球界では大谷選手のトレード推進論が大勢を占めていた。そうした人たちの視点からなら、エンジェルスの決断はどうしても否定的に見えてしまうだろう。

【大谷選手残留に関するベテランMLB記者の見立て】

 今回エンジェルスが大谷選手を残留させると決断したのは、いうまでもなくアルテ・モレノ・オーナーの意思だ。

 それを踏まえた上で、エンジェルス元職員やオーナーに近しい人物などを精力的に取材していたESPNのバスター・オルニー記者は、ベンチレポーターを担当した7月30日のオリオールズ対ヤンキース戦で、以下のような見立てを明らかにしている。

 「モレノはオオタニをずっとチームに残したいという望みを捨てられなかった。もしトレードに出していたら、その可能性はゼロになっていた。

 シーズン終了後にオオタニがエンジェルスと再契約する可能性は低いと予想されているが、可能性がある限りそこに賭けたかったのだろう」

 つまりオルニー記者は、モレノ・オーナーが米球界で叫ばれていたチーム再建を二の次にしてでも、大谷選手との再契約を目指そうとして下した決断と考えているのだ。この同記者の見立てこそ、多くの米メディアが感じていることではないだろうか。

【大谷選手にとって人生最大の決断を迫られるオフに】

 それでは大谷選手のために戦力補強を断行したエンジェルスに対し、当の本人はどのように感じているのだろうか。とりあえずエンジェルスが買い手に回ったことを歓迎する旨の言葉を発しているものの、今後のことについては一切発言を控えている。

 昨オフにFAだったアーロン・ジャッジ選手が、39歳まで保証される9年総額3億6000万ドルの契約を結んでいるように、大谷選手にとってFAとして迎える今オフは、野球選手として最後の契約になるかもしれない人生最大の決断を下すことになるかもしれないのだ。それだけチーム選びは慎重にならざるを得ない。

 多少マイク・トラウト選手には失礼だと思うが、試合に勝ちたい、PSに進出したい、ワールドシリーズを制覇したいと公言している大谷選手からすれば、MLB史上最高額の契約を得ながらPSに進出できないシーズンを過ごし続けてきたトラウト選手は、彼が望むべき理想像でははいはずだ。

 仮に今回の戦力補強が奏功し、エンジェルスが9年ぶりにPS進出を果たせたならば、間違いなく大谷選手を喜ばせることになるだろう。だがそれでエンジェルスが希望通り大谷選手との再契約に道が開けるかといえば、そう単純な話ではない。エンジェルスを取り巻く来シーズン以降の不安がほとんど払拭されないからだ。

【今後も不安要素であり続ける持続性を欠くロースター編成】

 その最大の不安要素になりそうなのが、持続性を欠くロースター編成だ。

 実はエンジェルスは大谷選手との再契約(もしくは契約延長)を見据えてのことだと考えられるが、昨オフから年俸総額をできるだけ抑える補強策をとり続けている。

 例えばFA市場では大型契約を強いられる大物選手には手を出さず、中堅クラスの選手との短期契約に徹してきた。ちなみに昨オフ獲得したFA選手は7人いるが、最長契約はタイラー・アンダーソン投手の3年で、あとは2年契約が2人、残る4人は単年契約だ。

 さらにFA取得前で年俸額が比較的廉価な、年俸調停3年目のハンター・レンフロー選手とジオ・ウルシェラ選手をトレードで獲得することで、やはり年俸総額の拡大を抑えようとしてきた。

 そうした補強策は裏を返せば、チームを支える主軸選手たちを長期的に確保できないことを意味している。

【シーズン途中の補強選手たちもほぼ全員がFAに】

 ちなみにエンジェルスがシーズン中に補強したエデュアルド・エスコバー選手、マイク・ムスタカス選手、ルーカス・ジオリト投手、レイナルド・ロペス投手、CJ・クロン選手、ランダル・グリチック選手、ドミニク・レオン投手に関しても、エスコバー選手はチームが来シーズンの契約オプション権を有しているものの、残りすべての選手は大谷選手同様、契約延長に応じない限りシーズン終了後FAになる。

 つまり今シーズンPSに進出できたとしても、シーズン終了後になれば必然的にチームは大幅解体を余儀なくされ、改めて最初からチームづくりに着手しなければならないのだ。

 しかも3700万ドルを超える高額年俸が保証されているトラウト選手とアンソニー・レンドン選手が控えているため、最低でもレンドン選手との契約が切れる2026年までは、今後も大物FA選手に手を出しにくい状況が続くことになりそうだ。

 その上MLB最低レベルといわれるファームシステムは、今回のトレード補強でなけなしの若手有望選手を放出してしまい、さらに劣化している状況にある。

 チームがこうした状況にあることをモレノ・オーナーが認識していないはずはない。それでも彼は大谷選手のチーム残留を諦めきれなかったようだ。

 果たしてオーナーの熱意は大谷選手に届くのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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