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吉田正尚がオリックス選手として最後に語った言葉とMLB移籍後もまったくブレない姿勢

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
オリックス選手として最後の記者会見に臨む吉田正尚選手(筆者撮影)

【オリックス選手として最後の記者会見に臨んだ吉田選手】

 すでに各所で報じられているように、オリックスからポスティングシステムでのMLB移籍を容認され、無事にレッドソックスと正式契約を結んだ吉田正尚選手が12月22日、オリックスの選手として最後の記者会見に臨んだ。

 会見ではメディアの質問に丁寧に応じてくれた吉田選手は、ポスティング申請初日に契約できたことが想定外だったこと、さらに日本人野手として最高額の契約を勝ちとったことへの思いなどを明らかにしれくれた。

 ここ数年MLB挑戦している日本人野手たちが苦戦を強いられる中、すでに米国で「Contact King(コンタクトキング)」という異名を冠された吉田選手。その契約内容を含め周囲の期待値が高まる中で、MLB1年目のシーズンを迎えることになりそうだ。

【「予定のスケジュールとは大分違っていた」電撃合意の舞台裏】

 これまで2000年のイチロー選手を皮切りに、ルール変更を重ねながらも成立、不成立を含め計30人の日本人選手がポスティングシステムを利用してきたが、MLBに申請後24時間以内に契約が合意した選手は、後にも先にも吉田選手が初めてのことだ。あまりに電撃的な契約合意に、米国メディアも衝撃的に報じていたほどだ。

 だが驚いていたのはメディアばかりではなく、当の吉田選手も同様だったようだ。「予定のスケジュールとは大分違っていたんですけど」と明かした上で、以下のように契約合意までの舞台裏を説明してくれた。

 「朝起きたらいっぱい着信が入っていて、折り返したら(エージェントの)ボラスさんで、『これいく。どうだ?!』と言われました。

 自分の中では(交渉段階で)10がマックスだとしたら2くらいのところかなと思っていたので、スタート1日目だったのでビックリしましたけど、これもご縁なのかと思い、自分で決断しました」

 実は吉田投手もボラス氏からの連絡を受けるまでは、45日間という交渉期間内で少しずつ交渉が進んでいくものだと考えていたようだ。ところがレッドソックスから素晴らしいオファーが届き、本人も納得するかたちでスピード合意できたという。

会見終了後に福良淳一GMから花束を受け取る吉田正尚選手(筆者撮影)
会見終了後に福良淳一GMから花束を受け取る吉田正尚選手(筆者撮影)

【3年前から吉田投手の調査を続けていたレッドソックス】

 前述通りレッドソックスは吉田選手に対し、日本人野手最高額となる5年総額9000万ドルのオファーを提示した。

 ただ米国ではそういう見方をせず、オリックスに支払われることになる譲渡金(1540万ドル)を含めた額をレッドソックスの投資額と考える傾向があり、今回もレッドソックスが、吉田選手に1億ドル以上を投資したと報じるメディアが多い。

 今オフはアーロン・ジャッジ選手などの大型契約が飛び交う中、全体的に見れば吉田選手の契約内容は決して大きな額ではない。だが今オフはどちらかと言うと選手補強に消極的に見えるレッドソックスが、ここまで最大の契約内容で迎え入れたのが吉田選手だった。

 吉田選手もレッドソックスと契約できた要因は、レッドソックスから「一番良い評価をしていただいた」と明かしている。さらにボストン入りしてチーム関係者と言葉を交わしてみて、チームの熱意をヒシヒシと感じることができたようだ。

 「現地に入ってスカウトの人たち、編成の方たちと話をして、『3年近く前からずっと見ていた』という言葉もありましたし、ずっと追いかけて見てくれていたんだなというのを感じました」

 今オフのレッドソックスにとって、吉田選手が最重要ターゲットの1人だったことは間違いないだろう。

【MLB1年目から主軸を担うことになる厳しい立ち位置】

 これまでMLBにおけるNPB出身の日本人選手の評価は、その時に在籍する選手たちの活躍で浮き沈みを繰り返してきた。1995年に野茂英雄投手がドジャースでセンセーショナルなデビューを飾ると、他チームは争って日本人投手の獲得に動き、2001年にイチロー選手がマリナーズで同じくフィーバーを巻き起こす活躍をすれば、一気に日本人野手に注目が集まるようになった。

 その一方で、前評判通りの活躍ができなかった選手が現れると一転評価が厳しくなり、契約内容にも反映されるという傾向で推移してきた。

 それを考えると、ここ数年筒香嘉智選手、秋山翔吾選手、鈴木誠也選手たちがMLBで苦戦続きだったことを考えると、むしろ吉田選手の評価が下がってもおかしくないところだが、レッドソックスはブレることなく破格の契約内容で迎え入れたわけだ。

 またレッドソックスは、昨シーズンまでの主軸打者だったサンダー・ボガーツ選手、JD・マルティネス選手を失い、ここまで補強した主な野手は吉田選手以外、ジャスティン・ターナー選手(正式発表前)のみという状況だ。

 言うまでもなく、来シーズンの吉田選手はすでにチームの主軸打者だと考えられているし、期待通りの活躍を求められている。

 そうした大きな期待は活躍できなければ徐々に批判へと変わり、選手たちを苦しめることになる。これまで多くの日本人選手たちを現場取材してきた中で

そうしたメディアやファンの変貌を何度も目撃してきた。

 それだけ吉田選手が受けるプレッシャーは、ハンパなものではないのだ。

【吉田選手「フィーリングや感性を大事にしながらMLBに対応したい」】

 だからと言って、吉田選手がこれまでの姿勢を崩すつもりは毛頭なさそうだ。

 「契約に関しては自分が勝ちとったとは思っていないので、エージェントの方との出会いだったり、その方たちのお陰だと思っていますので、得られた契約の中で自分のパフォーマンスを最大限に出すしかないと思っています。

 来年からメジャーはルールが変わりますし、守備位置の変更だったり、その中で(吉田選手の特徴である)出塁率、コンタクトを重要視しているチームがたくさんあると聞いています。

 自分はプロに入ってからずっと三振数よりフォアボール数を増やしたい、三振をしたくないということを変わらず言ってきたことなので、それを引き続き頭に置いてプレーしていきますけど、その中で感じるフィーリングだったり、感性を言うのを大事にしながらメジャーに対応していければと思います」

 その上で吉田選手は、来シーズンの成功の秘訣を「早く慣れることが大事」だと説明する。

 「今まで対戦したことがないピッチャーばかりなので、純粋にどんな球を投げるのかなという気持ちでいます」

 果たして吉田選手はMLBでも「コンタクトキング」に相応しいバッティングを披露できるのか。彼の活躍次第で、これまでNPBで本塁打を量産していなくても、出塁率が高い打者ならMLBで通用するという新たな評価を生み出すことになるだろう。

 オリックス時代でも経験を重ねながら確実に成長を遂げた吉田選手の適応力に注目していきたい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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