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制球力だけではない?!ハードヒット率と平均打球速度から読み解く藤浪晋太郎のフォーシームの不安材料

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
シーズン開幕から苦しい投球が続いている藤浪晋太郎投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【先発4試合でローテーションから外れた藤浪投手】

 4月が終わりMLBもシーズン開幕から1ヶ月が経過する中、移籍1年目の藤浪晋太郎投手が苦境の中にいる。

 先発ローテーション入りを果たし開幕を迎えたものの、先発した4試合中1試合しか5イニング以上投げられず、その間の投手成績も0勝4敗、防御率14.40という厳しい数字が並び、マーク・コッツェイ監督は中継ぎへの配置転換を決定した。

 同監督はあくまで臨時的な措置だとし、藤浪投手の投球の軸をなすフォーシーム(いわゆる真っ直ぐ)の制球力が改善されれば、先発復帰もあると説明している。

 だがその後も2試合に中継ぎ登板し、いずれも四球を与えるなど未だ明確な改善は見られない状況だ。

【藤浪投手の四球率はMLB全体で下位5%に分類】

 コッツェイ監督が指摘するように、フォーシームを含めた制球力の悪さが藤浪投手を苦しめているのは間違いない。

 それを裏づけるように、選手たちの各種データだけをまとめたMLB公式サイトの「savant」によると、現時点での藤浪投手の四球率16.7%はMLB全体で下位5%に分類されるほどだ(ここで使用されているデータ値は5月1日現在のもの)。

 これでは投球を組み立てるのは至難の業だし、無駄な球数が増えてしまうため先発投手として長いイニングを投げることも難しくなってくる。

 だが藤浪投手は制球力が改善されれば、MLBで先発として機能するようになれるのだろうか。

 実は今シーズンの藤浪投手の投球をチェックしながら、ずっと気がかりなことがあった。藤浪投手が打たれた打球が、基本的に鋭い当たりばかりではないかという疑念だ。

 そのためアウトになった場面でも、「打ち取った」というよりも「野手の捕球範囲に打球がとんだ」という印象を強く抱いていた。

【球速だけでは見えてこない平均打球速度とハードヒット率の悪さ】

 確かにコッツェイ監督は藤浪投手のフォーシームを称賛しているし、日本でも「投げる球そのものは一級品」という評価が定着しているように思う。前述サイトをチェックしても、藤浪投手のフォーシームの平均球速は97.0m/hで、MLB全体でも上位7%に入る球速を誇っている。

 だがその一方で球種別データを見ると、フォーシームの被打率は.323で、平均打球速度は95.9m/hと、かなり高い数値になっているのだ。

 MLBでは打球速度が95m/hを超えるものを「ハードヒット」と定義づけている。つまり平均打球速度を見て理解できるように、藤浪投手のフォーシームを捉えた打球は半分以上がハードヒットされているのだ。

 またフォーシームに止まらず投球全体の平均打球速度を見ても92.8m/hで、これはMLB全体で下位4%に属し、ハードヒット率(ハードヒットされた割合)52.5%も下位5%に入っている。

 さらにフォーシーム以外の球種の被打率も、スプリット(.125)以外すべてフォーシームの被打率を上回っている。これらのデータを確認した後では、さらに打者を打ち取ったという印象を抱きにくくならないだろうか。

【しっかり打者を打ち取っていたのは4月8日のレイズ戦のみ】

 そこで藤浪投手が登板した6試合の全打球の質をチェックしてみた。

 前述の「savant」では全打球の速度やXBA(打率期待値:数値が高ければ高いほど安打性の高い打球となる)などを掲載しているので、今回は登板ごとにハードヒットされた打球数、XBA.300以上の打球数を比較してみた。

 それをまとめたのが以下の表だ。如何だろう。4月8日のレイズ戦以外、どの試合も高確率でハードヒットされ、安打性の高い打球を打たれているのが理解できるだろう。繰り返すが、この中にはアウトになった打球も含まれている。

(筆者作成)
(筆者作成)

 こうした状況を踏まえると、藤浪投手の問題点は単に制球力だけではないように思えてくる。

【MLB下位1%に入っているフォーシームの平均回転数】

 実は藤浪投手のフォーシームに関して、球速とはまったく反対にMLB全体の下位1%に入っているデータがある。それは平均回転数なのだが、現時点での藤浪投手は1865を示している。これはMLBではかなり低い数値だ。

 ちなみに日本人投手の中でフォーシームの平均回転数が最も高いのはダルビッシュ有投手で、今シーズンは2433を示している。これはMLB全体でも上位11%に入っている。

 またダルビッシュの球種別データを見てみると、フォーシームの平均球速は94.5m/hながら、被打率が.200、平均打球速度が90.9m/hに止まっている。さらに投球全体のハードヒット率(32.0%)、平均打球速度(86.3m/h)はMLB全体で上位20~30%に含まれている。

 それらを踏まえた上で、藤浪投手とダルビッシュ投手のフォーシームについて垂直方向の動き具合を見てみると藤浪投手がマイナス1.5インチに対し、ダルビッシュ投手はプラス1.7インチと、正反対の動きをしている。

 つまりダルビッシュ投手のフォーシームはホップ性がかなり高いのに対し、藤浪投手のフォーシームは垂れる傾向にあるわけだ。打者目線からすれば、ダルビッシュ投手のフォーシームの方が明らかに打ちづらく見えるだろう。

【投球術が劇的に変化した今シーズンの大谷選手】

 日本ではあまり話題になっていないように思われるが、実は大谷翔平選手のフォーシームも回転数がそれほど高いわけではないし、昨シーズンまではかなり打者に攻略されてきた球種だった。

 昨シーズンまでの球種別データを見ても、どのシーズンも被打率が最も高かった球種はフォーシームであり、最も被打率が低かった2022年でも.283を記録しているほどだ。

 平均回転数はシーズンを重ねるごとに少しずつ増しているとはいえ、今シーズンの平均回転数は2291でほほMLBの平均値だ。また垂直方向の動きもマイナス1.1インチと、藤浪投手同様にホップ性がほとんどないのが分かる。

 にもかかわらず、開幕から好投を演じ続けている今シーズンは、フォーシームの被打率が.056まで下降しているのだ。その最大の理由だと考えられるのが、スイーパー中心の組み立てに切り替え、より効果的にフォーシームを使用するようになったからだろう。

 藤浪投手が即座にフォーシームの回転数を上げるのは不可能だし、今後も現在の球質で打者と対峙していかねばならない。ただここに示したデータでは、フォーシーム中心の組み立てを続けるのはかなり難しそうに感じる。

 そう考えると、ほぼ類似したフォーシームの球質を有している大谷選手の投球術は、今後の藤浪投手の指標になるのではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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