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波乱続きのWBCグループAから読み解くべき確実に進行し続けるMLBによる寡占化

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
予想外の苦戦を強いられているキューバ代表チーム(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【波乱含みのスタートになった台湾開催のグループA】

 侍ジャパンが第1次ラウンド初戦となった中国代表戦に8対1で快勝し、順調な滑り出しをする中、台湾で開催されているグループAは開幕から波乱含みの展開になっているのをご存知だろうか。

米オッズメーカーの予想ではグループAの中で1番人気だったキューバ代表が、初戦のオランダ代表戦に2対4で敗れ、続くイタリア代表戦にも3対6で連敗を喫してしまったのだ。

 さらにオッズ3番人気だった台湾代表も地元開催でありながら、グループ内でオッズ人気最下位のパナマ代表に5対12で敗れるという波乱まで起きている。

 5チーム中上位2チームしかグループ突破できない中で、グループ突破の有力候補2チームが第1次ラウンドで姿を消す可能性が生じている。

【万全の準備をしていたはずのキューバ代表と台湾代表】

 キューバ代表と台湾代表は今大会に臨むにあたり、万全の準備をしてきたはずだった。

 キューバ代表は2月の段階で日本にやって来てキャンプを実施し、その後台湾に移動した後も強化試合を精力的にこなしていた。また台湾代表も地元開催だけあって早い時期からキャンプを行い、チームの結束力を高めて本番に臨んでいた。

 しかもキューバ代表は2018年にMLBとの業務提携が成立したことで、今大会からMLBに在籍している亡命選手を招集できるようになり、複数人の現役MLB選手をチームに迎え入れていた。

 にもかかわらずキューバ代表が敗れた2チームのうちイタリア代表は、過去4大会で第1次ラウンドを突破したのは第3回大会のみで、大会通算成績も4勝9敗と大きく負け越しているチームだ。

 さらに台湾代表が大敗したパナマ代表に至っては、第1、2回大会では1勝もできず第1次ラウンドで敗退し、第3、4回大会には予選を突破できず本戦に出場していなかったチームだ。つまり台湾代表は、パナマ代表にWBC初勝利を献上してしまったのだ。

 多少短絡的かもしれないが、グループAの状況を見ていると、代表チーム間の実力差が徐々に縮まっていると考えていいように思う。

【MLB契約下選手が圧倒的に少ないキューバ代表と台湾代表】

 というよりも、MLBによる寡占化が確実に進行し、他国リーグのレベルが低下しているという方が正しい表現なのかもしれない。

 まず下記の表をチェックしてほしい。グループAに入っている5つの代表チームの選手構成を比較したものだが、実はイタリア代表とパナマ代表には過半数以上の選手がMLBチームの契約下にある選手たちなのだ(もちろんマイナー契約も含む)。予備登録選手は除外している。

(筆者作成)
(筆者作成)

 さらにメジャーの公式戦に出場可能な26人枠に入れる条件である40人枠に入っている選手を見ても、イタリア代表、パナマ代表、オランダ代表が拮抗しているのが分かるだろう。そしてこれら3チームは第1次ラウンドで、まずまずの戦いを繰り広げているのだ。

 一方キューバ代表はMLB契約下選手が6人で、40人枠選手が2人しかおらず、台湾代表もMLB契約下選手はたった2人で、40人枠選手はゼロという状況だ。

 念のため説明しておくと、台湾代表にはNPBに在籍している選手が含まれているし、元々MLBと契約していた選手もいる。あくまで現時点でMLB契約下にある選手の数だ。

 ちなみにグループBでも、侍ジャパンに続きオッズ2番人気だった韓国代表がオーストラリア代表に敗れてしまったが、オーストラリア代表のMLB契約下選手が11人(40人枠入りはゼロ)なのに対し、韓国代表は2人(いずれも40人枠入り)だったことも付け加えておきたい。

【MLBによる寡占化で弱体化したキューバと台湾の国内リーグ】

 これが何を物語っているかといえば、キューバと台湾は実力派選手や若手有望選手をMLBに引き抜かれ続けたため、国内リーグのレベルが下がってしまったと考えられる。

 例えばメキシカンリーグを考えてほしい。1980年代にフェルナンド・バレンズエラ投手がMLBで一大センセーションを巻き起こし、それを機にメキシコ人選手たちが大量にMLBに流出し続けたため、現在のメキシカンリーグは3Aと同等の扱いをされ、MLBの下部リーグ的な存在になってしまっている。

 現在の台湾やキューバは、かつてのメキシカンリーグの道を歩んでいるように見えて仕方がない。

 現在NPBとKBOはMLBとの間でポスティングシステムに合意しており、若手有望選手の大量流出を阻止できているが、それでもスター選手やスター候補選手たちが確実にMLBに引き抜かれている。

 MLBの立場からすれば、WBCは世界中の有望選手を見極める格好のショーケースなのだ。今回も佐々木朗希投手、山本由伸投手、村上宗隆選手らを米国にお披露目する最高の機会になっていることを忘れてはならない。

 NPBは何の危機感も抱かず、このままMLBに加担し続けるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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