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大会別チーム成績から読み解く栗山・侍ジャパンが史上最強と考えるべき明確な根拠

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
(写真:CTK Photo/アフロ)

【1次ラウンドで抜群の安定感を誇った侍ジャパン】

 第5回WBCは、1次ラウンドから波乱含みの展開が続いている。

 先陣を切って開幕したプールAは、全5チームが2勝2敗に並ぶという接戦を演じたかと思えば、プールCでは大会連覇を狙う米国代表がメキシコ代表相手に5対11で大敗し、プールDでも優勝筆頭候補のドミニカ代表がベネズエラ代表とのラウンド初戦に1対5で敗れるという波乱が起きている。

 イスラエル代表戦とニカラグア代表戦を残すベネズエラ代表が、順当にいけば全勝でラウンドを終える可能性があるとはいえ、1次ラウンドの戦いぶりを見る限り、侍ジャパンの安定感が際立っている。

 すでに米ブックメーカーの中には、最新優勝オッズでドミニカ代表と米国代表を抜き、侍ジャパンを1番人気に変更しているほどだ。

【過去大会と比較しても例を見ない圧倒的な戦いぶり】

 他国代表チームとの比較だけでなく、過去の侍ジャパンと比較しても抜群の試合内容でラウンド突破しているのが理解できる。

 下記の表をチェックしてほしい。優勝を飾った第1、2回大会を含め、第3回大会までのすべてで、1次ラウンドから敗北を喫しているのだ。ちなみに第2回大会で韓国代表と1次ラウンドで2回対戦しているのは、同大会だけダブルエリミネーション制を採用していたためだ。

(筆者作成)
(筆者作成)

 また1次ラウンドを全勝で突破した第4回大会をみても、オーストラリア代表戦(4対1で勝利)のように一方的な試合展開になっていない試合もあった。

 改めて今大会の侍ジャパンの絶対的な安定感を確認できるとともに、ここまでは栗山英樹監督の狙い通りの戦い方ができている証左だろう。

【実は打線が素晴らしかった第1回大会の侍ジャパン】

 ところで、各チームの4番打者ばかりを集めた栗山監督の人選に、戦前から疑問視するような声が挙がっていた。そうした声を集約すると、世界に誇れる投手力と守備力を武器に、自慢のスモールベースボールが発揮できないというものだったように感じる。

 だが過去の侍ジャパンのチーム成績を確認してみると、優勝を飾った第1回大会の侍ジャパンは、実は大会屈指の強力打線だったのだ。

 再び下記の表をチェックしてほしい。これは第1回大会から今大会までの侍ジャパンのチーム打率、本塁打数、打点、長打率を比較したものだ。括弧内の数字は大会参加チーム内の順位で、今大会に関しては、まだ全チームが1次ランドを消化できていないので省略している。

(筆者作成)
(筆者作成)

 如何だろう。本塁打数や打点は試合数が多い方が有利になってしまうので、あくまで参考程度に留めてほしいのだが、第1回大会の侍ジャパンはチーム打率が1位、長打率も3位の強豪打線だったのだ。

 第2回大会以降も決して悪い打線ではなかったが、それでも第1回大会と比較すれば、やや見落とりしてしまう数字だ。

【投手成績があまり振るわなかった第3、4回大会】

 次に過去の侍ジャパンの投手成績を比較してみたい。今度はチーム防御率、被打率、奪三振数、WHIP(1ニング当たりの被安打+与四球数)を表にまとめてみた。同じく括弧内は大会参加チーム内の順位だ。

(筆者作成)
(筆者作成)

 第1回大会の投手成績は、打撃成績ほど抜きんでていなかったのが理解できるだろう。一方で、打撃成績が振るわなかった第2回大会では、しっかり投手陣が奮起してその穴を埋め、連覇を達成していたことが窺い知れる。

 つまりスモールベースボールを遺憾なく発揮してWBCに優勝したのは、第2回大会のみといっていいのではないだろうか。

 逆に第3、4回大会に関しては、投手陣が期待通りの成績を残すことができず、優勝を逃してしまったように思える。

【投打ともに史上最高のチーム成績を残している今大会】

 そうした状況を踏まえた上で、今大会の侍ジャパンのチーム成績を見てほしい。彼らは、ここまで第1回大会を上回るペースで長打を打ち続け、第2回大会を上回るペースで好投を演じ続けているのだ。

 これだけ投打ともに充実した戦いを繰り広げているからこそ、圧倒的な試合展開で1次ラウンドを突破できたというわけだ。

 こうしてチーム成績を比較してみて、今大会の侍ジャパンが史上最強だと言われる所以をデータ上で確認することができたのではないだろうか。

 そして改めて実感できることは、1次ラウンドで一大センセーションを巻き起こしたラーズ・ヌートバー選手の招集を決め、自ら米国に足を運んでダルビッシュ有投手と大谷翔平選手をWBC参戦に導いた、栗山監督の手腕と功績だ。

 まさに上記3選手が、今大会の侍ジャパンに勢いをもたらし、選手全員が気負うことなくWBCを満喫する雰囲気づくりを醸成しているのは明らかだ。

 準備期間がほぼ1年しかなかった中で重責を引き受けてくれた栗山監督に、NPBは感謝し尽くせないのではないか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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