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オープン戦起用法に変化が!170キロ右腕ベン・ジョイスの開幕メジャー入りが期待され始めたワケ

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
開幕メジャー入りの可能性が出てきたベン・ジョイス投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【招待選手のジョイス投手が2番手で登板した意味】

 大谷翔平選手がWBC参戦のため日本に一時帰国し、さらに数日中にマイク・トラウト選手ら主力組数選手もWBCのためキャンプ地を離れることもあり、当面の間日本では、エンジェルスの動向に注目が集まりにくくなりそうな気配だ。

 だがここに来て、プロ2年目で招待選手としてメジャーキャンプに参加している22歳右腕投手に、開幕メジャー入りの可能性が出てきたようだ。

 昨年エンジェルスからドラフト3巡目指名されたベン・ジョイス投手が現地時間の3月2日に行われたロイヤルズ戦に2番手で登板し、2四球を与えながらも1回を無失点で切り抜けた。

 すでに同投手は2月26日のホワイトソックス戦でオープン戦デビューを飾り、1回無失点2奪三振の好投を演じており、今更驚く必要はないと思われるかもしれない。

 だが注目すべき点は、起用された順番なのだ。ホワイトソックス戦では6番手で7回に登板していたのに対し、今回は2番手で3回に登板している。これはエンジェルスル首脳陣の中で、ジョイス投手を主力組に入れられるのではという考えが芽生え始めたことを示唆しているためだ。

【基本的に開幕メジャー入りとは無縁の若手招待選手】

 その理由を説明しよう。

 基本的にMLBのスプリングトレーニングでは、メジャーキャンプに参加できるのは40人枠に入っている選手だけで、それ以外の選手たちは招待選手として参加することになる。

 招待選手は大きく2つに分類され、過去にメジャー経験を有するベテラン選手たちと、将来を見据えてメジャーキャンプを経験させておきたい若手有望選手たちだ。もちろんジョイス投手は後者に属する選手だ。

 ベテラン選手たちはチームからもシーズン中の戦力だと考えられており、スプリングトレーニングでも開幕メジャー入りを狙う立場だ。オープン戦でも主力組とほぼ同様の扱いを受け、多くの出場機会を与えられる。

 その典型的な例が川﨑宗則選手だ。彼はマリナーズ、ブルージェイズ、カブスのスプリングトレーニングで招待選手としてメジャーキャンプに参加し(2013年だけは契約が遅れマイナーキャンプからのスタートだった)、ギリギリまで開幕メジャー入りを争っている。

 一方で若手の招待選手たちは、あくまで将来を嘱望された選手たちであり、彼らをメジャーキャンプに参加させる目的の1つは、オープン戦の補充要員として起用したいからだ。

【起用法変更で推し量れるエンジェルス首脳陣の期待度】

 あくまで調整目的のオープン戦では、開幕から2週間程度までは野手、投手ともに主力組の出場イニングが短くなってしまう。彼らが退いた後で試合に出場するのが若手の招待選手たちであり、主力組から外れている40人枠の選手たちだ。

 そして主力組の出場イニングが増え始める頃になると、マイナーキャンプが本格的に始動し、そちらのオープン戦も始まるので、メジャーで出場機会が与えられない若手の招待選手たちは次々にマイナーに降格していくことになる。

 オープン戦初登板でジョイス投手が6番手で起用されていたのも、明らかに若手招待選手として扱われていたからだ。その時点では首脳陣も、ジョイス投手の開幕メジャー入りなど本気で考えていなかっただろう。

 ところが登板2試合目になって、いきなり2番手で起用されたのだ。もちろん対戦した打者たちは、ロイヤルズの主力選手ばかりだった。どこまで彼の投球がメジャーレベルで通用するのかを首脳陣が見極めたかったからだと考えるべきだろう。

 この起用法変更から、ジョイス投手に対する首脳陣の期待度を推し量ることができるわけだ。

 ただし通常のMLBの育成方針なら、単に若手招待選手というだけでなく、まだシーズンを通してプロで投げていない投手をいきなりメジャーに昇格させるようなリスクを避けるのが一般的な考え方だ。

【昨年5月に大学野球史上最速の時速170キロを計測】

 ジョイス投手に関しては、すでに日本のメディアでもその存在が紹介されているので、ご存知の方もおられるだろう。

 改めて彼の経歴を紹介しておくと、テネシー大学時代の2022年5月に、大学野球史上最速の105.5マイル(約170キロ)を計測し、一気に注目を集めることになった豪腕投手だ。

 昨年6月に実施された全米大学選手権でも100マイル以上の速球を連発し、NCAA(全米大学体育協会)のYouTube公式アカウントでも、彼の剛速球を集めた動画を公開しているほどだ。

 この動画では自己最速に迫る球速こそ計測していないものの、102~103マイルを連発しており、その豪腕ぶりを確認することができる。

 そして前述通り、7月にエンジェスルにドラフト指名され、指名直後の選手としては異例ともいえる2Aに配属。13試合に登板し、1勝0敗、防御率2.08、20奪三振の好成績を残し、晴れて招待選手としてメジャーキャンプに招集されたわけだ。

【審判歴23年のベテラン審判をも驚かせたオープン戦デビュー】

 首脳陣の考えを変えるきっかけになったのは、オープン戦初登板だったのではないだろうか。

 オープン戦初登板を果たした試合後に、フィル・ネビン監督はジョイス投手について以下のように話している。

 「イニングの合間に審判から滅多に話しかけてくることはないが、(ジョイス投手の登板が終わった後に)主審が自分のところに来て、『何だ、あれは?』と声をかけてきたよ」

 ちなみにその試合で主審を務めていたのは、メジャー審判歴23年を誇るアルフォンソ・マルケス氏だ。彼のように数々の豪腕投手を目撃してきたベテラン審判でさえも衝撃を受けるような投球だったのだから、首脳陣が心を揺り動かされても仕方がないところだろう。

【エンジェルス中継ぎ陣に不足している豪腕投手】

 今オフは大幅な補強を断行しかなりの戦力アップに成功したエンジェルスだが、それでも不安視されているのがリリーフ陣だ。

 昨シーズンのチーム防御率は4.25とMLB全体で8位にランクされているが、リリーフ陣だけでみると4.65に悪化し、13位に順位を下げている。それだけリリーフ陣が安定していなかったわけだ。

 特に昨シーズン途中でライセル・イグレシアス投手をトレードで放出し、残りシーズンをクローザー不在の状態で戦い続けたのも大きく影響していたはずだ。

 そのためペリー・ミナシアンGMは、クローザー候補としてカルロス・エステベス投手を獲得しているのだが、これまでの経歴で同投手がシーズンを通してクローザーを任されたことはなく、経験不足は否めない。

 さらにリリーフ陣の中で、速球派に分類される投手がエステベス投手(MLB公式サイトによると昨シーズンの速球平均球速は97.5マイル)くらいしか見当たらず、全体的なパワー不足は明らかだ。つまりパワーで打者をねじ伏せられるジョイス投手は、エンジェルスにとって喉から手が出るほど欲しい人材なのだ。

 MLB公式サイトに掲載されている開幕ロースター予想には、当然のごとくジョイス投手の名前は含まれていないし、誰もが納得できる予想だ。ただ今後も引き続きジョイス投手の起用法を確認していく必要があるものの、彼の開幕メジャー入りの可能性を否定できない状況になっているように思う。

 また開幕メジャー入りが実現しなかったとしても、今回の起用法変更を見る限り、首脳陣がジョイス投手に対し近い将来メジャーの戦力になり得ると考え出していることだけは確かだ。

 果たしてジョイス投手は、リリーフ陣の救世主になれるだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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