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マイク・トラウトの言葉から読み解くMLB選手たちが考えるWBCの価値観と大会に臨む姿勢

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
オンライン会見でWBC初出場の思いを語ったマイク・トラウト選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【WBC初出場の思いを語ったマイク・トラウト選手】

 すでに日本でも報じられているように、今年3月に開催される第5回WBCに初参戦を表明し、連覇を目指す米国代表のキャプテンを務めるマイク・トラウト選手が、現地時間の1月20日にオンライン会見に応じ、WBCへの思いを語ってくれた。

 MLB屈指のスター選手がようやくWBC参戦を決めた経緯を本人の口から聞きたかったこともあり、筆者も日本の深夜4時スタートながらコンピュータの前に座ってトラウト選手の発言に耳を傾けた。

 すでに彼の発言については各所で報じられているものの、改めて筆者なりの視点でトラウト選手の発言を考えてみたいと思う。

【第4回大会の米代表勝利を機にWBCへの考えが変化】

 今回トラウト選手がWBC出場を決断した背景にあったのが、2017年に開催された第4回大会を欠場したことだった。彼は以下のように説明している。

 「前回大会は出場するか、欠場するかを悩んだ末に欠場することを決断したのだが、(米国代表の)試合を観戦しながら、出場しなかったことを後悔するようになっていた。

 画面越しからも彼らが楽しそうにプレーしているのが分かったし、彼らが優勝を喜んでいる姿を見て、自分もチームの一員になりたかったと感じた。

 また大会が終わった後にも多くの人たちから、『君は出場すべきだった』とか『本当に楽しい時間だった』という話を聞いていた。

 今回トニー(・リーギンス米代表チームGM)が僕のところに来て出場要請を受け、家族とも話し合った結果、今回は自分が出場するべき時だと判断した」

 トラウト選手の言葉から理解できるように、第4回大会で米国代表が優勝する姿を目の当たりにして、彼の中で明らかにWBCに対する考えが間違いなく変化していたようだ。

【現在のMLB選手たちが抱くWBCの価値観】

 2017年当時のトラウト選手は前年に自身3度目のMVPを受賞し、すでにMLBを代表するスーパースターになっていた。もちろん当時米代表チームに加わっていたとしても、間違いなく中心選手になっていたはずだ。

 だが第5回大会を迎えるトラウト選手は、前回の時とはかなり事情が違っている。ここ2シーズンは故障を繰り返し、155試合の出場に止まっているからだ。

 ただ昨シーズンに関しては、背中の故障から復帰して以降OPS1.056を記録するなど、往年の打撃を披露することに成功している。それでも今シーズンに完全復活を目指すことを考えれば、リスクの高いWBCには参加せずスプリングトレーニングでシーズン開幕の準備を進めたいところだ。多分第4回大会前のトラウト選手なら、そう考えていたのはないだろうか。

 しかもトラウト選手の米代表入りが正式発表された際も、彼は背中の負傷で負傷者リストに入りオールスター戦を欠場していた。にもかかわらずリーギンスGMの出場要請を承諾したのは、それだけWBCへの思いが強くなっていた証だろう。

 正式発表後は「多くの選手たちと連絡を取り合った」と話しているように、ブライス・ハーパー選手を皮切りにWBCについて話し合いを行っており、その結果多くのスター選手たちがトラウト選手に呼応し、次々に参加表明している。

 それこそトラウト選手が「普段対戦している選手たちと国を代表して戦うのは新鮮な体験だ」と代弁しているように、現在のMLB選手がWBCに参加するだけの価値を抱くようになっているからこそ、多くのスター選手たちがトラウト選手と一緒に戦いたいと思ったのだろう。

【MLB選手たちのWBCに臨む姿勢は今も変わらない?】

 さらにトラウト選手は日本メディアが報じているように、「(WBCがどんな性質のものであれ)自分が米代表に参加する目的は勝つことだ。他チームの選手と一緒に戦うとか他の要素も素晴らしいものだが、自分は要請を受けた時から勝つことだけを考えているし、それができなければ失敗だと思っている」と、WBCに対する熱い思いを口にしている。

 だがその一方で、WBCに参加するために何か特別なことをしようなどとは考えていないし、「自分にとってすべてが新しいことだ」という言葉を繰り返し、ぶっつけ本番で臨むことを明らかにしている。

 WBCまでの調整に関しても、エンジェルスのスプリングトレーニングの中で行っていく予定だし、米代表の活動もMLBが発表したスケジュールに従う予定だ。

 しかもトラウト選手は、これまでWBCに関する情報を集めるようなことはしていないし、「MLBのようなスカウティングレポートを得られないだろうし、中にはまったく情報がない選手もいるだろう。それでも与えられた情報だけで戦っていくしかない」とも話している。

 これは2006年に開催された第1回WBCに参加したMLB選手の姿勢と何ら変わりはない。つまり大会を重ねるに連れ、MLB選手たちの中でWBCに対する価値観は変わってきているものの、だからと言ってWBCに臨む姿勢は一向に変わっていないということだ。

【勝利のみならず普段味わえない国別対抗戦を満喫したい】

 トラウト選手は今回の会見の中で、「I’m looking forward to it.(心待ちにしている)」と「It`s gonna be fun.(楽しいだろう)」という言葉を何度も繰り返していた。

 前述したように、トラウト選手は今大会で連覇を目指している、それは出場する大会に勝ちたいという、アスリートとしてのサガといっていい。だがMLB選手たちの究極の目標は、まったくブレることなくポストシーズン進出であり、ワールドシリーズ制覇なのだ。

 改めてトラウト選手の言葉を聞き、勝つことと同時に普段味わえない国別対抗戦というWBCを満喫したいというのが、現在のMLB選手たちが希求するWBCなのだと確認できた思いだ。

 これまで全大会を侍ジャパン以外のチームを中心に現場取材してきた立場からすると、ダルビッシュ有投手がつい先日TV番組で発言していたように、侍ジャパンもあまり気負い込むことなく、WBCを満喫する姿勢を持った方がいいと感じるのだが…。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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