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極端な“投高打低”傾向の中でルイス・アライズが82年ぶりの打率4割を目指す真の価値とは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【24試合ぶりに打率4割に復帰したアライズ選手】

 MLBはシーズン開幕から2ヶ月以上が経過し、徐々に個人タイトル争いの様相が明確になってきた。

 以前に本欄でも指摘しているように、大谷翔平選手は本塁打と奪三振の投打2つの部門でリーグ上位につける異次元ぶりを披露。また吉田正尚選手も打率でリーグ2位につけ、2001年のイチロー選手以来の首位打者&新人王を獲得しそうな打撃を維持している。

 そんな中タイトル争いというレベルから逸脱し、すでに個人タイトル奪取が確実視されている選手がいるのをご存知だろうか。

 昨シーズンのア・リーグ首位打者で、今シーズンからマーリンズに在籍しているルイス・アライズ選手が、他の追随をまったく寄せつけないペースでヒットを量産し続けている。

 6月6日のロイヤルズ戦で4打数2安打の活躍で、5月9日のダイアモンドバックス戦以来となる24試合ぶりに打率4割(.401)に復帰。翌7日のロイヤルズ戦でも4打数2安打を記録し、さらに.403まで上昇させている。

【1941年ウィリアムス選手以来の4割打者を期待する声が】

 4月終了時点で打率.438を残していたことでも、アライズ選手が開幕から破竹の快進撃でヒットを積み重ねていたことが理解できるだろう。

 だが5月に入るとその勢いにやや陰りが見え始め、当該月間打率は.330まで低下(それでも凄い数字なのだが…)。前述通り5月9日を最後に打率は4割を割り込んでしまい、一時は.371まで下がっていた。

 再び打棒爆発の契機になったのが、6月3日のアスレチックス戦だったようだ。この試合で5打数5安打と大暴れすると、それ以降は4試合連続でマルチ安打を記録。一気に打率4割に復帰している。

 早くも米メディアの間では、1941年のテッド・ウィリアムス選手以来となる“4割打者”誕生を期待する声が挙がり始めている。

【最も4割に近かったのは1994年のグイン選手の.394】

 もちろんウィリアムス選手以来81年もの間、誰一人として打率4割を維持してシーズンを終えることができていないのだから、まだ4ヶ月ほどのシーズンを残すアライズ選手に対し、過度な期待をすべきではないだろう。

 だがNPBでもDeNAの宮﨑敏郎選手が高打率を維持し、メディアからNPB初の4割打者誕生を期待するような報道がなされているように、人々の関心を集めるような快挙であることは間違いない。

 ちなみに1941年以降最高打率を残している選手は1994年のトニー・グイン選手で、その打率は.394だった。ただこのシーズンは選手会のストライキ実施により8月11日でシーズンが打ち切られており、多少なりとも参考記録に近い部分がある。

 シーズンが最後まで実施された中での最高打率は、1980年のジョージ・ブレット選手の.390だ。シーズン148試合目の9月19日まで打率4割をキープし続けたが、再び大台に戻すことはできなかった。

 ただしこのシーズンのブレット選手は6月に約1ヶ月間の長期離脱を余儀なくされており、出場試合数は117試合に止まりギリギリ規定打席に到達した状況だった。

 つまり出場試合数という点では、1994年のグイン選手(110試合)とほぼ変わりがない。

 それを踏まえたとしても、打率3割9分台でシーズンを終えたのはグイン選手とブレット選手の2人しか存在しない。

 さらに付け加えておくと、1941年のウィリアムス選手は155試合中143試合に出場とほぼフル稼働しており、ますます彼の4割達成は価値が高まってくるところだろう。

【かつてない投高打低の中で4割達成はウィリアムス選手以上?】

 あくまで個人的な意見だが、今回のアライズ選手の4割達成はウィリアムス選手以上に価値の高いものだと考えている。

 というのも、アライズ選手を取り巻く環境がウィリアムス選手やグイン選手、ブレット選手の現役時代とは大きく異なるからだ。たとえグイン選手、ブレット選手に続き3割9分台でシーズンを終えたとしても、4割に匹敵する価値があると感じているほどだ。

 ここ1、2年本欄でも度々報告してきたが、現在のMLBは過去にないほどの“投高打低”傾向が続いている。

 ここ最近はパワー派投手が次々に台頭するとともに、データ解析によるシフト守備が戦術の主流になり、2018年以降5年間でシーズン打率が2割5分を超えたのは2019年(.252)しかない。

 今シーズンからシフト守備が制限され、ピッチクロックが導入されたことで打者有利になると想定された今シーズンも、打率は確実に上昇しているものの、現時点(6月7日終了時点)で.247に止まっており、投手有利の傾向に大きな変化は起こっていない。

 一方で、ウィリアムス選手が4割を達成した1941年のシーズン打率は.262、グインズ選手が.394を記録した1994年が.270、ブレット選手が.390を記録した1980年も.265と、現在とは比較にならないほど“打高投低”のシーズンだったのだ。アライズ選手が厳しい環境に置かれているのは明らかだ。

 最後にもう1点補足しておくと、たとえアライズ選手が打率4割を達成できなかったとしても、首位打者を獲得することで史上初の2年連続&両リーグの首位打者という快挙を成し遂げることになる。

 残り4ヶ月でどんな打撃を披露してくれるのか、今後ともアライズ選手のバットに注目して欲しい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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