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39歳でサイヤング賞を満票受賞したジャスティン・バーランダーがMLB最後の300勝到達投手になる?!

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
史上4番目の高齢記録でサイヤング賞を受賞したジャスティン・バーランダー投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【バーランダー投手が史上4番目の高齢記録でサイヤング賞を受賞】

 全米野球記者協会(BBWAA)は現地時間の11月16日、両リーグのサイヤング賞受賞者を発表し、ナ・リーグがマーリンズのサンディ・アルカンタラ投手、ア・リーグがアストロズのジャスティン・バーランダー投手がそれぞれ受賞した。

 両選手ともシーズン中から同賞の最有力候補と言われており、両選手ともに満票を獲得して文句なしの受賞となった。

 バーランダー投手は39歳での受賞となったが、MLB公式サイトのサラ・ラングス記者によると、39歳227日での受賞は、ロジャー・クレメンス投手(42歳60日)、ゲイロード・ペリー投手(40歳17日)、アーリー・ウィン投手(39歳267日)に次いで、史上4番目の高齢記録だという。

【歴代の高齢サイヤング賞受賞投手は全員通算300勝を達成】

ラングス記者が公開した記事によれば、この4選手の他に39歳以上でサイヤング賞を受賞した投手は2人存在し、1人がクレメンス投手(39歳64日)、もう1人がランディ・ジョンソン投手(39歳19日)ということだ。

 つまりクレメンス投手は、39歳以上でサイヤング賞を2度受賞している強者だったのだ。やはり彼が殿堂入りしていないのは違和感しかない(それは今回の主旨ではないのでここまでにしておく)。

 ただこのリストを見て別の興味が湧いてきたのが。ここに登場するバーランダー投手以外の全投手が通算300勝を達成しているということだ。

 今シーズン途中に一部の米メディアの間で、「今後MLBに300勝投手が誕生するか?」という議論がなされ、バーランダー投手やシャーザー投手の名前が挙がり、個人的に興味を持ち続けていたのだが、改めて高齢サイヤング賞受賞投手の推移を見てみると、バーランダー投手は十分にチャンスがありそうなのが確認できた。

【今やMLBでも300勝達成は夢物語の世界に】

 実はMLBで最後に300勝を達成したのは、2009年のジョンソン投手まで遡らねばならない。

 それこそ1990年代までは、殿堂入りの大きな指標として「打者は3000安打、投手は300勝」と言われていたほど、300勝達成は決して難しいものではなかった。

 だが現在(ほぼ2010年代に入ってから)は、ポストシーズンに入ってもパフォーマンスが落ちないように先発投手の起用が変化し、ローテーションの核をなす投手でも30~33試合程度の登板に抑える傾向が一般化している(2000年代まではエース投手が34~36試合登板するのが当たり前だった)。

 それだけ現在の先発投手は登板試合数が全体に減少するとともに、パワー重視の傾向が強くなり故障のリスクも上がっており、安定して勝利数を積み上げていくのが難しくなっている。

 それを物語るように、今シーズン終了時点で現役投手の最多勝はバーランダー投手の244勝なのだが、2位以降はザック・グリンキー投手(38歳)の233勝、マックス・シャーザー投手(37歳)の201勝、クレイトン・カーショー投手(34歳)の197勝、アダム・ウェインライト投手(40歳)の195勝となっている。

 グリンキー投手の最近の投球を見る限り明らかにピークを過ぎている感があり、シャーザー投手はここ数年度々故障を起こすようになっている。ウェインライト投手は来シーズン限りでの現役引退を表明しているし、年齢的に一番可能性がありそうなカーショー投手も、ここ最近は毎年現役引退を示唆しているような状況だ。

 ちなみに2011年以降で複数回にわたりシーズン20勝を達成している投手は、奇しくもバーランダー投手、シャーザー投手、カーショー投手の3人だけなのだ。

 最早MLBで300勝達成は、夢物語に近い世界になっているのだ。

【ジョンソン投手はサイヤング賞受賞後に79勝を上乗せ】

 そこで改めて前述した高齢サイヤング賞受賞投手に話を戻したい。

 彼らがサイヤング賞を受賞した時点での通算勝利数を見てみると、最高齢記録のクレメンス投手だけは2004年シーズン終了時で328勝を記録しており、すでに金字塔を達成しているのだが、それ以外の投手たちは全員サイヤング賞受賞時に300勝に到達していないのだ(39歳で受賞したクレメンス投手を含む)。

 具体的にサイヤング賞受賞時の通算勝利数を説明すると、ペリー投手が267勝、ウィン投手が271勝、クレメンス投手が280勝、ジョンソン投手が224勝だった。

 そして受賞後は、ペリー投手がさらに5年間現役を続け26勝を挙げ通算314勝を記録し、ウィン投手はさらに4年間投げ続け29勝を上乗せし通算300勝に到達している。

 クレメンス投手は前述した通り、さらにサイヤング賞を獲得するなど6年間現役を続け、74勝をマークし通算354勝を達成。ジョンソン投手に至っては彼らの中で最長の7年間現役を続け、79勝を上乗せし通算303勝を記録している。

 バーランダー投手もシーズン中に「投げられる限りは現役を続ける」と公言していることを考えると、やはり300勝達成を期待したいところだ。そしてバーランダー投手が、MLB史上最後の300勝到達賞になるのかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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