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球界屈指の小規模市場チームがヤンキースやメッツと真っ向勝負を続けるパドレス・オーナーの常識破りな挑戦

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
2020年に会長職に就任して以来大型補強を続けるサイドラー・オーナー(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【オプトアウト権行使を宣言していたマチャド選手が契約延長に合意】

 米メディアが現地時間の2月26日に報じたところでは、今シーズン終了後に自身が有しているオプトアウト権を行使しFAになる意向を示していたマニー・マチャド選手が考えを一変させ、パドレスと11年総額3億5000万ドルで契約延長に合意した模様だ。

 現時点でパドレスから正式発表されてはいないが、MLB公式サイトがマチャド選手を直撃したところ、契約延長合意について明言は避けながらも「良い日だ。だが数日後にもっと良くなるだろう」と語り、近日中に正式発表される見通しを匂わせる発言をしている。

 契約延長による年俸総額としては、マイク・トラウト選手(4億2650万ドル)、ムーキー・ベッツ選手(3億6500万ドル)に次ぐ史上3位の大型契約となった。

 米メディアによると、今回の契約にはトレード拒否権が付帯される一方でオプトアウト権は含まれておらず、順調にいけばマチャド選手は41歳で迎える2033年シーズンまでパドレスに在籍することになる。

【交渉期限日以降も契約延長を模索していたパドレス】

 2019年(2018年オフ)に10年総額3億ドルでパドレスと契約したマチャド選手は、2023年シーズン終了後に契約解除しFAになれるオプトアウト権を有していた。

 さらにパドレスとの間でオプトアウト権行使前の契約延長交渉期限を今年の2月16日に設定していたため、それまでに合意できなかったマチャド選手が、オプトアウト権の行使を口にしていたわけだ。

 だがパドレスのピーター・サイドラー・オーナーは今月21日に「マニーは自分にとって最優先事項だ」と語り、交渉期限日以降もマチャド選手と交渉を続けていることを示唆していた。

 マチャド選手も米メディアに対し「ピーターは有言実行の男だ(a man of his word)」と信頼の言葉を口にしており、そんなサイドラー・オーナーの熱意が伝わったことで今回の合意に至ったようだ。

【今オフも積極補強の姿勢を崩さなかったパドレス】

 昨シーズンはチーム2度目のワールドシリーズ進出を果たした1998年以来となるナ・リーグ優勝決定シリーズに進出したパドレスだったが、今オフも更なるチーム強化を目指し積極補強を断行した。

 現在禁止薬物の使用でMLBから出場停止処分を受けているフェルナンド・タティスJr.選手を外野手にコンバートし、彼に代わる遊撃手としてザンダー・ボガーツ選手と11年総額2億8000万ドルの大型契約で獲得することに成功。

 それ以降もFA市場からマット・カーペンター選手、セス・ルーゴ投手、ネルソン・クルーズ選手、マイケル・ワカ投手と、実績あるFA選手を次々に補強している。

 さらに昨シーズン所属していたニック・マルティネス投手、ロベルト・スアレス投手とオフシーズン早々に再契約したほか、今月になってダルビッシュ有投手と6年総額1億800万ドルで契約延長を結ぶなど、オフシーズンを通じて惜しむことなく大量の資金を投入してきた。

【MLBの常識を覆し続けるサイドラー・オーナー】

 今オフはチームの年俸総額がMLB史上初めて3億ドルを超える大型補強を断行したメッツのスティーブ・コーヘン・オーナーの存在が目立っていたが、そんなメッツに対抗するような補強を続けてきたのがパドレスのサイドラー・オーナーだった。

 コーヘン・オーナーに関しては「MLBで最も裕福なオーナー」として知られるとともに、米国最大の市場規模を誇るニューヨークを拠点にしており、ある意味で大型補強できる環境が整っていた。

 一方のサイドラー・オーナーの場合は、かなり事情が違ってくる。糧は元々、叔父でありドジャースの元オーナーでもあるピーター・オマリー氏らと「オマリー・グループ」を設立し、2012年にパドレス買収に成功。その後2020年に会長職に就任し、以降チーム経営を担ってきた人物だ。

 市場規模もニューヨークとは違い、サンディエゴはMLBの中でも小規模マーケットと認知されているにもかかわらず、今シーズンの年俸総額はメッツ(3億5500万ドル)、ヤンキース(2億7700万ドル)に次ぐ2億6200万ドルに上り、今シーズンのぜいたく税限度額(2億3300万ドル)を大幅に超えている状況だ。

 ちなみに2021年のチーム別収益額を見てみると、パドレスはリーグ15位の2億8200万ドルでしかない。(資料元:「statista」)

 こうした小規模マーケットを本拠地にするチーム経営の常識を覆すような大型投資を続けるサイドラー・オーナーに対し、ロブ・マンフレッド・コミッショナーから「(大型投資は)歓迎するが、どこまで続けられるのか」と危惧される他、ロッキーズのディック・モンフォート・オーナーにも「パドレスのやり方に100%同意しない。どのように作用するのか見守りたい」と懐疑的な見方をされている。

【ファンは明らかにサイドラー・オーナーを支持】

 周囲からそうした懐疑的な見方をされながらも、サイドラー・オーナーは「サンディエゴ市民に優勝を届けたい」という強い信念の下、今後もチーム強化のためなら継続して資金投入していく姿勢を明らかにしている。

 そんなサイドラー・オーナーの姿勢は、間違いなくファンから支持されているようだ。2021年シーズンは2万7061人だった平均観客動員数が、昨シーズンは3万6931人まで跳ね上がっており、ファンもチーム史上初のワールドシリーズ制覇に期待を寄せている。

 公言していた通りマチャド選手との契約延長に成功したサイドラー・オーナーの次なる目標は、フアン・ソト選手との契約延長だとされ、メディアの間では今回のマチャド選手の契約内容を上回るとの声も挙がっている。

 サイドラー・オーナーの常識破りの挑戦は、まだまだ続いていくことになりそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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